売れない時代に売れる理由。販売低迷期の成功事例

「石屋製菓」北海道にこだわる全国区の土産菓子「白い恋人」

発売35年の“ド定番”

類似品が出回るなど、今ではすっかり全国区になった北海道発の菓子がある。石屋製菓(札幌市西区)が製造販売している「白い恋人」だ。北海道内の空港の土産品店には必ずといっていいほど置いてあり、都市部の百貨店などで開催される北海道物産展では定番中の定番商品になっている。「白い恋人」は発売して35年を経た。それにしてもなぜ、北海道土産が多様化し複数のブランドが林立、競い合っては沈んでいく中で、物産展では絶対に外せないほどの“ド定番”商品になり得たのだろうか。それは原材料や生産体制を向上させる不断の努力、さらに北海道土産として求められる要件を満たしているからにほかならい。

「白い恋人」の工場

菓子業界は、年間10億円の売上高があれば大ヒットといわれる。ナショナルブランドの菓子メーカーであっても、年に20—30種類の新商品を発売するなかで、翌年残るのは1割程度だ。10年以上にわたって売れ続けるブランドは、10年に一つか多くても二つ。そんななかで「白い恋人」は35年も売れ続け、今では年間約80億円を売り上げる北海道の菓子土産のガリバーに成長した。

石屋製菓の島田社長は「『白い恋人』が売れるようになったのは、1977年に全日空の機内食として採用されてから」だという。それまでも、じわじわと北海道土産として売れていたが、札幌—東京線の機内食に採用されたことで首都圏の消費者が支持、北海道土産として爆発的に売れるようになった。以来、生産が追い付かない状態が続き、約20年前に工場を増設、現在に至っている。

同社では、白い恋人以外の商品も複数販売している。しかし、姉妹ブランドで白い恋人に次ぐ売上高の「白いバウム」でさえ、年販10億円に届かない。しかも、白い恋人はいまだに拡大を続けているというから驚く。これほどまでにいわばモンスターとなったのは、単に全日空の機内食に採用されたからばかりではない。そこにはブランディングの妙と、品質を常に向上させる手法があった。

ブランディングと品質へのこだわり

現在、道内で白い恋人を扱う特約店は約500ある。それこそ、離島の利尻島、礼文島にも店があるほど、道内の販売店網は隈なく網羅されている。しかし、いったん道外に目を向けると、販売店はほとんどない。もちろん、開かれる期間が1、2週間程度の百貨店などでの物産展には出展する。しかし、それも最近は年2回程度に抑えており、特約店の配置はかたくなに北海道に限ってきたのだ。

島田社長は発売当時から同社にいた訳ではないが、「当初から北海道以外への進出はまったく考えになかったようだ」と話す。現在は北海道という“ブランド”を活用して道外からの参入組が土産品を商品化したり、北海道の土産品でありながら、全国に店舗を構えたりする菓子メーカーも少なくない。しかし、同社は北海道に軸足を置き、北海道産を貫いてきたのだ。この希少性が人気を持続させる一因になっている。ブランディングの妙だ。

品質にも絶えずこだわってきた。白い恋人の原料は現在、カカオバター以外は、すべて北海道産を使用している。今春から小麦粉も切り替えた。従来は道産小麦と米国産小麦を5対5でブレンドして使用していたが、「白い恋人」に適した品質の道産小麦粉が安定調達できるようになったため、100%道産に切り替えた。発売当初から、カカオバター以外、道産にこだわりを貫いている。

ロボットを多用し生産性を向上させた

また、最近ではコンチング工程を従来の6時間から8時間へと延長した。コンチングとはチョコレートの製造にあたってココアバターを均一に行き渡らせる作業で、攪拌機でチョコレートの粒子を滑らかにしたり、摩擦熱などでチョコレートの独特の風味を出したりする役割もある。長ければ長いほど、味覚が増すといわれる作業だ。発売35年を経ても、品質向上に余念がない。経営体質強化のため、ロスの削減や生産性の向上にも積極的に取り組んでいる。「白い恋人」の生産ラインは、最新設備の導入でロスがほとんどなくなった。ロボットの導入などで生産性は3割向上した。

製品の基本的な仕様は変更していない。パッケージデザインも発売当初と変わらない。しかし、原材料や製造プロセスは常に調整している。この飽くなき品質の追求が、白い恋人ブランドの人気を持続させている要因なのかもしれない。

アジア進出の準備整う

ところで、北海道土産として不動の人気がある「白い恋人」だが、日本の少子高齢化という大きな課題に直面している。この対策の一つが、新商品投入による道内の新たな需要の取り込みだ。さらに、インターネット対応も拡充し始めている。しかし、持続的成長のカギを握っているのは、他産業と同様に海外での需要をいかに取り込むかだといえよう。

島田社長によると、中国国内で9月に沖縄県尖閣諸島をめぐって反日デモが巻き起きる前までは、主要空港の免税店での販売が絶好調だった。「今年8月まで年率50%くらい伸びていた。しかし9月の反日デモ発生以降、伸び率は前年同期の10%程度にまで縮小しており先行きが心配」という。 免税店での販売額は年間12億円程度あり、同社売上高の1割以上を占めるドル箱販路となっている。「白い恋人」はすでに国内の旅行者だけの土産品ではない。日本人が海外出張の際の土産品として持参することはもちろん、訪日した中国や台湾、韓国人など外国人が帰国する際、国内の空港の免税店で土産品として買うという傾向も定着し始めているのだ。

島田社長は「国内も団塊世代の人たちが旅行を活発化させる可能性はあり、需要をまだ見込める。しかし将来、どこかの段階で海外へ出ていくことが必要になる」と、すでに海外展開の布石を打っている。同社が考える海外はアジアだ。島田社長によると香港、シンガポール、タイ、台湾ではマーケット調査を実施済み。輸送ルートや、保管倉庫など本格販売にあたっての調査も実施しており、「いつでもゴーサインを出せる状態」だという。後はタイミングの見極めだけだ。だが、来年はじめにも、というタイミングではなさそうだ。

島田俊平社長

同社の売上高は2012年4月期で約91億円。前年度比では東日本大震災の影響もあり、約3億円のマイナスとなった。しかし、今年度は前半の免税店の好調もあり、95億円程度の売上高を見込んでいる。愚直なまでに北海道にこだわり、さらなる革新経営を進める同社は、3年後には100億円の大台達成を目指している。

企業データ

企業名
石屋製菓株式会社
Webサイト
代表者
島田俊平社長
所在地
北海道札幌市西区宮の沢2条2丁目10番30号
Tel
011-666-1483
事業内容
菓子製造業

掲載日:2013年2月12日