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コロナ禍で注目の「BCP」は、中小企業のリスク対策にどう役立つのか?【慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科教授・大林厚臣氏】<連載第1回>(全4回)

2021年 2月 8日

大林 厚臣(慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科 教授)
大林 厚臣(慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科 教授)

コロナ禍の影響であらゆる企業がリスク対策の重要性を実感するなか、リスクマネジメント手法の一つであるBCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)への関心も高まっています。BCPはなぜ中小企業にも欠かせないのか、リスク対策はどのように進めていくべきか、さらに現在のコロナ禍のような危機にはどう立ち向かっていけばいいのか──。リスクマネジメントや産業組織論を専門とする慶應義塾大学大学院の大林厚臣教授にお話を伺い、4回の連載記事で紹介します。

BCPとは、事業継続・早期復旧のための行動計画

台風、集中豪雨、地震といった自然災害、増加の一途を辿るサイバー犯罪、製品事故やブランド毀損、そして感染症……。企業を取り巻くリスクは近年さらに多様化し、その危険性も増大しています。BCPとはこうしたリスクが現実化した場合に、事業継続・早期復旧を実現するための行動計画です。

大林氏はこの「事業継続」の本質を、「事故・災害などのあらゆるリスクに対して、重要業務を継続させる、あるいは中断しても許容時間内に許容水準に回復させるための取り組み」と定義します。

「ある特定のリスクではなく“リスク全般”を対象としながら、優先順位の高い“重要業務”を”許容時間内に”、平時レベルではなく”許容水準にまで”回復させることがポイント。BCPのPは「Plan=計画」ですが、いったん計画を立てたら終わりではなく継続して改善することが重要、という意味で、BCM(Business Continuity Management/事業継続マネジメント)と表現する場合もあります」

中小企業にとって、なぜBCPが必要なのか

今回のコロナ禍においても、感染症を想定したBCPを準備していた電力、ガス、鉄道、スーパー、コンビニエンスストアなどの企業は、社会インフラとしての機能を十分に維持できていたと大林氏。しかし、中小企業でBCPを策定しているところは、まだ一部に留まります。

「中小企業には、経営者の目が全社に行き届きやすいという強みがあります。経験を積んだリーダーがその場にいれば、BCPなしでもリスクに適切に対応できるケースもあるでしょう。しかし有事の際、リーダーが常に現場にいるとは限りません。そんな時にBCPが力を発揮します」

一例として、大林氏は東日本大震災で被災した社員50人ほどの金属加工メーカーを挙げました。

「震災発生当時、同社の社長は電話が通じないまま空港で機内に半日ほど足止めされました。しかし同社では、その3カ月前にBCPを策定済み。BCP通りに社員が行動した結果、社長が会社に連絡した時には、すでに被害が少なかった工場で代替生産の準備が進んでおり、事業への影響も最小限に抑えられました」

まずはできる範囲のリスク対策から

BCPを策定する過程で、今まで気づけなかったリスクを発見したり、優先すべき事業や守るべきリソースを再確認して平時の経営に役立てられるのもメリットです。さらに、事前に手を打っておくべき中小企業特有の理由もあるといいます。

「中小企業はいざという時に使えるリソースが限られがちです。そのため、生産設備に被害が出た際などに、自社だけで対応しようとするとコストや時間がかかる場合があります。他の企業と連携できるような準備を事前に進めておけば、影響も抑えやすくなるでしょう」

社内にBCPやリスク対策に詳しい人材がおらず、ノウハウもない、という中小企業の声は少なくありませんが、「最初からコストをかけて万全の計画を練るのではなく、重大で緊急度の高いリスクからできる範囲で対策を考え、その後徐々に対応できるリスクの幅を広げていく」という方法を大林氏は勧めています。連載第2回では、リスク対策の基本について紹介していきます。

連載「BCP策定の一歩を踏み出し、中小企業の基盤強化につなげてほしい」

大林 厚臣(おおばやし・あつおみ)
慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科 教授

1983年、京都大学法学部卒業。日本郵船株式会社を経て、1996年にシカゴ大学行政学博士号(Ph.D.)を取得。慶應義塾大学大学院経営管理研究科の専任講師、助教授を経て2006年より現職。2018年からは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)課題「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」評価委員長も務める。経済学、産業組織論、リスクマネジメントなどを専門とし、企業等の事業継続・防災評価検討委員会座長など多数の政府委員も歴任。

取材日:2020年12月10日