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“森羅万象をデジタル化”で建造物や万博会場を未来へ残す「クモノスコーポレーション株式会社」
2024年 11月 25日
「森羅万象をデジタル化する」とのミッションのもと、著名建築物などの3次元データ化を手掛けるクモノスコーポレーション株式会社(大阪府箕面市)。阪神・淡路大震災を契機に創業した同社は「地震が起きたら真っ先に駆けつける」とのポリシーのもと、東日本大震災や熊本地震など国内外の被災地で復旧・復興に貢献。来年4月に開幕する大阪・関西万博では会場整備参加の第1号としていち早く名乗りを上げた。創業者の中庭和秀社長は「万博会場のすべてをデジタル化し、100年後の未来へ伝えたい」と話している。
唯一無二のKUMONOSで国内外のインフラを守る
同社の社名にもなっている代表的なシステムが、2006年リリースのひび割れ計測機器「KUMONOS(クモノス)」だ。デジタル技術により100m先の0.2mmのひび割れの形や幅を即時かつ正確に計測できる「唯一無二」(中庭氏)の画期的な機器だ。かつてはビルや橋梁といった構造物のひび割れや破損状況を点検する際には、近くに寄って肉眼で調べる「近接目視」で行い、手書きでスケッチするという“超アナログ”の手法が用いられていたなか、時代の先を行くKUMONOSは文部科学大臣表彰科学技術賞など数々の賞に輝いた。
折しも戦後の高度成長期に建設されたトンネルや橋梁などの老朽化が懸念されるなか、同社は従来の「造る測量」から「守る測量」へシフトし、その切り札としてKUMONOSが活用されることを期待していた。ところが、依然として近接目視を主流とする点検方法を変革することは難しく、逆に、トンネルなどの点検は近接目視を基本とすることが法令で定められてしまった。
国内では「既得権益者の壁」(中庭氏)に阻まれた格好になったKUMONOSは海外に活路を求めた。「iPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授は海外で実績を積み上げた。KUMONOSも海外で展開しようと考えた」と中庭氏は振り返る。そして2013年には外務省のODAを活用した中小企業海外展開支援事業・案件化調査(マレーシア)と中小機構の海外展開支援体制整備事業フィージビリティ・スタディ調査(ロシア)にKUMONOSが採用され、高い評価を得た。その後もアジアや南米などで実績を積み重ね、現在は世界30カ国でのビジネス展開につながっている。KUMONOSの認知度が高まったことで、2015年に旧社名(関西工事測量)から現社名に変更した。
海外での実績を受けて国内でもKUMONOSの普及が進み、政府もようやく2022年のデジタル臨時行政調査会で近接目視を含めたアナログ規制の見直しを打ち出し、その後、目視規制は廃止された。「あまりに先を行っていた技術に時代がようやく追いついた。日本のインフラをKUMONOSで守っていきたい」と中庭氏は胸を張る。
阪神大震災を機に創業 熊本地震などで復興に貢献
3Dレーザースキャナーの導入にもいち早く取り組んだ。「私たちは3次元の世界に暮らしている。2次元の図面に記録している建設・土木の分野でもデジタル技術を生かして3Dデータとして記録したい」と1998年に国内で初めて3Dレーザースキャナーを導入。当時は重量40kgだった機器の軽量化が進んでいき、最新のスキャナーは重量が4kg。軽量化にあたって同社は、フランスのメーカーなどからの依頼を受け、研究・開発を手掛けたこともあった。持ち運びできるハンディ型のスキャナーもあり、手に持ちながら歩き回るだけで周辺の街並みをデジタルデータ化できる。計測中に人や車などが入り込むことも多いが、AI技術を駆使して不要なデータを除去することで、対象物だけをきれいに再現できる。
同社の技術は各方面で活用されている。とくに特徴的なのが大規模地震の被災地での活動である。2004年の新潟県中越地震で崩壊した魚沼トンネル内部の被害状況を計測。2011年の東日本大震災に伴う原発事故では発電所内の事故状況を正確に3Dで再現した。さらに2016年の熊本地震で多くの石垣が崩落した熊本城の修復工事に多大な貢献を果たした。今年1月の能登半島地震でも地元企業にレーザースキャナーを無償で提供している。復旧・復興への貢献は海外にも及び、2015年のネパール地震では、世界遺産に登録されている歴史的建造物の復興に同社の技術が活用された。
こうした姿勢は、1995年の阪神大震災を機に同社が誕生したことに由来する。その10年前に大阪市内で創業した別の測量会社を家庭の事情などから1994年末に退職した中庭氏は「しばらくはゆっくりしよう」と考えていた。ところが大震災発生直後から「復旧のため測量を手伝ってほしい」との依頼が次々に寄せられ、「発生翌日からほぼ不眠不休」(中庭氏)。そして箕面市内に関西工事測量(当時)を設立した。「地震が起きたら真っ先に駆けつける、というのが創業時からのポリシーだ」と中庭氏は話す。
大阪・関西万博で会場整備参加第1号として契約締結
開幕が近づく大阪・関西万博では、いち早く名乗りを上げ、2022年8月に会場整備参加の第1号として日本国際博覧会協会と協賛契約を締結した。「大阪に万博を誘致したい、そして開催するからにはぜひとも協力したい」と中庭氏。その強い思いは、1970年の大阪万博にさかのぼる。当時、出身地の長崎県・対馬で小学生だった中庭氏は「万博に行きたい」と親に何度もせがんだ。しかし大阪は遥かに遠く、代わりに親戚がいる山口県内の遊園地に連れて行ってもらったという。「あのとき万博に行けなかったのが本当に悔しかった。だからこそ今度の万博では、自分が主役になりたいというぐらい強い思いを持って、お役に立ちたいと考えた」と話す。
同社は、万博開幕に向け、ドローンや3Dレーザースキャナーを使用し、会場基盤整備工事のための測量やパビリオンなどの敷地境界測量といった測量全般を手掛けている。また、集められた3Dデータは開幕と同時に公開予定のバーチャル万博にも活用され、パビリオンをはじめとした各種施設がバーチャル会場にも実物そっくりに再現されることになる。「万博会場のすべてをデジタル化し、100年後の未来まで伝えたい」と中庭氏は話している。
80件以上の特許を取得した“代表取締役発明家”、中小企業も応援
自社の利益ばかり追い求めるのではなく、「被災地のため」「関西のため」という姿勢は、他の中小企業経営者に対しても示されている。KUMONOSをはじめ、これまでに80件以上の特許を取得するなど“代表取締役発明家”とも呼ばれる中庭氏の頭の中にはアイデアが泉のようにわいてくる。中庭氏のもとへ相談に訪れた経営者と話している最中にも問題解決に向けたアイデアが浮かんできて相手に提示しているという。2022年に中小機構から中小企業応援士を委嘱されたことで「地域の中小企業を応援するよう国から認められた」と話す中庭氏は今後も他の経営者に対してアイデアを惜しみなく提供していく考えだ。
中庭氏のもと社員も楽しくのびのびと仕事をしている。人事課の福田真澄課長は「社長がいろいろと面白いアイデアを考えてくるので、社員もみんなワクワクしながら社長についていく」と話す。こうした雰囲気の中、社員からも多くの提案が出される。それに対して中庭氏は「もうひとひねり、なにかないのか」などと打ち返し、社内で活発な議論が進められていく。社内の風通しは良く、社員満足度も高まっているという。「いい人材も集まっているし、いい会社になっていると実感している」と中庭氏は実にうれしそうに語った。
リアルなデジタルで「どこでもドア」と「タイムマシーン」
同社は来年、設立30周年の節目を迎える。同社の将来性や先進的な取り組みは各方面から高い評価を受け、これまでに大手企業などから計15億円の出資を受けており、株式の上場は近いとみられる。しかし中庭氏は「30周年も上場も通過点だ」と話し、その先の未来に思いを馳せる。「リアルなデジタルをつくるパイオニアとして3Dデータのプラットフォーム構築を進めていきたい」と話す中庭氏が考えているのが「どこでもドア」と「タイムマシーン」だ。
同社は現在、「森羅万象をデジタル化する~リアルな時空を未来へ~」とのミッションを掲げ、数多くの建造物の3Dデジタル化を進めている。著名な建築物だけでなく街並みの全景、さらには取り壊される前の個人の自宅など、あらゆるもののデータを蓄積している。「バーチャル空間でリアルに再現することで、『どこでもドア』のように各地の建築物を見に行くことができるし、いずれは変わったり無くなったりする景色をタイムマシーンで未来から過去に戻るかのようにして眺めることができる」と中庭氏。
さらに夢は宇宙へ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で月面の計測に向けて研究を進めているのだ。同社の技術は、KUMONOSの由来である“クモの巣”のように、地球上にとどまらず宇宙へも広がろうとしている。
企業データ
- 企業名
- クモノスコーポレーション株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1995年3月
- 資本金
- 1億円
- 従業員数
- 130人
- 代表者
- 中庭和秀 氏
- 所在地
- 大阪府箕面市船場東2-1-15
- Tel
- 072-749-1188
- 事業内容
- 3D計測、構造物点検・調査、工事測量、施工管理、機器・システム販売、システム開発