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SDGsと第4次産業革命が変える社会で自社技術を活かす【国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー・曽根純一氏】<連載第4回>(全4回)

2019年11月 7日

AIやIoTといった技術が牽引する第4次産業革命と、SDGsやパリ協定といった国際合意の影響で、今後産業界に起こりうる変化をいかに企業の成長につなげていくかという観点から、材料・デバイス分野を専門とする曽根純一氏にお話を伺ってきた本連載。最終回の今回は、前回言及した企業連携について、そのメリットや取り入れる方法について伺った後、中小企業への期待やエールについても語っていただきました。

◆SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかに記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「気候変動」「エネルギー」「教育」など17分野の目標=「ゴール」と、17の各分野での詳細な目標を定めた169のターゲットから構成されており、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択された。2017年7月の国連総会では、各ターゲットの進捗を測定するため232の指標も採択された。

自社の技術をきちんと評価し、外部と積極的に交流する

次世代型の製品開発では、製品の性能をより高める新たなデバイスや素材、複雑で高度な技術などが必要になります。そこで自社に足りない技術を、他社との連携によって補う企業が増えていることは第3回の記事で紹介しました。

「他社に負けないコア技術を持っていながら、それを過小評価している中小企業は少なくありません。例えば、最先端の量子コンピュータを稼働させるために、ある町工場の同軸ケーブルが欠かせないといった話は多々、聞こえてきます。保有技術も問題意識も異なる他社と交流することで思わぬ製品やビジネスが生まれることもありますから、一度自社の技術をきちんと評価し、アンテナを高く張って、外部と積極的にコミュニケートしてほしいですね」

連携先の一つとして考えられるのが大学などの研究機関。学内研究をもとに先端分野で活躍する企業も多く出ています。

「素材・デバイス分野における大学発ベンチャーの実例としては、独自触媒の活用によって簡易な形でアンモニアなどを提供する『つばめBHB株式会社』や、人工RNA触媒を使って多彩なペプチド治療薬の素材を提供する『ペプチドリーム株式会社』などが挙げられます。また、大学と共同で次世代型電力用デバイスの研究を進める『株式会社FLOSFIA』などの企業もある。大学には実装の手段や費用がなく事業化できていない有望なアイデアも多いので、アプローチしてみるのも手だと思います」

また、各種展示会は多数の企業が集まる上、情報交換を歓迎する企業も多く、会場を歩いて話を聞くだけでも勉強になるといいます。

国内外で積極的に連携の道を探る

製品や材料の開発で他社と連携していくには、自社情報をある程度公開し、社外にアピールしていくことも必要です。特に海外では、外に出す情報の枠を広げ、オープンイノベーションに取り組む企業が増えています。

「なかでもドイツでは、独自の技術を持つ中小企業が国営研究機関のサポートを受けながら国外に出てオープンイノベーションを進めており、学会で広報するなど対外コミュニケーションに積極的です。そうした姿に日本の中小企業の未来像が見える気がします。私が所属しているCRDS(国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター)ではドイツの中小企業を招いたワークショップなども行っていますが、彼らの状況はウォッチする価値があると思います」

また、近年の状況でもう一つ注目すべきこととして曽根氏が挙げたのが、大企業のリショアリング。海外から日本に工場を戻す大企業が増えていると言います。

「IoTやロボットの導入で工場の省力化・効率化が進み、工場を日本に戻しても採算が合うと考える企業が増加しています。日本に戻れば、優れた中小企業の力を借りながら、高品質で信頼性あるサプライチェーンをつくっていける利点がある。大企業のそうした動きに注目してみると新たな発見があるかもしれません」

磨いてきた技術の活かし方を考える

SDGsやパリ協定といった国際合意とAIやIoTなどの新技術が産業界のニーズを大きく変えるなか、日本の中小企業の強みは何か。そんな問いに、曽根氏は次のように答えてくれました。

「私は東アジアの研究者と情報交換をする機会が多いのですが、彼らは『新しい技術を探すなら、日本に行くしかない』とよく言います。日本には100年以上続く中小企業が多数あり、各社が独自の技術を持っている。そうした企業が地道に、着実に、日本のものづくりを支えてきたわけです」

しかし技術の複合化が進む今後は、単一技術でビジネスをしていける機会は限られてきます。これからの時代を待ちの姿勢だけで戦っていくのは難しくなると曽根氏は指摘します。

「時代は変わっても、日本の中小企業にはずっと大事にしてきた技術があります。その技術に自信を持ち、ナノテクやバイオテクノロジーも駆使しながら、新たな価値を持つ製品や材料の活用にどう生かすかを考えることが大切です。ドイツの中小企業は、国のサポートをうまく活用しながら世界のマーケットで戦っています。日本でもナノテクプラットフォームなど国が多彩な支援の仕組みをつくっているので、それらを上手く使ってもらいながら日本の総合力で戦っていければ嬉しい。CRDSも日本の産業競争力の強化・向上に貢献できれば幸いです。」

連載「SDGsと第4次産業革命が変える社会で自社技術を活かす」

曽根純一(そね・じゅんいち)
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー

1975年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程を修了し、日本電気株式会社中央研究所に配属。83年、東京大学より理学博士取得。日本電気の基礎研究所所長、基礎・環境研究所所長、中央研究所支配人を歴任した後、2010年より国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)理事。15年より現職。JST-CREST「ナノシステム創製」研究総括、ナノ学会会長も務める。応用物理学会フェロー、物質・材料研究機構(NIMS)名誉理事を授与される。専門領域はナノテクノロジー、量子情報テクノロジー、環境エネルギーテクノロジー、先端材料。

◇主な編著書
・『表面・界面の物理(シリーズ物性物理の新展開)』(丸善/編著)1996年
・『ナノ構造作製技術の基礎(シリーズ物性物理の新展開)』(丸善/編著)1996年

取材日:2019年9月2日