新規事業にチャレンジする後継者

文具店をエンターテインメントの拠点に【株式会社ホリタ(福井県福井市)堀田敏史氏】

2024年 7月 30日

堀田敏史社長
堀田敏史社長

1. 事業概要を教えてください

LIFE CANVASの店内
LIFE CANVASの店内

株式会社ホリタは、戦後まもなく私の祖母が福井大震災のあった後に家計の足しにと始めた商売が始まりだった。屋号は「ホリタ文具店」で、商店街に店を構え子どもたちに鉛筆やノートを売ったり、学校や役所に文房具を納品したりする仕事が中心。BtoBが8割、BtoCが2割という事業だった。その後祖母から母へと経営者は変わったが、いわゆる町の文房具屋さんとして家族で切り盛りしていた。その後私が経営に参加するようになり、2014年に北陸最大の300坪の旗艦店・春江店をオープン、その数か月に私が社長に就任した地域でも「文具のホリタ」として、知られるようになってきた。2022年に新業態店舗 LIFE CANVAS店をオープンさせ、現在は福井県内に6店舗を持つまでになった。

2. どんな新規事業に取り組んでいますか

自然と共生できる店舗づくり
自然と共生できる店舗づくり

2022年4月にオープンした、ホリタ文具として6店舗目の店舗は、文具店のイメージを一新させ、エンターテインメントの要素がある新業態施設として位置付けている。店舗名「LIFE CANVAS(ライフキャンバス)」は「文具」を中心として「人生に彩りを加えることのお手伝いをしたい」という願いを込めてつけた。私の両親は父が教員、母が文具店経営という家庭だったので、「文具×教育」でやれることはないかという思いもあった。

ホリタ文具の経営に関わるようになった最初の頃から、「田舎のディズニーランドを作りたい」と周りに言っていた。子どもにも親にもどちらも来て楽しめるような施設という意味だ。子どもが店に入ってきた時にハイタッチしたいようなワクワクする店にしていきたい。単に文具の品ぞろえを増やしているのではなく、文具を通じて学んだり、楽しめたりするようなイベントも実施している。文具業界は少子化やペーパーレス化で先行きが厳しい業態だと言われている。実際に県内の文具店の多くも廃業していった。しかし、文具の可能性はまだまだあると信じている。その可能性を新業態店で追求していきたい。開業して2年あまりが過ぎ、まだまだ課題は多いと認識している。収益や集客も想定通りには進んでいないが、それ以上に私たちが伝えたい価値がお客さまに浸透していないことが問題だと思っている。戦略をスライドさせながら、オープン当初の戦略、文具屋としてどう“とがる”のかということに軸足を置いて練り直したい。

3. 事業承継をどのように決心しましたか

文具×教育を実践するイベントを開催
文具×教育を実践するイベントを開催

昔から漠然と、自分で会社経営をしたいという思いはあった。ただそれが、家業の文具店かどうかは別だった。私は東京の大学に行っていたが、4年生の時に父が突然上京してきて「早く戻ってきてくれないか?」と言われた。それまで自由にさせてもらっていたので、突然の言葉に驚いたが、父なりに母が文具店経営に苦しむ姿を見かねてのことだと思った。その時は証券会社に就職が決まっていたので、そのまま就職したが、心の中に父から言われたことはずっと残っていた。昔から家族で団結して家業を手伝っていた思い入れもあって、その土壌を生かして挑戦してみたいという気持ちが徐々に大きくなっていった。そして結婚をきっかけに26歳の時に継ぐことを決意し、福井に戻った。

4. 後継者の「魅力」や「やりがい」は何ですか

大人も子どもも楽しめる店づくりを目指す
大人も子どもも楽しめる店づくりを目指す

前の時代から受け継がれ、蓄積されたものを今の時代に合わせて変えていくことは、誰でもできることではない。ベースを元に、今の時代に必要とされる、価値づくりをできる。本質的な価値を見出せる。それはとても幸せなことではないかと思う。

事業を前に進めていくには、さまざまな人の協力がなければできない。私が家業に入って、今の文具店経営から変えていきたいといった自分の思いを従業員に言った時には、なかなか理解されず辞めていく人もいた。経営者にとって従業員が辞めることは一番つらいが、自分の思いを言い続ける中で共感して付いてきてくれる人も増えてきた。現在は50人を超える規模になったので、自分一人で引っ張るのではなく、社員教育や評価制度をしっかりと作って、組織として動いていける体制づくりに取り組んでいる。

金融機関とも半年に1回、経営状況の説明をし、さらに毎年経営計画発表会も実施している。「今こういうことで苦労しています」「こういう社内体制でやってきます」といったことを説明して、理解をしてもらっているので、信頼関係はできていると思っている。金融機関からもこれまでは、収益面などの定量的なことを重視して見られていたが、最近は社長の経営姿勢などの定性的なところをしっかりと見てもらえるようになったと感じている。新規事業に取り組む時も、当社の経営規模ではかなり思い切った投資だったが、必要な資金はほぼ融資で賄うことができた。

2022年の第2回アトツギ甲子園でグランプリを受賞したことで、周囲の当社を見る目も変わった。田舎のディズニーランドを作りたいと15年前から言い続けていたが、受賞したことで「この社長なら本当にやってくれるかもしれない」と思っていただける方も現れて、今までなら会えなかったような経営者や企業の方々と話をする機会も増えた。これは当社にとって大きな財産だ。一方で、受賞したことで、過度な期待をかけられているとプレッシャーを感じたこともあった。しかし、それも自分たちにしか経験できないこと、注目してもらえることはありがたいことだと思うようにしている。

5. 今後の展望を聞かせてください

文具の聖地へ
文具の聖地へ

新しい店舗HORITA LIFE CANVASを「文具の聖地」にしていきたい。地域の方々だけでなく遠くからでも、わざわざ行きたいお店にすることだ。そのためには、ホリタの店舗でしかできない商品やコンテンツを作り、BtoBも含めて展開することが必要だと考えている。福井には和紙や繊維などの伝統産業から、先端的な技術を持つ企業まで、ものづくり産業がたくさんある。それらの方々と連携をしていくことを考えている。伝統産業というと、敷居が高いイメージがあるが、文具という軸にすると親しみやすさや大衆性が出る。

11月に「BUNGU NODE FES」 というイベントを予定している。「文具の価値を再認識する」というコンセプトで、店舗だけでなく、地域を巻き込むことも意識して行うものにする。「文具の聖地化」へ向けた第一歩だ。いずれは全国から人が集まるようなものに育てていきたい。

企業データ

企業名
株式会社ホリタ
Webサイト
設立
1950年
資本金
2000万円
従業員数
55人
代表者
堀田敏史 氏
所在地
福井県福井市大願寺3丁目9−1
Tel
0776-23-1609
事業内容
文房具店経営 自社ブランド文具の開発