コロナ禍でがんばる中小企業

在宅勤務、趣味のスペースとしてニーズが広がる「小屋やさん」【株式会社植田板金店】(岡山市中区)

2021年 7月 20日

「小屋やさん」を展開する植田板金店代表取締役の植田博幸氏
「小屋やさん」を展開する植田板金店代表取締役の植田博幸氏

1.コロナでどのような影響を受けましたか

20棟以上の小屋を展示した専門展示場「小屋の森」(岡山市南区)
20棟以上の小屋を展示した専門展示場「小屋の森」(岡山市南区)

1976(昭和51)年創業、翌年に法人設立し、本業は建築板金、屋根・雨樋工事。2010(平成22)年に代表取締役に就任してからは、外壁事業、そして、単に小屋としてではなく事務所や店舗としても利用できる「小屋やさん」など新規事業を展開してきた。

とくに「小屋やさん」については、2017(平成29)年6月に20棟以上を展示した専門展示場「小屋の森」(岡山市南区)をオープンしたのに続き、無人展示場を3カ所開設。会社のホームページとは別に「小屋やさん」の専用サイトも開設した。さらに生産工場を新設して月産8棟と生産体制を整えた。こうした新規事業のほか、従業員への教育訓練や経営企画部門、品質管理部門の立ち上げなどを行うなど社内改革を行った。こうした取り組みが功を奏して業績は順調に伸びてきた。

ところが、新型コロナウイルス感染症の影響で専門展示場への客足がぱったりと止まってしまった。昨年3~6月の来場者数は前年同期の20~30%ほど。とくに平日は全く来場者がいなかったので、一部のパートのスタッフを解雇せざるを得なかった。当然のことながら売り上げも伸びず、本当に厳しかった。展示場も生産工場も賃貸物件だったので、貸主に頼んで3カ月間だけ賃料を3分の2に値下げしてもらった。

2.どのような対策を講じましたか

在宅勤務のスペースとしても利用できる「小屋やさん」
在宅勤務のスペースとしても利用できる「小屋やさん」

コロナ禍でニーズが高まってきた小屋事業にいっそう注力した。「小屋やさん」は、「男の趣味」の場所として小屋を取り上げていた雑誌の特集記事を読んだことをきっかけに2016(平成28)年にスタートした事業だ。小屋は当社の倉庫内で組み立てられる大きさなので、雨の日や閑散期に本業ができずにいる職人に作業をしてもらえるし、若手社員が練習として小屋づくりをすれば、技術の向上にもつながる。これで売れれば儲けもの、という考えで始めたものだ。

当初は売り上げが伸びず、さらに昨年前半はコロナ禍により大打撃を受けた。ところが、昨年7月以降は状況が一変した。感染拡大防止対策として普及した在宅勤務やウェブ会議の場所として、さらに、巣ごもり需要で広がる個人の趣味、オンライン飲み会などのスペースとして「小屋やさん」は注目された。テレビや新聞など多くのメディアから取材を受けて、番組や紙面で取り上げられた。コロナ禍で提唱された「新しい生活様式」と「小屋やさん」がマッチしたようだ。

おかげさまで売り上げも伸び、出だしのつまずきをカバーして前期(2020年3月~2021年2月)は最終的に63棟を販売。前々期の58棟を上回った。また、「小屋やさん」で当社の知名度が向上したことが既存事業へも良い影響を及ぼし、事業全体が好調。小屋事業を含めてスタッフ(正社員・パート)を募集しているところだ。

地元テレビ局の取材を受ける植田氏
地元テレビ局の取材を受ける植田氏

「小屋やさん」の特徴は、本格的構造材を使用しながらも価格性、居住性、施工性を実現した点だ。従来の小屋は、倉庫の延長のような品質で、居住性が低いものが多かった。逆に居住を前提にしたものは、サイズの割に非常に高額なものになっていた。これに対して「小屋やさん」は、本業で使用する一般住宅向けの素材・工法を用いて、長寿命で耐震性にもすぐれている。

それと同時に、設計・製作・設置までの一貫施工体制を整えたことで、高品質と低価格を実現した。売れ筋は6畳サイズの「GL-6」というモデルで、本体価格は税込み143万円(2021年6月時点)。これに設置・運搬費用を加えると160万~200万円ほどになる。

また、東京五輪・パラリンピックの主会場となる国立競技場などを手掛けた建築家、隈研吾氏の事務所とライセンス契約を結ぶなど、デザイン性も追及している。隈氏との契約は知名度アップに大いに役立った。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

「withコロナ」「アフターコロナ」を見据え「小屋やさん」を事業の柱に
「withコロナ」「アフターコロナ」を見据え「小屋やさん」を事業の柱に

これからの「withコロナ」「アフターコロナ」の時代において、また新たなニーズが生まれてくるだろう。そうしたニーズをいち早く捉え、新しい使い方を提案することで、「小屋やさん」を事業の柱の一つとして展開していこうと考えている。

具体的には、医療機関向けの発熱外来専用小屋や、屋内施設での原則禁煙を義務付けた改正健康増進法施行に対応した「禁煙小屋」、飼い主とペットが楽しく過ごせる「ペット小屋」といった提案を行っている。このうち発熱外来小屋は、感染リスク抑制のため室内の風の流れを工夫したもので、すでに地元の医療機関で利用してもらっている。さらには、発熱外来専用として医療機関にPRしていたところ、コロナ対応で多忙を極める看護師ら医療スタッフの休憩所としての注文が寄せられた。こちらが思っていなかったニーズがあることを実感した。

昨今は、世界的に木材が品薄になって価格が高騰する「ウッドショック」の影響もあり、7月から一律10%値上げすることになったが、「withコロナ」「アフターコロナ」に関連した利用を中心に、今期は100棟の販売を達成したい。

企業データ

企業名
株式会社植田板金店
Webサイト
設立
1977(昭和52)年12月17日
資本金
3000万円
従業員数
56人
代表者
植田博幸 氏
所在地
岡山県岡山市中区藤崎673
Tel
086-276-3686
事業内容
板金工事業・屋根工事業・建築工事業など

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