売れない時代に売れる理由。販売低迷期の成功事例

「味千ラーメン」世界にFCで1000店を狙う九州のラーメン店

世界に広がる「味千ラーメン」

中国に640店以上、他の国を含めると海外に約720店(2013年1月末現在)ある、とんこつ味の日本のラーメン店がある。熊本県の小さなラーメン店から出発し、今や東南アジアを中心に一大店舗網を持つ「味千ラーメン」だ。「ラーメンの本場、中国でそんなに日本のラーメンが定着しているの?」と思う向きもあるだろうが、熊本県に本社を置く重光産業はフランチャイズ方式で、世界で大展開している。

「この味を世界中の一人でも多くの人に食べてもらいたい」。重光産業の創業者である重光孝治氏のそんな思いが原動力となっている。中国生まれのラーメンが日本で育って、中国に逆輸出され、なぜ支持され続けているのだろうか。

7坪8席の店舗が原点

「味千ラーメン」は1968年、高度成長期真っ直中の日本の熊本でわずか7坪(23平方メートル)8席の小さな店舗から始まった。熊本県庁の近くのその店は、県庁の職員などに愛され評判が評判を呼び大繁盛する。のれん分けのような形で、次々と国内に店舗が増えていった。しかし創業者、重光孝治氏の「世界にラーメン大好き人間をたくさんつくりたい」という想いから、94年についに海外進出を決断する。

「最初から日本の将来を考えて、海外に打って出ようというような決断があったわけではないのです」と現社長で創業者の子息である重光克昭氏は話す。創業者の重光幸治氏が台湾出身だったこともあり、台湾の親戚筋からの話があって海外に第一歩を刻んだが、根底には味千ラーメンを世界に広めたいという想いがあったのは確かだ。

今や海外で700店以上を展開する同社も最初の一歩は及び腰だった。台湾で紹介された企業と合弁会社をつくり、その合弁会社と重光産業がフランチャイズ契約を結んで出店した。しかし、結果はうまくいかなかった。

失敗から学ぶ

「私たちの考え方をパートナー企業と共有できなかった」ことが最大の要因だったと重光社長は振り返る。食習慣や生活習慣の違いから、パートナー企業が自ら「味千ラーメン」をアレンジしてしまい、はじめから現地化させようとした。中国人にとってとんこつのスープはなじみがなかった。台湾人が好むスープの味にしてしまい、その結果味千ラーメンの特徴が埋没してしまったのだ。海外進出を果たした翌95年には中国の北京にも現地企業と合弁会社を設立し、台湾と同じ形でフランチャイズ契約を結び出店した。しかし、こちらも同じ失敗をした。最初の一歩、二歩はつまづいた。

「基本は変えない」—。2つの失敗から海外進出の教訓を得た。北京に出店してから1年後の96年、今度は香港に挑戦する。合弁企業を設立したのではなく現地の会社とフランチャイズ契約を結んだが、パートナー企業が味千ラーメンの特徴を良く理解してくれた。
「(日本で育った)そのままの味で売りたい」といってくれ、すべて日本の店舗と同様のオペレーションを導入した。海外3店目にしてようやく“本物”の味千ラーメンが生まれた。この店舗が海外展開の礎となった。

中国人にはなじみのなかったとんこつスープだが、日本の市場で鍛えられ洗練された味は十分に通用した。同社の場合、味の基本となる麺やスープなどの材料は日本から輸出し、製造のノウハウを供与している。その上で野菜などは現地で調達してもらう仕組みをとっている。

海外進出にあたって、重光産業が直営で出店する方式ならば、96年から本格展開を始め、17年で700店以上という規模は難しかったに違いない。本部は身軽でいられるフランチャイズ方式だったからこそ、スピードを加速して展開できた。香港の成功を受けて、今度は中国本土でも同じように基本を変えない方法を徹底して再チャレンジし成功した。パートナー企業が中国の各地、例えば繁華街から駅の近く、日系のショッピングセンター(SC)であるイオンの店内にまで、さまざまな形で出店している。多くの人にこの味を食べさせたいという想いから、価格も15元(約230円)から23元(約350円)に抑えている。日本式のラーメンでありながら、この値頃感が中国本土でもファンを増やす要因となっている。

香港4号店の外観

韓国と13の国と地域に広がる

現在では中国は643店超、さらに台湾、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、米国、カナダ、ベトナム、韓国と13の国と地域に広がっている。もちろん、フランチャイズビジネスといっても国内でみられる高収益企業の姿とは違う。食材の提供とノウハウ供与が主体のため「リスクもない代わりに利益も薄い」という。ただ、ひたすら、一人でも多くの人に、このラーメンを食べさせたいという、信念を貫いているのである。

世界1000店が視野に

重光克昭社長

順風満帆のようにみえる味千ラーメンの中国展開。しかし、昨年は思わぬチャイナリスクにさらされ、試練の時を迎えた。店舗には「味千ラーメン」と日本語で表記されているため、沖縄県尖閣諸島の国有化をめぐる中国での反日デモの被害を受けた。現地の店舗では経営者も働いている従業員も、中国人なのに、なぜ攻撃を受けるのかという残念な思いだった。デモ以降、やはり中国での売上高は減速気味だという。しかも、中国では、日本のラーメンチェーンが相次いで上陸し、日本式ラーメンの競争が激化している。そのうえ、物価の高騰という逆風も吹いている。重光社長は「消費地の人件費が高騰し、いろいろなものの価格も上がっている。現地ではラーメンの価格に転嫁せざるを得ない」という。

日本でも物価が上がり、賃金が上昇した時代があったが、まさに今の中国はそんな状態だ。「一人でも多くの人に」を掲げる味千ラーメンも物価高騰という逆風には逆らえず、ラーメンの販売価格も当初に比べ、7-8元は値上げした。それでも巨大市場であり、知名度も味も認知されている中国の優先順位は高い。重光社長は具体的に出店目標を語らないが、国内外で820店を実現した今、当然ながら1000店の大台が視野に入っているだろう。

ラーメンの本場、中国でこれほどまでに受け入れられている「味千ラーメン」の成功の陰には、「日本の味を大勢の人に食べてもらいたい」という信念がある。

企業データ

企業名
重光産業株式会社
Webサイト
代表者
重光克昭社長
所在地
熊本県熊本市東区戸島町920-9

掲載日:2013年4月 4日