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中小企業が技術を武器に社会的課題を解決するには【国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー・曽根純一氏】<連載第3回>(全4回)

2019年10月31日

本連載では、SDGsや第4次産業革命が牽引するこれからの社会で、ものづくり企業がいかにチャンスをつかまえていくべきかについて、材料・デバイス分野の専門家である曽根純一氏に4回にわたってお話をうかがっていきます。連載第3回目では、企業の具体的なアプローチ法にフォーカス。中小企業に向けた助言もいただきました。

◆SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかに記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「気候変動」「エネルギー」「教育」など17分野の目標=「ゴール」と、17の各分野での詳細な目標を定めた169のターゲットから構成されており、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択された。2017年7月の国連総会では、各ターゲットの進捗を測定するため232の指標も採択された。

国の共用設備利用サービスなどを使ってみる

AIやIoTといった新技術を活用しながら、SDGsに掲げられた社会課題を解決していく。この過程でものづくり企業が果たす役割は小さくありません。しかも、そこには大きなビジネスの機会が広がっています。

すでに中小企業にも、大学の力を借りながら自社の技術を磨き、ナノレベルのメッキ技術で資源の有効活用を成功させた企業などが登場。補助金や各種サービスなど挑戦を支援する国の施策も増えている今、「挑戦したいが設備投資をするのは難しい」「自社の技術がどう役立つか分からない」などの理由で尻込みし、自社の可能性を探ろうとしないのは、自ら成長の機会を放棄していると言えます。

「材料・デバイスの先端技術で勝負するには、高精度の機器を使って技術をナノスケールで評価する必要があります。ただ、政府が2012年に開始した『ナノテクノロジープラットフォーム』の共用設備利用サービスなどを使えば、全国各地の大学・研究機関にある先端設備を使いながら、大規模な設備投資なしに検討を進めることも可能。技術とアイデアがあるなら、そうしたサービスを上手に使ってほしいです」

同プラットフォームは、曽根氏が所属するJST(科学技術振興機構)のCRDS(研究開発戦略センター)が産業界・学術界イノベーション創出に向けて政府に提案したもの。企業ニーズに応じ量産化サポートなどのサービスも新たな仕組みで提供するなど、実態に即したサービスも始まっています。

全国の研究機関が連携し、外部企業などに向けて機器の共用利用や技術支援など提供。扱う技術により上記の3分野に分かれており、一般向けセミナーなども開催している

データとAIの活用でリソースを有効活用

新技術を必要としているのは、当然自動車業界にとどまりません。例えばセンサーが進化すれば、ものづくり、医療、農業など多くの分野が恩恵を受け、それがSDGsで掲げられた「産業と技術革新の基盤」「健康と福祉」「飢餓」といった課題の解決につながっていきます。

「例えば創薬の分野では、コンピュータを使って有望な薬剤組成を検討したり、シミュレーションでその効果を検証したりといった試みも進んでいます。こうした方法は、製品や素材の開発にも使えるはずです」

データを上手に活用すれば、生産性を大きく上げることができます。いますぐ開発工程に先端レベルのデータサイエンスを導入するのは難しくても、今は画像認識や音声認識が行えるAIソフトを無料で提供している企業も少なくありません。まずはこれらを用いて、自社に適したAIの活用法の検討から始めてみるのもいいでしょう。

連携による取り組みも増加している

さらにもう一つ、曽根氏が強調するのが、「連携」の重要性です。

「リアルとバーチャルを融合させながら課題を解決していく『Society 5.0』を実現するには、複雑で、多様で、高度な技術が求められます。それだけの技術を自社ですべてまかなうのは、大手企業でも先端IT企業も不可能。そこで、企業間連携が進んでいるわけです」

曽根氏がまず例に挙げたのが、ファナック株式会社、トヨタ自動車株式会社、株式会社日立製作所、国立研究開発法人国立がん研究センターなどと連携しながら産業界でのAI活用を目指すスタートアップ企業「株式会社Preferred Networks」の例です。

「同社の開発力は、サイバー空間を対象としたAI研究が中心だった前身時代から注目されていました。ただ社名を変え、工場の自動化で知られるファナック株式会社などものづくり企業との共同研究を開始した14年からロボット開発などにも取り組み、リアル世界における活躍の場を大きく広げています。このプロジェクトでは、高度なAIを搭載して、より効率的な片付け方法を自ら学び、技能を向上させていくロボットなどを発表しています」

上記は先端IT企業と大手ものづくり企業の連携ですが、企業と企業がつながって新しい価値を生み出す例は、デバイス・材料開発の分野でも少なくありません。そしてそのメリットは多彩であり、中小企業が参入する余地も大きいといいます。

連載「SDGsと第4次産業革命が変える社会で自社技術を活かす」

曽根純一(そね・じゅんいち)
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー

1975年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程を修了し、日本電気株式会社中央研究所に配属。83年、東京大学より理学博士取得。日本電気の基礎研究所所長、基礎・環境研究所所長、中央研究所支配人を歴任した後、2010年より国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)理事。15年より現職。JST-CREST「ナノシステム創製」研究総括、ナノ学会会長も務める。応用物理学会フェロー、物質・材料研究機構(NIMS)名誉理事を授与される。専門領域はナノテクノロジー、量子情報テクノロジー、環境エネルギーテクノロジー、先端材料。

◇主な編著書
・『表面・界面の物理(シリーズ物性物理の新展開)』(丸善/編著)1996年
・『ナノ構造作製技術の基礎(シリーズ物性物理の新展開)』(丸善/編著)1996年

取材日:2019年9月2日