農業ビジネスに挑む(事例)

「キャルファーム神戸」農業はサービス業だ

  • 畑を活かして多様なサービスを提供する
  • 業種の枠を超えた幅広い連携でアイデアを実現

農業はサービス業だ。そんなユニークな農業観をもつ青年経営者が神戸にいる。農業生産法人キャルファーム神戸の代表取締役社長、大西雅彦さんだ。

農業とは農産物をつくるという意味では“製造業”なのかもしれませんが、私はサービス業として捉えています」

そう持論を開示する大西さんは、2001年に実家の農業を継ぎ、2002年から個人経営の屋号として「キャルファーム神戸」を名乗った。その後、周辺農家と協業する任意団体を設け、その名称にもキャルファーム神戸をあてた。

「地元のスーパーさんと直接取引する窓口(任意団体)としてキャルファーム神戸を名乗ってきました。また、それ以外にも農業をベースにさまざまな活動をするプロジェクトの名称としてもキャルファーム神戸を使っています」

つまり、キャルファーム神戸という名称は屋号(現在は社名)であり任意団体名でもあるわけだが、ここでは任意団体として幅広く活動するキャルファーム神戸を紹介する。

地元の生産者による任意団体「キャルファーム神戸」。スーパー、飲食店への卸売りや青空マーケットでの直売を目的に設立された

農作業はやはりすばらしい!

2005年にキャルファーム神戸は周辺の農業生産者たちの直売組織としてスタートした。地元のスーパーや飲食店へ直接卸売りする団体だ。その後、キャルファーム神戸は生産者の販売拡大支援や6次産業支援、婚活支援、企業向け福利厚生支援など取組みの範疇を広げていった。そのきっかけとなったのが2007年、大西さんが地元のハローワークから職業体験ツアーの受入れを依頼されたことだった。

そのツアーでは20~30代の50人の若者が大西さんの畑を訪れた。いわゆるニートと呼ばれる若者たちだが、彼らを前に大西さんは困惑した。

「その日は終日、若者たちをお預かりすることになったのですが、なにを体験すれば有意義に感じてもらえるのか悩み、まずは畑のあと片付けとして地中に残った野菜を引き抜く作業をしてもらいました」

すると予想外に若者たちは黙々と作業に没頭し、1日の作業を終えるとはればれとした表情を見せていた。

「その表情を見たとき、農作業にかかわることはすばらしいことなのだと改めて気づきました」

そしてそれを社会問題の解決を図る1つの手段にできなかと考えた。農産物づくり以外の手法で農業の付加価値を提供する。いわゆるサービス産業として農業でビジネスすることを考えた。

畑を活用した婚活支援「畑DE婚活」がキャルファーム神戸で最初のサービスメニューだった

そこでさっそく取り組んだのが婚活支援だった。

「知人からの提案がきっかけで畑で婚活してもらおうと企画を立て、実行しました」

2007年、20~30人の男女を募り、畑での農作業体験、バーベキューパーティー、食農についてのセミナーなどを実施。結婚適齢期の男女がコミュニケーションを深める場をつくり、提供した。

これを機に畑を活用したオリエンテーション(そば打ち体験、料理教室など)や企業向けの福利厚生、新人研修メニュー(農業体験など)などさまざまなサービスを実施。畑を基盤とした多様な支援を供するビジネスを展開していった。

身近な社会問題を解決する一助になろう

現在、キャルファーム神戸が展開するサービスには、「農業向け」「個人向け」「企業向け」の3つのカテゴリーで11の支援がある。農業はサービス業という理念を突き詰めていく先に大西さんは、「最終目標として出荷しない農業」を理想像に描いている。

農業生産法人としてのキャルファーム神戸も農産物を生産するが、大西さんの持論としては生計を立てるための農産物づくりならば家族経営が最適だという。が、大西さん自身は最適な家族経営としての農業に留まらず、畑を活かしながら新たに生み出す付加価値をサービスとして提供することに邁進する。

「最近は地元の大学生たちとコラボして新しい企画として畑で合コンする『畑コン』を実行します」

自らプロデュースする農業サービスを食育や婚活など身近な社会問題を解決する一助としたい。そんな大西さんの思いを実現するためには多様なアイデアが必要になり、そのためにも業種の枠を超えた幅広い連携がカギとなる。その連携体を開拓すべく、大西さんは今日も東奔西走を続ける。

企業データ

企業名
キャルファーム神戸
Webサイト
代表者
大西雅彦
所在地
神戸市西区岩岡町印路56番地