あの人気商品はこうして開発された「飲料編」
「紀文調製豆乳」豆腐がだめなら豆乳へ
キッコーマン飲料は2011年8月、テトラ・ジェミーナ・アセプティック容器(TAG)を日本で初めて採用した「紀文 調製豆乳500ml」を全国発売し、好調に売上げを伸ばしている。スタイルの斬新さから、食品スーパーやコンビニなどの店頭でも「おやっ」と目を引くパッケージだ。
この一風変わった容器、ものものしく「テトラ・ジェミーナ・アセプティック容器」などと称されているが、おそらくほとんどの日本人はそれがなんなのピンとこないだろう。だが、“テトラ”という言葉から即座にテトラパックを思い浮かべることはあるかもしれない。そう、テトラ・ジェミーナ・アセプティック容器は、三角パック(正四面体型紙容器)でおなじみのスウェーデンの大手食品容器メーカー、テトラパック社が開発した新しい容器で、欧州を始め世界各国に広く浸透している。今回はその容器を日本で初めて採用した「紀文 調製豆乳」の誕生物語を紹介しよう。
商品名に「紀文」が付いている理由
豆乳は、いまや誰もが知る大豆由来の飲料である。一般的に知られている豆乳のつくり方は、良質のたんぱく質をたっぷり含む大豆を水に浸してすり潰し、さらに水を加えて煮つめ、その大豆かすを漉して液体(豆乳)を得る。ここまでの工程は豆腐と同じで、豆乳にニガリなどの凝固剤を加えて固めると豆腐になる。また、漉したあとに残った大豆かすがおからだ。
日本農林規格(JAS)は豆乳類を「豆乳」「調製豆乳」「豆乳飲料」の3つに分類し、大豆固形分8%以上を豆乳、同じく6%以上を調製豆乳、それ以外を豆乳飲料と定義している。
今回の主役である「紀文 調製豆乳」をその分類に当てはめると調製豆乳に該当する。ちなみにキッコーマン飲料の豆乳商品類を3分類に則して分ければ、「紀文 おいしい無調整豆乳」は豆乳、「紀文 豆乳飲料 フルーツミックス」、「紀文 豆乳飲料 麦芽コーヒー」などは豆乳飲料に当てはまる。
ところで、「紀文 調製豆乳」の製造・販売元はキッコーマン飲料だが、なぜ商品名に「紀文」の文字が記されているのだろう。その経緯はつぎのようだ。
日本で初めて豆乳を飲料として商品化したのが水産練り製品大手の紀文食品であり、同社は子会社の紀文フードケミファで豆乳やヒアルロン酸などの事業を展開していた。そこにしょうゆ最大手のメーカーキッコーマンが関心を示した。なぜなら、大量の大豆を扱うキッコーマンにとって事業の多角化を図るうえ豆乳は魅力的な商品と捉えたからだ。
そこでキッコーマンは紀文フードケミファと2004年に資本・業務提携を開始、2008年に完全子会社化し、豆乳の販売事業をグループ企業のキッコーマン飲料に担わせた。ただし、日本の豆乳市場で強烈に浸透している「紀文」ブランドは外さず、継続することで消費者や流通の混乱を招かないよう企図した。そうした理由からキッコーマン飲料の豆乳製品には「紀文」の文字が冠されているのである。
事業の多角化のために選んだのが豆乳だった
さて、その「紀文 調製豆乳」だが、その発売は1979年。前述した通り紀文食品が開発した。紀文食品は水産練り商品を通して良質な魚肉たんぱくを食卓に供しているが、おでんの具材を始めとして商品の特性上どうしても需要が冬場にかたよってしまう。そこで夏場でも良質なたんぱくを食卓に提供できないかと苦慮し、その打開策としてたどり着いたのが豆腐だった。
ところが豆腐を事業とするには中小企業分野調整法が厚い壁として立ちはだかっていた。この法律の目的は、中小企業の多い事業への大企業の進出に歯止めをかけ、中小企業の事業活動を保護することだ。紀文食品が豆腐事業に進出すれば、町中の豆腐屋さんを脅かしかねない。ならば豆腐製造の前工程で得られる液体を用いて事業にしたらどうか。良質なたんぱく源を飲料として売り出す。そう発想を切り替えることで、豆腐から豆乳へと事業のベクトルを転換した。
しかし、豆乳の商品化といってもそう簡単なことではない。さっそく技術者を米国に送り込み大豆たんぱくの研究をさせ、77年に商品化にこぎ着けた(「紀文 調製豆乳」の商品名は79年から)。
しかし、出だしから好調とはいえず、なかなか売上は伸びていかない。ほとんど反響はなく、泣かず飛ばずの状態が続いていった。
さらに、当時の日本には豆乳という商品カテゴリーがまだなかったため、量販店では水産練り製品や洋生菓子などの棚に陳列されてしまうありさまだった。
そうこうするうちに順風が吹き始める。日本経済が2度にわたる石油ショックを乗り切って再び高度成長の勢いを取り戻した80年代初頭、企業戦士やその妻の頭に「健康」の二文字がよぎり始めた。その健康志向は83年に著しい高まりをみせ、1つの社会現象にまで発展した。その結果、「大豆たんぱくは体にいい」ということから豆乳にも世間の注目が集まり、「紀文 調製豆乳」も一躍ヒット商品となる。また、各社が相次いで参入した結果、豆乳市場は右肩上がりの成長軌道を辿り、この年で豆乳の国内生産量は11万6000klを超え、第1次ピークと呼ばれた。
底堅くなった豆乳需要
ようやく豆乳が商品として消費者から認知されるようになったものの、翌年からしばらく市場の低迷が続く。その間、紀文フードケミファでは豆乳独特のにおいやのどごしを改善する努力が続けられ、量販店にも陳列で豆乳コーナーの新設を提案するなど、製造・販売の両面で積極的なアプローチを展開していた。そんな地道な努力を継続する中、豆乳は2005年に2回目のピークを迎える。
「イソフラボンやポリフェノールに抗がん作用があり、ダイエットにも効果がある。豆乳にはそれが含まれている」
そうテレビの健康番組が相次いで報じたことから火がつき、同年の豆乳の国内生産量は21万7000klと過去最高を記録した。この第2次ピーク直後も豆乳需要は減ったものの急落はせず、その市場も安定化し始めたようで、10年には20万9000klと第2次ピークに迫る勢いを取り戻している。遠からず05年の過去最高記録を塗り替えることは確実なようだ。
キッコーマン飲料の豆乳商品も発売当初は40~60代の主婦が中心購買層だったが、最近は男女を問わず各年齢層に購入されている。同社チルド営業本部企画グループ長の大島秀隆さんは語る。
「直近のデータから20代男性がヘビーユーザー化しつつあることがわかります。最近の5年間くらいで全購買層に占める割合が2倍に高まっています。それは、マロンや焼きいも、プリンなどバラエティに富んだ豆乳飲料を開発してきた効果と思います」
現在、同社が販売する豆乳製品の構成比をJASの分類で示すと、調製豆乳が70%、豆乳飲料が20%、豆乳が10%となる。今後は豆乳飲料の販売量を増やし、さらに最大の売れ筋商品の調製豆乳の底上げを図っていく。今回はその対策として「紀文 調製豆乳 500ml」を市場に投入した。
「豆乳の生産量は牛乳の5%にすぎませんが、せめて20%まで早く引き上げたいです。牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする人も安心して飲めますし、高齢化社会ではもっと飲んでいただきたい飲料と自負しています」
イソフラボンやポリフェノールなど豆乳がもつ成分に由来する機能性を訴えながら、豆乳飲料でさまざまなフレーバーを提供して豆乳商品の訴求を図っていく。
企業データ
- 企業名
- キッコーマン飲料株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 代表取締役社長 重山俊彦
- 所在地
- 東京都港区西新橋2-1-1
- Tel
- 03-5521-5888
掲載日:2011年10月 5日