コロナ禍でがんばる中小企業

コロナ患者を隔離・検査する簡易陰圧室開発【株式会社ワン・ステップ】(宮崎県宮崎市)

2021年 7月 20日

宮崎市の本社屋前で(後列右から6人目が山元社長)
宮崎市の本社屋前で(後列右から6人目が山元社長)

1.コロナでどのような影響を受けましたか

山元洋幸社長
山元洋幸社長

さまざまな催しで使用されるエアー注入式の大型遊具を開発し、全国各地のイベント会場や遊園地・観光施設にレンタル・販売している。空気で膨らむウォータースライダーやプール、エアー遊具・迷路などが主力商品で、オリジナルの木工工作キットなどの企画開発・販売も手がけている。

宮崎大学大学院農学研究科に在学していた2000年に、宮崎市中心街の空き店舗対策事業に応募し、4坪のスペースに雑貨店を出したことが起業の原点。冷蔵庫に貼るさまざまな形をしたマグネット約160種類を店内に並べ、販売した。当初は自分がどのような事業をしたいか、できるかが分からず、その後、中古車販売や車椅子の修理・販売なども手がけた。

ライバルが少ない「ニッチ市場」で、工夫や改善ができる事業が向いていると感じていたところ、子どもが楽しむためのアトラクションがなかった観光施設から「場所を貸すから子どもたちが喜びそうなものを探して運営してみないか」とチャンスをもらい、02年にエアー遊具にたどりついた。イベント遊具を扱う会社は全国でも数十社しかなく、19年12月期は年間6億1200万円を売り上げるまでに成長した。

だが20年2月になって、新型コロナウイルス感染症の影響により各地でイベントが自粛となり、キャンセルが相次いだ。4月に初めて緊急事態宣言が発出され、例年なら書き入れ時である大型連休のイベント中止に伴い、4~5月の売上高は前年同月比で9割減と激減した。加えて夏場に予定されていたイベントも軒並みキャンセルとなり、本業のイベント事業の売り上げは、20年12月期で前年度比7割減になった。

本業の主力商品であるウォータースライダー
本業の主力商品であるウォータースライダー

このため従業員の約半数に、雇用調整助成金を利用して休んでもらった。資金繰りについては、まず民間金融機関から資金調達。その後、日本政策金融公庫と商工中金から無利子融資を受け、民間金融機関の返済猶予や当座貸越枠の拡大などの支援をしてもらった。

結果的に20年12月期の全社売上高は4億9600万円に減少した。このうち約2億円は3~4月のマスク不足時に、ほぼ利益を取らずに500万枚ほど販売した分であり、実質売上高は約3億円と前年度に比べて50%の減収に落ち込んだ。

2.どのような対策を講じましたか

コロナ患者を隔離・検査する簡易陰圧室
コロナ患者を隔離・検査する簡易陰圧室

コロナによる危機を乗り越えるべく、新商品として防災・感染症関連グッズを発売した。防災ツールは4年ほど前から少しずつ取り組んでいたが、コロナが始まった20年2月ごろに、エアー遊具で培った空気でものを膨らませる技術を新型コロナ対策のエアー注入式医療関連設備の開発に応用できると考え、簡易陰圧室を開発した。

簡易陰圧室は新型コロナの感染拡大を防ぐため、患者を隔離・検査するスペースとして活用するもの。部屋の中の空気圧が部屋の外より低くなるように管理され、患者が出すウイルスを部屋の外に漏らさない。部屋の中より外部の空気圧が高いので、外部の空気が部屋の中に吸い込まれ、内部の空気はHEPAフィルター付き陰圧装置を通して、ウイルスを99.99%以上カットして排気する。

2月にサンプルを作成し、4~5月に感染症の現場を熟知する宮崎大学農学部付属動物病院の金子泰之助教(現准教授)、医療現場に精通する福井工業大学工学部の竹田周平教授との共同研究で開発を始めた。陰圧装置は真空ポンプメーカーのアルバック機工(宮崎県西都市)に開発してもらうことも決まった。

20年10月に発売し、21年3月までに全国の病院や介護施設などに約110台を販売・納入した。売り上げは約7000万円を記録し、主力商品の一つになった。当社の製品はコンパクトに収納できる、オーダーメイドでサイズ・仕様変更ができる、たった5分間で設置できるなど、優れている点は多いと自負しており、今後1年間で1億円ほどの売り上げを見込んでいる。3年後は需給バランスや競合製品が数多く出てくると考え、需要は落ちると予測している。

防災・感染症関連商品はこのほかにも、災害時避難所向けパーテンション「ジョイントエアーパネル」や、熱中症対策向け「冷却ミストテント」、ワクチン接種会場向け「ゾーニング通路」「ドライブスルーエアテント」など、さまざまな商品をラインアップ。自社ホームページとは独立した防災・感染症関連商品の専用サイトも開設し、事業の柱の一つとして育成していく考えだ。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

熱中症対策向けの冷却ミストテント
熱中症対策向けの冷却ミストテント

簡易陰圧室のノウハウを活用した製品開発として、救急患者用のフェイスガードや、牛向けの手術室、建設現場を想定したミストファン装置などの展開を検討している。また動物医療の領域に参入することも考えている。このうち救急患者用のフェイスガードは最終試作品を製作中で、9月には発売できる見通し。牛向けの手術室も実験での良好な結果が取れており、実際に牧場での導入も1件決まっている。

すでに発売した建設現場で活用する冷却ミストテントなどは、コンパクトに収納できるため、仮設で必要な場面を見つけながら、製品を扱いたという企業と共同で市場を開拓する。22年には売り上げが大きく上がっていくように、現在取り組んでいる。

動物医療領域への参入は、コロナ対策の簡易陰圧室を共同研究した金子准教授が獣医でもあることがきっかけ。動物医療の分野で感染症対策が必要なこと、他にも解決すべきニーズが多いことをお聞きし、開発を手がけようと考えた。こちらは1~2年の長丁場の開発になるが、新市場を開拓した上で安定的に伸びていく、イベント事業に次ぐ2本目の柱へと成長させたい。

社内で毎月1回実施している読書会
社内で毎月1回実施している読書会

仕事は一人で成し遂げることはできないので、周囲の皆さんと一緒にスクラムを組むことが必要。その時に「あいつとスクラムを組んでみよう」「あいつなら期待できる。わくわくできる」と思ってもらえるように、できることはすべてやっておく姿勢が大事だ。今回の簡易陰圧室も、周囲の皆さんの協力がないと製品開発はできなかったし、これまでの事業も全て同じだ。「期待される自分たち」になることが大事だと思う。

当社は新卒で入社してくる社員がほとんどであり、平均年齢が27歳と若い。このため10年以上前から、自分で書籍を選び、書籍代を会社が負担して毎月1回、読書会を開いている。「書籍を選んだ理由」「学んだこと」「活かしたいこと」を事前に記入してもらい、5人程度のグループを毎月シャッフルして、意見交換する。新入社員の学ぶ機会が増え、先輩たちが何を学んでいるかを知ることができると好評だ。将来的には彼らが事業を引っ張り、会社が中長期的に伸びていくことを目標にしている。

企業データ

企業名
株式会社ワン・ステップ
Webサイト
設立
2002年6月3日
代表者
山元洋幸 氏
所在地
宮崎県宮崎市清武町今泉甲4625-1
Tel
0985-64-5399

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