あの人気商品はこうして開発された「食品編」
「チャルメラ」コストは2の次、味と品質に徹底してこだわる
即席袋めん市場の漸減傾向が続く中、明星食品の基幹商品「チャルメラ」が好調に売り上げを伸ばしている。2010年9月に実施した品質重点の大幅リニューアルが奏功、「こんどのチャルメラ、なかなかおいしい」という主婦層の口コミも手伝って、これまで食べたことのなかった客層もとらえ、成熟市場の中での商品開発のあり方に注目が集まっている。
上野、浅草、神田をねり歩く
屋台を曳くチャルメラおじさんの絵があしらわれたおなじみの即席めん「チャルメラ」。市場に登場したのは1966年、今年で45年の歳月を刻む。
1950年、奥井清澄社長(当時)が明星食品を創業。同氏が54年に発明した乾めんの「移動式自動乾燥装置」の寄与で、57年には国内首位の製めんメーカーに躍進した。
58年に「チキンラーメン」(日清食品)が発売され、いわゆるインスタント時代といわれる食品革命が起きると、乾めんで事業の地歩を固めた明星食品も60年に「明星味付けラーメン」を発売し、即席めん市場に参入した。
次いで62年、明星食品はスープ別添の「スープ付明星ラーメン」を発売する。これがいまでは当たり前のスープ別添即席めんの国内第1号。そして先述のチャルメラへと続いていく。
このチャルメラの開発ストーリーには、同社にいまも根づく新商品開発スピリットが濃厚に凝縮されている。「味へのこだわり」「コストよりも品質」という開発精神がそれだ。
社内選抜された開発陣は、まず都内で評判の良いラーメン店を選び出し、勇躍その店の食べ歩きに乗り出す。上野、浅草、神田の10店に焦点をしぼる。午前中に社内の仕事を片づけ、4~5人のグループごとに午後から1日に3~4店を巡る。
が、いくらラーメン好きな人でも、さすがにこれは難行苦行。毎日、ラーメンばかり食べ続けられるものではないらしく、しまいにはほとんど食べずに店を出ようとして店主に怒鳴られ、蹴飛ばされた社員もいたという。
こうしてたどりついたモデル店は神田小川町にあった粋香苑。透明感があってコクのあるスープ。みごとだ。この店と同じ味をつくろうと試行錯誤を重ねる。ホタテやアサリに旨みが強いことを発見し、最終的にホタテエキスをベースとしたスープにたどりついた。
奥井社長に呼び出された開発者がまた怒鳴られるのかとおっかなびっくりで出向くと、「よし、これならいける。短期間でよくやった」と高評価が下った。
そのころのめんの原料は2等粉の小麦粉が常識だったが、そのランクを一気に引き上げて特級粉を使用し、ラーメンの製造に不可欠のかん水も高級品を用いた。
マーケティング部長の渡邉玲樹さんは語る。
「当時の奥井社長の精神が、コストに気をとられるな、とにかくいい商品をつくれということに貫かれていました。ごまかしちゃいけない。いい商品をつくれ。いい商品ならきっと支持される。いいものをつくって、大勢に食べてもらえば、コストは引き合うようになる、という考え方です。開発者はみな最初から、いいものをつくれという精神を叩き込まれてきており、それが現在にいたるまで脈々と受け継がれています」
66年のチャルメラ(しょうゆ味)に続き、84年に「みそ」、85年に「とんこつ」、90年に「塩」を発売し、さらにゴマ油をきかせた四国限定品や後述する「ちゃんぽん」を加えて現在は7アイテムでチャルメラシリーズを構成している。
大きなリニューアルを敢行
チャルメラは発売から現在にいたるまで品質やパッケージで数々の改良を加えてきたが、2010年9月には大きなリニューアルを敢行した。
基幹商品の大幅な改良にはそれなりの覚悟を必要とする。そこでまず、チャルメラの立ち位置を過去の成功体験にとらわれない客観的な眼で見つめることにし、消費者調査をかけたところ、チャルメラの中心的な顧客層は40代後半の主婦で、ノン・チャルメラ層(チャルメラ以外のブランドの即席袋めんの愛好者)の40代中盤よりやや高いことがわかった。
しかもノン・チャルメラ層の40代中盤が「周囲と同じことで安心する『日常重視派』」であるのに対し、チャルメラ派の40代後半は、「自分なりの価値基準を持つ『伝統重視派』」であることも浮き彫りになった。
この調査結果を踏まえ、主顧客である伝統派の満足度をさらに引き上げるとともに、ノン・チャルメラ層をどう引き込むかに開発の焦点が絞られた。品質のポイントとなるホタテの旨みについて消費者に聞いたところ、ホタテに高級感を感じ、「魅力に感じる」と答えた人が93%にものぼった。
必然的にホタテの旨みをさらに高めることに開発の情熱が注がれる。ひと口にホタテといっても単品ではなく揚げたホタテ、ローストしたホタテなどさまざまなホタテを使っているのだが、しょうゆなどの調味料とほどよくバランスするよう、その配合比を追求してさらに改良を加えた。
しかも今回の改良では、味をやや濃いめにしている。消費者調査の結果、即席めんには8割以上の人が野菜をはじめとする具材をおもい思いに入れていることが明確に示されたため、入れる具材によって味が薄くなってしまわないよう味を少し濃いめに設計した。
調味料のみそは、これまでやや赤みそを多めに配合していたが、今回の改良ではみそ味にさらにふくらみをもたせた合わせみそに仕立てた。
めんも、これまではしょうゆもみそも塩もとんこつもみな同一の食べやすさを重視した太さだったが、今回の改良ではとんこつは細めん、しょうゆと塩は中細めん、みそは中太めんといったように、それぞれの味に合せた太さに変えた。めんには牛乳約2本分相当のカルシウムを練り込んでいるところもチャルメラの特徴だ。
また45年間続けた別添袋の「スパイス」を「秘伝の小袋」に改め、配合も見直した。「ちょっと謎めいているけれど、そこにこだわりが感じられておいしそう」というのが消費者の評価である。
このような改良によってノン・チャルメラ層の取り込みに成功し、チャルメラは売上で前年比2ケタの伸びを示した。
長崎出身者が納得したチャンポンの味
そして2011年9月には新たなシリーズ商品として「ちゃんぽん」を発売した。ちゃんぽんの全国での消費者認知度は本場長崎以外でもほぼ100%になっている。とりわけ女性の嗜好率が高く、外食市場でもちゃんぽん人気が高まっている。そのニーズに応えようと開発しためんは、本場感覚を追求してもちもち感のあるストレート太めんを採用。スープはホタテ、アサリ、イカなど魚介類の旨みに加え、トンコツ(豚骨)を少し多めに配合した。こういったこだわりが効き、商品供給が間に合わないほどの出足で推移している。
「太めんにしたり旨みに力を入れたりした結果、生産工程は複雑になり、高コストになりました。工場に行くと、にらまれるほどですが、この精神が『チャルメラ』草創期からの伝統なのです。ご主人が長崎出身という主婦の方から、『これぞ懐かしいふるさとの味、沢山買いこんでおくようにと主人が言っています』という手紙をいただいたときは感動しました」(渡邉さん)
伝統の味を守りつつも時代に合わせたシリーズ商品の開発、既存商品の改良に余念がない。それがロングセラーを続けていく秘訣であることをチャルメラは示している。
企業データ
- 企業名
- 明星食品株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 代表取締役社長 山東一雅
- 所在地
- 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-50-11
掲載日:2011年10月26日