中小企業・小規模事業者によるカーボンニュートラルの取り組み事例

コロナ禍で再認識した“新しいことへ挑戦すること”の大切さ。ブライダル業として取り組む脱炭素経営の在り方とは:株式会社原田屋(山口県山口市)

2026年 1月 22日

企業データ

企業名
株式会社原田屋
Webサイト
設立
(創業)1923年
従業員数
40名
所在地
山口市小郡本町二丁目1番1号
業種
ブライダル業

同社は、2026年で創業103年を数える老舗ブライダル業として地元に親しまれてきた。山口県内で2つの結婚式場を運営する他、フォトウェディング、成人式や卒業式などで着用する衣装のレンタル事業を展開している。2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響で事業を取り巻く環境が一変する中、県内初のオンライン結婚式サービス(※1)を立ち上げるなど、逆境の中においても新たな取り組みにチャレンジを続けた同社。

県主催の脱炭素化経営セミナーへの参加をきっかけに本格的に脱炭素経営に着手。CO2排出量削減ロードマップにもとづき、様々な脱炭素への取り組みを行っている。

代表取締役 原田泰蔵氏にお話しを伺った。

(※1)オンライン結婚式の概要は以下webページを参照。
(カリヨン山口)https://www.carillon-yg.com/produce_case/online_wedding/

株式会社原田屋

[取り組みのきっかけ]
コロナ禍で再認識した“新しいことへ挑戦すること”の大切さ。
参加した山口県主催の脱炭素セミナーをきっかけに取り組みに着手

インタビューに答える代表取締役 原田泰蔵 氏
インタビューに答える代表取締役 原田泰蔵 氏

同社は創業から2026年で103年目を数え、山口県内でも指折りの老舗ブライダル業として地域で長きにわたり親しまれている。同社を取り巻く環境が大きく変わったのは、2020年に感染拡大した新型コロナウイルス感染症による外出自粛だ。結婚式の延期依頼の連絡が相次ぎ、経営状況に大きな影響を及ぼした。しかし、厳しい状況のなかでもあきらめることなく、“お客様の期待に応えたい”とのたぎる思いで懸命にできることを模索した結果、山口県内初となるオンライン結婚式を実現するに至った。

「私たちブライダル業にとってコロナ禍は大打撃でした。次々と結婚式開催見送りの連絡が押し寄せました。成すすべもなく時が過ぎる中、自社に出来ることは無いかどうか、思案のすえ、当時社会問題化していたマスクに着目しました。弊社には様々な生地がありましたので、婚礼衣装専門店ならではのオリジナルマスクを製作したのです。初めてオーダーが入った瞬間、これまで静まり返っていた事務所内に歓喜の声が上がりました。その時の感動は今でも鮮明に記憶しています。

一方、結婚式を見送ったお客様の経過を観察すると、キャンセルではなく『延期』を選択されたお客様がほとんどであることが分かりました。わたしたちは、これをお客様から弊社への期待、いつかかならず結婚式をさせて欲しいという強い願いと受け止め、それにお応えする方法は無いかどうか、検討を重ねた結果、『オンライン結婚式』にチャレンジすることを決めました。結婚式場で提供するフランス料理をゲストのご自宅に宅配できる仕組みや、ゲストが遠隔から参列して新郎新婦やゲスト同士でコミュニケーションが出来る仕組みを自社独自で開発しました。各所に光学ズームカメラを設置し、挙式・指輪交換・主賓スピーチ・余興等のハイライトシーンに、リモート参列者が『特等席』で参加できるよう、オンラインならではの付加価値も加えました。当社は時代の変化に合わせる形で事業を続けてきましたが、コロナ禍の経験から、“新しいことへ挑戦すること”の大切さを再確認することができました」(原田泰蔵氏)

脱炭素に関心をもつきっかけは、山口県が主催する「食品製造業向け脱炭素化経営セミナー(※2 以下、脱炭素セミナー)への参加だったという。

「当初、脱炭素セミナーの紹介を受けたときは自社にはあまり関係がない話だと思っていました。ただ、コロナ禍において、アナログ的要素の強いブライダルにデジタルの要素を掛け合わせたオンライン結婚式によってお困りごとを解決できた経験から、『異なるものの掛け算で革新が生まれる』ことを身に染みて実感していたため、何か経営のヒントを得られるのではないかと思い、脱炭素セミナーに参加することにしました」(原田泰蔵氏)

脱炭素セミナーに参加したところ、思わぬ気づきを得られたと原田氏は語る。

「セミナーで環境価値と経済価値を両立している企業事例を学びました。コスト削減と同時に、地球温暖化という社会課題の解決に取り組む姿勢に感銘を受けました。

ブライダルという『幸せをつくる仕事』は未来の社会を照らす希望の象徴と考えています。脱炭素への取り組みは子供たちが笑顔で暮らせる『明るい未来社会』につながると信じています。このような思いから、脱炭素経営への着手を決めました」(原田泰蔵氏)

コロナ禍で再確認した“新しいことに挑戦すること”の重要性。アンテナを高く張り、参加を決めた県の脱炭素セミナーで得た気づきを機に、脱炭素経営への一歩を踏み出した。

(※2)山口県中小企業団体中央会の以下webページを参照。
https://axis.or.jp/info/18197.html

[具体的な取り組み]
県の施策を活用し、CO2排出量の算定からロードマップ策定まで実施。
空調設備対策の他、フードマイレージ削減に向けた取り組みも

バイオエタノールを使用したファイヤーピット
バイオエタノールを使用したファイヤーピット

脱炭素セミナーに参加後、山口県の脱炭素化支援施策(※3)を活用し、コンサルティング支援を受けることとなった同社。県の施策により山口県中小企業団体中央会(以下、中央会)の支援を受け、CO2排出量の算定に始まりロードマップ・削減計画の策定まで行った。最初は専門用語の理解など大変だったが、進めていくうちに次第に慣れていったと原田氏は語る。

「慣れないうちは大変でしたが、ご支援いただくなかで理解を少しずつ深めました。ロードマップの策定を通じて、主要な排出源や対策を明確にすることができました。ロードマップとCO2排出量の実績を照らして、随時、行動計画の見直しを行っています。当社の場合、総排出量のうちScope2の割合が約9割を占め、そのなかでも空調設備の割合が約5割と多い状況です。そのため、空調設備を可能な範囲で省エネ型に切り替えた他、本店で集中制御するといった対策を講じた結果、本店と結婚式場2店舗の合計で2024年度のCO2排出量は2022年度比で約3割削減でき、想定以上の結果を得ることができました」
(原田泰蔵氏)

また、フードマイレージ(※4)削減に向け、地産地消を掲げた取り組みも行っている。

「ウェディングパーティーにはコース料理が欠かせません。地元山口の食材を活かすことで食材配送にかかる距離を短くし、結果としてCO2排出量を削減することに繋がっています。コース料理の他にも、ファイヤーピットにカーボンニュートラル燃料のバイオエタノールを使用したアルコールランプでマシュマロを焼くなど、ウェディングの価値を提供しつつ、社会課題解決に寄与出来るような商品化にも取り組んでいます」(原田泰蔵氏)

県主催の脱炭素セミナーへの参加をきっかけに、中央会の支援の下、CO2排出量を見える化しロードマップの策定まで行った同社。空調設備の対策を重点的に行い、想定以上のCO2排出量削減に成功。2024年には、ブライダル企業としては大変珍しい中小企業版SBT認証を取得し、今後は使用電力の再エネメニューへの切り替え、太陽光発電の導入も検討している。

(※3)山口県の以下webページを参照。
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/254/207218.html#prefecture

(※4)「食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせた指標」を指す。
(北陸農政局 企画調整室長 中田哲也氏「『フード・マイレージ』について」
平成20年9月30日、資料より引用)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/06/pdf/data2.pdf

[感じたメリット・課題]
光熱費の削減に加え、メディアを通じて知名度が向上。
金融機関から脱炭素経営を支援する融資を受けるメリットも

省エネ型の空調設備導入やエコ運転の実施、また本店での集中制御により電気使用量を減らした結果、光熱費を下げることに成功。CO2排出量削減の取り組みは結果としてコスト削減にもつながった。その他にもメディア媒体を介しての知名度向上や問い合わせの増加、金融機関から融資を受けるといったメリットもあったと原田氏は言う。

「ブライダル業界でカーボンニュートラルに積極的に取り組む企業は全国的に少なく、経営戦略として組み込んだ、弊社の一連の取り組みの斬新さについてもご評価を下さり、県内外で発表の機会も頂戴しました。これからの社会課題解決につながる、新たな生活文化の提案に向けて、ブライダル企業としての提案を続けて参ります」(原田泰蔵氏)

「当社がCO2削減目標ロードマップ策定や中小企業版SBT認証など、脱炭素に精力的に取り組んでいることを評価いただき、金融機関から脱炭素経営を支援する融資を受けました。受けた融資を有効に活用し、新しいチャレンジも色々と考えているところです」(原田泰蔵氏)

一方で、以下のような課題も感じている。

「弊社の脱炭素の取り組みがどのように環境価値につながっているのか、ウェディングを通して解決可能な社会課題とはどのようなものなのか、もっと分かり易く、一般向けに具体的に表現する必要があるように感じています。WEB等により、今後発信を強化したいと思います」(原田泰蔵氏)

[今後の展望]
地域に根差し、環境価値と経済価値の両立を達成したい

オンライン結婚式の展望についてお伺いすると、熱い思いをお話いただいた。

「オンライン結婚式は、当初は三密回避や行動制限を回避するための用途でしたが、今は海外や、療養中のゲストからのご利用が中心です。移動に伴うCO2削減はもとより、冷凍技術を使った調理法のため、閑散期に料理を仕込むことが出来、調理作業の分散化が可能です。業務の標準化や業務プロセスの改善、ひいては働き方改革にもつなげられます。お客様の思いを受け、時代変化に適応しつつ、進化させて行きたいと考えています」(原田泰蔵氏)

最後に、今後の脱炭素経営に向けた意気込みを語っていただいた。

「当社は、創業から今日まで、四代に亘り地域の皆さまに育てていただき、とりわけコロナ禍においては多くの温かなご支援を賜りました。その感謝を胸に、省エネルギー化や再生可能エネルギーの活用、地域循環型の取り組みを通じて、環境と経済の両立を目指してまいります。今後も地域とともに、持続可能な未来づくりに取り組んでいきたいと考えています」(原田泰蔵氏)

脱炭素を経営戦略の新たな活路として捉え、取り組みを続けてきた同社。
地域に根差した脱炭素経営を目指すストーリーは、山口の地で紡がれていく。

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