コロナ禍でがんばる中小企業

「おいぬ様信仰」とペットブームでいっそうの活性化を目指す【宿坊 駒鳥山荘】(東京都青梅市)

2021年 7月 20日

「宿坊 駒鳥山荘」の第18代御師、馬場慶太郎氏
「宿坊 駒鳥山荘」の第18代御師、馬場慶太郎氏

1.コロナでどのような影響を受けましたか

関東一円を見渡す天空の神社、武蔵御嶽神社
関東一円を見渡す天空の神社、武蔵御嶽神社

関東一円を見渡す御岳山(みたけさん、標高929メートル)の山頂に鎮座する武蔵御嶽(みたけ)神社(東京都青梅市)は、山岳信仰の修行の場として多くの人々の信仰を集めてきた。その周辺には、修行者や参拝者のために「御師(おし)」と呼ばれる人たちが営む宿坊(しゅくぼう)が20軒以上あり、その一つである「駒鳥山荘」は江戸時代中期の1776(安永5)年に創業した。昨年8月に病気で亡くなった父(喜彦氏)の跡を継いだ私で18代目になる。

近くには滝行(たきぎょう)の場として知られる綾広の滝がある。幽玄な雰囲気に包まれた落差10メートルほどの滝で、ここで滝に打たれたいという宿泊者も多い。また、父が英文のホームページを作成するなど、だいぶ前からインバウンドに力を入れていたこともあり、10年ほど前から欧米を中心に外国人の観光客が増えてきた。コロナ前は宿泊客の3、4割を占めていた。

しかし、コロナ禍で絶望的な状況になった。最初の緊急事態宣言の間は、ゴールデンウイークを含め、外国人はもちろん、国内からの宿泊客もゼロ。延期される前の東京五輪開会式前後まで入っていた予約もすべてキャンセルとなった。また、毎年7月には、都内の若い神主が御岳山に集まり、禊(みそぎ)を行うという行事があるが、それも中止となった。

2.どのような対策を講じましたか

一番人気の「ブッポーソーの間」とヒノキの風呂
一番人気の「ブッポーソーの間」とヒノキの風呂

「密」を避けるため、宿泊できる人数を制限した。客室は10部屋あるが、半分に絞り、原則5組まで、多くても6、7組の宿泊とした。また、宿自慢の桶の風呂を、時間を決めて一家族専用とした。大阪・堺の酒樽職人につくってもらったヒノキの風呂で、4人は一緒に入ることができる。ゆったりとくつろぐことができたようで、思っていた以上に好評だった。とくに子供たちは、外出自粛や学校行事の中止が続いてストレスがたまっていたようで、それを発散するかのように、大いに楽しんでいただけたようだ。

また、最初の緊急事態宣言が終了した後に需要回復策として昨年夏から実施された「GoToトラベル」では、思いがけない効果があった。当初、東京都は感染拡大が続いているとしてキャンペーンの対象から除外されていたが、「それなら都内で旅行先を探して出かけよう」と考えた都民が多くいて、その結果、御岳山を訪れる人が急増し、一時はコロナ禍前を上回る人出となった。「駒鳥山荘」も8月には新規の宿泊客でにぎわった。宿を気に入ってもらえたようで、それ以来、2度、3度とリピートで利用してもらっている人もいる。都内在住の人たちに知ってもらう、いい機会になった。

このほか、ワ—ケーション需要を見込んで、Wi-Fiを整備し、オンライン上のセキュリティー対策も強化した。まだ利用者は少ないが、引き続き進めていきたい。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

馬場氏は武蔵御嶽神社の神主もつとめる
馬場氏は武蔵御嶽神社の神主もつとめる

ペットの犬を連れての宿泊ができないか考えている。言うなれば、「ワ—ケーション」ならぬ「ワンケーション」。実は武蔵御嶽神社は「おいぬ様信仰」でも知られ、犬と縁がある神社。日本書紀によると、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の際、御岳山で邪神を退治したが、そこで道に迷ってしまった。すると白い狼が現れて日本武尊を道案内した。別れ際、日本武尊は白狼に、「大口真神(おおくちまがみ)として、この御岳山に留まり、すべての魔物を退治せよ」と命じたという。その言葉に従って山に留まった狼はその後、親しみを込めて「おいぬ様」と呼ばれるようになった。

この「おいぬ様信仰」に加え、最近のペットブームで御岳山には犬を連れて訪れる人が多くなってきた。神社では犬連れの人たちの要望に応じる形で、愛犬の祈祷を行うようになった。また、神社までは車で来ることができず、御岳登山鉄道のケーブルカーを利用するのだが、ケーブルカーには「ペット共有エリア」が設けられた。そのエリアでは、犬をケージに入れることなく、飼い主と犬が一緒に乗車できる。

父はこの愛犬祈願を取り入れようと働いたうちの一人だった。御師である父は神社に仕える神主であり、みたけ山観光協会の会長もつとめた。全国的にもペットの同伴を禁止しているお社も多いなか、御嶽神社も例外ではなく、当初は父の提案に対し、神聖な神社で犬の祈祷を行うなんてもってのほか、と反感をかったが、父は反対を押し切った。それが今や地域活性化策の一つになっている。

犬連れの宿泊については、やはり犬が苦手という人もいるので、現在ある客室を利用することは難しい。そこで別棟の小屋を宿泊用に改装して、一棟丸貸しという形で犬と一緒に宿泊できないか、検討している。今のところ犬連れの参拝客や観光客は日帰りするしかないが、宿泊したいとの要望が寄せられる。犬連れの宿泊が実現すれば、神社を訪れる人は増えると見込まれ、いっそうの活性化につながるだろう。

御師として神社の歴史や文化、そして御岳山の自然を守り、後世に伝えたいと考えている。そのためには、守るべきものは守りながらも、時代の変化に対応していかなければならない。まだ20代で経験は浅いが、歴史や文化を次世代につなげるために、地域の活性化に貢献していきたい。

企業データ

企業名
宿坊 駒鳥山荘
Webサイト
設立
1776(安永5)年
従業員数
3人
代表者
馬場慶太郎 氏
所在地
東京都青梅市御岳山155
Tel
0428-78-8472
事業内容
宿泊業