Be a Great Small

ひろの屋

北三陸から世界を目指して

岩手県の最北端に位置する洋野町。海と山に囲まれた静かで美しい町だ。北三陸と呼ばれるこの地域と産品を「世界ブランド」に育てるべく、多彩な活動を展開している企業がある。水産加工業・卸売業を営むひろの屋である。洋野町の希少な水産資源から多様な価値を創造することで、「北三陸ブランド」の確立を目指している。国内はもとより世界に向けてその価値を発信し、地域の誇りと自信を取り戻そうと日々邁進している。

  • 地域の希少な天然資源にこだわった事業開発・商品開発
  • 地域産品への信頼が生んだ首都圏市場や海外市場展開
  • 地域内連携による生産者の自立促進と雇用の創出

復興へ向けて

岩手県最北端、北三陸に位置する洋野町。古くから漁業が盛んで、ウニやワカメ、アワビなど希少価値の高い天然の水産資源に恵まれた地域である。日本唯一の「ウニ牧場」と呼ばれるウニ漁の施設で採れるウニは、天然のワカメやコンブを食べて育ち、濃厚で甘みのある味わいが特徴だ。山側では酪農や農業も盛んで「やませ」と呼ばれる季節風が吹く風土を活かして栽培される原木シイタケなど、食材の宝庫と言える地域である。しかし、これまでは地域外に知られることは少なかった。地産地消であったこと、積極的に地域外に販売する事業者もいなかったことが要因だ。そんな洋野町の水産資源の価値を発信し、地域産品のブランド化を目指し、ひろの屋は平成22年5月に創業した。洋野町は入り江や湾がなく外洋に面しているため、養殖には向かない地域だ。それを逆手にとって、創業時から徹底して天然の食材にこだわっている。

創業1年目の平成23年3月11日、まさにこれからという時に、東日本大震災による津波が洋野町を襲う。幸いにして人的被害こそ免れたものの町は甚大な被害を受けた。漁業施設も被災し、ひろの屋で取り扱うウニなどの食材もすべて海へ流された。

これが大きな転機となった。震災以前から洋野町は魅力的な天然食材が豊富であったものの、販路もなく後継者も育たず、町は長く衰退を続け、疲弊していた。元々抱えていた地域の課題が震災によって顕在化し、その進行スピードが速まったのだ。「震災で何もなくなってしまいましたが、逆にこれをチャンスと捉え、もっと多くの方々に価値を伝えていきたい」下苧坪(したうつぼ)社長はそう考えたという。希少価値の高い天然の食材はもちろんのこと、この町にはそれを採取する技術力も、ウニ剥きなどの高い加工技術力もある。ウニの採取には、古くから素潜りによる漁法が採用されている。常に命がけである。命をかけて採った希少性の高い天然の食材、そうしたストーリーや価値をしっかり伝えていくこと。大切な食材も商品もすべて津波に呑まれたため、まさにゼロからのスタートであったが、下苧坪社長は熱心に北三陸の食材の価値を人々に訴えかけていく。わずかに残された商品だけで飲食店を周り、商談会や物産展にも出展を続けた。そうした熱意が伝わり、「ウニはあるの?」といった問い合わせも増えた。ウニが食べ頃を迎えるには4年の歳月が必要だ。震災後に育ったウニが昨年、平成28年の夏からようやく出荷できるようになった。洋野町の天然食材にかける信頼、そして復興への想い、そんな想いを胸に続けた販促活動が今、事業として実を結びつつある。

北三陸ブランドを世界へ

ひろの屋では現在、「北三陸ブランドプロジェクト」を推進している。行政や生産者と連携して、洋野町そのものをブランディングしようという取り組みだ。北三陸の水産物や農産物の価値を、首都圏を中心とした国内はもとより、アメリカ、香港、台湾など、世界に向けて発信を始めている。

平成27年からはアメリカ・ロサンゼルスや香港への北三陸食材の輸出が開始された。まずは現地を知ること。新たに販路を開拓する際に大切にしていることのひとつだという。そんな考えに基づいて平成28年から台湾との交流も始まった。現地を訪れ、現地のシェフや卸業者などと提携、文化を学び、食材の紹介とともに現地に合わせたレシピ開発も行っているという。今年に入り、台湾から彼らを招き、洋野町を知ってもらうための取り組みも始まっている。ウニや原木シイタケの生産現場の視察や洋野町の食材を使った料理を振舞うなど、積極的な交流が図られ、参加した生産者は、こだわりを自らの言葉で伝えたという。

台湾を訪問した時のことだ。原木シイタケのPRのため、洋野町の生産農家、高屋敷幸雄さんも同行した。台湾では高屋敷さんが栽培した原木シイタケが日本で流通されている形態のまま輸出され、販売が始まっていた。そのラベルを見た時、産地表記が流通の構造上の問題で岩手県産ではなく他県産になっていたのだという。これにはスタッフ全員がショックを受けた。高屋敷さんの作る原木シイタケの生産技術力は全国でもトップレベルだ。にもかかわらず、そんな地域の生産農家が精魂込めて栽培した農産物の価値が消費者に正しく伝わっていない。ひろの屋では、この出来事をきっかけに原木シイタケの国内での卸売を請け負うことになる。

地域とともに

ひろの屋の扱う商品は、現在、都内の有名百貨店をはじめ、海外にも販路が大きく広がりつつあるが、これにはひろの屋自体の事業拡大のほかにもうひとつ大きな目的がある。それは「生産者の誇りを取り戻す」ということである。生産者は良いものを作りながらもそれを自ら発信する術がなかった。有名百貨店や海外に自らの生産物が正しい価値をもって流通することで自信と誇りを取り戻し、自ら発信する力をつけてほしい。そんな願いが込められている。

現在、行政との連携による地域商社設立の構想も進められている。生産者が輝けるように、主役になれるように、その枠組みを作ること。それが地域商社構想の目的のひとつだ。「品質の高い食材供給エリア」としてのブランド確立と発信を続けることが地域の誇りと自信につながっていく。生産者こそが町を背負っていくリーダーであるという考え方がこの計画の根底にあるという。

地域の雇用を創出することもひろの屋の課題のひとつだ。ひろの屋では現在、国内外でウニの通年出荷に乗り出している。春先から夏がシーズンの洋野町産のウニの出荷に加え、夏以降も仕入れが可能な北海襟裳町産のウニを仕入れ、「北三陸ファクトリーブランド」として商品化、秋から冬にかけての出荷を可能にしている。通年での加工を実現することで、ウニ剥きの技術力の維持向上と安定的な雇用を増やす狙いがある。

ひろの屋は地域とともに未来に向かって走り続ける。

豊かな海で育ったウニは他にはない濃厚な味わいだ

One Point

地域や食材への揺るぎない信頼と愛情に基づく明確なターゲット設定

地産他消、ターゲットは明確だ。漠然と全国市場の開拓を目指すのではなく、競争の激しい首都圏市場で戦い勝ち残ること、その視線の先には海外市場が見据えられている。その自信の根底には北三陸、洋野町に対する深い愛情と地域で採れる天然食材に対する誇りと信頼があるのだ。

企業データ

下苧坪之典社長
企業名
株式会社ひろの屋
Webサイト
法人番号
3400001008263
代表者
下苧坪 之典社長
所在地
岩手県九戸郡洋野町種市第22地割131番地18
事業内容
水産食料品製造業・水産物卸売業