人手不足を乗り越える

相次ぐ経営統合で人材確保と事業拡大を達成【開成工業株式会社(香川県宇多津町)】

2025年 2月 17日

SDGsを意識した取り組みも進めている開成工業の西本光宏代表取締役
SDGsを意識した取り組みも進めている開成工業の西本光宏代表取締役

瀬戸大橋を臨む工業地域に本社を構える開成工業株式会社は、道路関係を中心とした公共工事を数多く手掛ける。昨今はSDGsを意識した地元材の活用も進め、事業の幅が広がるなか、県内企業との統合を続け、人材の確保にもつながった。西本光宏代表取締役は「SDGsを意識した取り組みもあって若い世代の入社も相次いでいる」と話す。

“塩田の町”で創業、道路関係の工事を手掛ける

瀬戸大橋を臨む公園に復元された塩田
瀬戸大橋を臨む公園に復元された塩田

香川県の瀬戸内海沿いに位置する宇多津町ではかつて塩づくりが盛んで、海岸沿いに塩田が広がっていた。戦後の高度成長期に入ると塩づくりは操業停止となり、地域振興整備公団(当時)などによる大規模な開発事業がスタート。広大な塩田は埋め立てられ、住宅や商工業の用地、幹線道路や新駅舎などの整備が進められた。1988年4月の瀬戸大橋開通と相まって塩田の町は、大型商業施設や工場、マンションなどが建ち並ぶ新都市へと変貌を遂げた。

塩田跡地となる海岸近くの工業地域に本社を構える開成工業もルーツをたどると塩づくりに行きつく。西本氏の父・公三氏は塩づくりの過程で発生する「にがり」を販売していた。にがりは豆腐の凝固剤として使用されることが多いが、にがりに含まれる塩化カルシウムに砂ぼこりを抑える効果がある。公三氏は1954年に創業し、にがりを活用して砂利道が多かった道路用の防塵剤の販売と散布施工を始めた。1965年に讃岐化成株式会社を設立。その後、塩化カルシウムの製造を始めるとともに、道路の舗装が進んだことで道路の改良や標識の設置など道路関係の公共工事を手掛けるようになった。1982年に現社名へ変更。そして1990年に本社を現在地へ移転した。

創業時から長年にわたって道路関係の施工を行ってきたことで、「国や自治体など道路管理者が求めるものをいち早く把握して提案することが当社の強み」と西本氏は話す。一時期は橋や照明灯などデザイン性の高いものが流行し、昨今は照明のLED化や道路の補修工事のニーズが高まっている。こうした変化に迅速に対応できているという。このほかにも公園のフェンスなど景観を意識した補修工事や、さらにSDGsへの対応として地元の県産材を活用した施工を積極的に行っている。このうち地元材の活用については西本氏の弟で営業担当の西本祐三専務が精力的に推し進めている。

土木工事会社を子会社化、応援要員となる技術者を確保

子会社化した北村組
子会社化した北村組

このように事業の幅が広がるなか、同社では香川県内の土木工事会社の統合が続いた。まず2019年、高松市内の北村組の株式を取得して子会社化した。北村組は当時15人ほどの社員を抱えていたが、「当時の経営者(北村安朗氏)が病気のため提携先を探していたところ、地元の銀行の仲介により当社に話が回ってきた」と西本氏。県内全域で工事を手掛けていた開成工業は事業拡大に役立つとして北村組の株式を取得。社員の雇用は確保し、経営は現在、北村氏の長女、真弥子氏が行っている。

もともとは人手不足の解消を目的としていたわけではなかったが、結果的には人材の確保につながった。国の事業や、金額の大きい県の事業の場合、複数の技術者が現地に張り付く必要があり、株式取得後には北村組の技術者が応援の形で現地に入った。2022年から1年半ほどかかった国道11号豊中観音寺拡幅(4車線化)工事でも応援を受けた。「以前なら、この工事だけで手いっぱいだったが、経営統合によって、その間も別の工事を受注することができた」と西本氏は統合のメリットを強調した。

経営統合でAランクに昇格、応札の幅広がる

国道11号豊中観音寺拡幅工事を手掛けた
国道11号豊中観音寺拡幅工事を手掛けた

続いて2022年に綾川町内の土木工事会社、影山建設を統合した。同業者として以前からの知り合いである同社の経営者、影山康弘氏から「自身も高齢で後継者もいない。会社の廃業も考えなくてはならない」という話を聞いた西本氏が「それはもったいない」と統合を決めた。同社は開成工業の綾川営業所となり、影山氏は現在、営業所長を務めている。5人ほどいた社員もそのまま勤務を続けている。

この案件は人手不足解消の狙いもあったが、別の面で効果があった。それまで開成工業の土木工事の格付けはBランクだったが、統合によりAランクに昇格。「金額がより大きな工事に応札できるようになった」(西本氏)という。2件の経営統合により人材確保と事業の拡大を果たした同社はさらに他の統合も検討している。

デザイン性重視の設計・施工や地産地消の取り組みで若者が入社

地元のスギとヒノキを使用した施工例
地元のスギとヒノキを使用した施工例

人材確保は別の面でも進んでいる。ここ2、3年で20代の若者4人が中途入社してきた。いずれも人材紹介会社経由での採用だ。同社では景観を重視したデザイン性のある設計・施工を手掛けているほか、地元の木材を生かした地産地消も進めている。SDGsが注目されるなか、若者たちの関心を呼んだようだ。

また、県外の事業から撤退したことも奏功している。それまで県外の事業が売上高の1、2割ほどを占めていたが、「県外の仕事となると、移動にも時間がかかり、残業時間が増えてしまう」(西本氏)という。昨年に県内の事業に限定したことで残業時間が減少。こうした働き方改革の面からも仕事を探す若者たち、求職者を斡旋する人材紹介会社の間で評価が高まったとみられる。

一連の動きにより同社では現在、人手不足感は解消されている。しかし、社員の年齢構成をみると、50歳以上が全体の3分の2を占め、残りが20代から30代前半の若い世代となり、40歳前後の世代が抜けている。最近入社した若い社員も飲食業や不動産業など異業種からの転職で、建設関係は未経験。指導に当たるベテラン社員から「これ以上、新人を増やさないでほしい」との声が聞かれるという。「今はむしろ過剰感があるぐらいだが、この先は人手が足らなくなるかもしれない。一方で、新人教育の問題もあれば、不景気になるリスクもある。人材確保は本当に経営判断が難しい」と西本氏は苦しい胸の内を明かす。

「若い経営者が意欲を持てる町に」

西本氏は宇多津商工会会長を務める
西本氏は宇多津商工会会長を務める

先行きが不透明ななか、地元の宇多津商工会の会長を務める西本氏は地域全体の課題にも頭を悩ます。とくに問題なのが「とにかく廃業が多い」(西本氏)という点。計画的に整備が進められた宇多津町では、幹線道路や広々とした区画の土地があり、フランチャイズを含めて大手企業の飲食店や小売店など様々な店舗が建ち並び、「生活しやすい」として隣接の丸亀市や坂出市から移り住んでくる若い世代が多い。一方で、大資本には太刀打ちできないとして古くから営業してきた店をたたむケースが相次いでいる。「若い世代の流入で人口減少は深刻ではないが、地元店の廃業も多く、痛しかゆしの状況だ」(西本氏)という。

流入してくる人たちも町外で働いているケースが多い。「できれば仕事も地元企業で働いてもらえれば、町内企業の人手不足解消にもつながり、地域がいっそう活気づく。とくに若い経営者が意欲を持てるようにしていきたい」と西本氏は話している。

企業データ

企業名
開成工業株式会社
Webサイト
設立
1954年10月
資本金
4500万円
従業員数
48人
代表者
西本光宏 氏
所在地
香川県宇多津町浜一番丁1番地
事業内容
土木工事、交通安全施設設置工事、環境関連工事、電気工事、塗装工事、造園工事