農業ビジネスに挑む(事例)

「ヤンマーアグリイノベーション」儲かる農業ビジネスモデルの確立

  • 徹底した機械化によるコストダウンの試み
  • マネジメントできる担い手の育成

2010年9月、発動機の老舗ヤンマーは、農業イノベーションを目的に100%子会社の「ヤンマーアグリイノベーション」を設立した。

ヤンマーアグリイノベーションの目標は、生産から販売までを通して持続可能で儲かる農業のビジネスモデルを構築することであり、それを実現する手段として(1)次世代リーダーの育成(他産業からの新規参入の促進)(2)地域の活性化(3)6次産業化(4)農業生産の効率化と栽培技術でのイノベーションの促進の4項目を設定した。

農業を儲かる産業に変革できれば、次代を担う若者も必然的に参入してくる。それによって地域の活性化にもつなげられる。その儲かる仕組みを構築するために機械化や6次産業化がキーポイントになる。ゆえに、徹底した機械化により労働コストを抑え、農産物の販路を確保するとともに加工なども手がけて付加価値および収益性を高める。それが同社の目指す「儲かる農業のビジネスモデル」だ。

それを実践するため、2010年10月に広島県世羅町に4.6haの農場「ヤンマーファーム」を開設した。広島県が実施した「大規模野菜経営実証事業」(県内野菜の自給率を高める事業)の公募で同社が採択され、地元農業生産者から借り上げた農地で機械化農業の実践と次世代リーダーの育成を主体に事業を始めた。

ヤンマーファームでは、加工業務用野菜に特化して低コストな生産システムの確立を目指し、10haの農地を10名で運営して1億円の売上を目標すモデルケースの実証に取り組んでいる。

「儲かる農業のビジネスモデル」を構築するための実践の場として「ヤンマーファーム」を2010年秋に開設した

徹底して機械化を追求

儲かる農業を実践するためは徹底したコスト削減が重要になる。その1つの手段が機械化の追求であり、播種から収穫までの全工程を徹底して機械化し、極力手作業を削減することを試みる。例えば、キャベツの苗を植えたあとの畝間に生える雑草も従来は手で除いていたが、ヤンマーファームでは機械で除草する。さらにキャベツを収穫する専用機械を農業・食品産業技術総合研究機構と共同で試作し、従来より作業時間を大幅に短縮する可能性を見出した。

また、生産する農産物を加工業務用野菜に限定したこともコスト削減に寄与する。例えば一般消費者用に出荷するホウレンソウは傷みやすい外葉を人手で除かなければならないが、業務用ではその作業が不要なため労働コストを半減できるわけだ。

研修後には90%以上が就農する

次世代リーダーの育成では、県の緊急雇用対策(2010年度)で県内の企業から8名(1期生)の研修生を受け入れた。研修は1年を前期(4-9月)と後期(10-3月)に分け、前期で農作業の基本などを学び、後期では営農計画や栽培管理など農業経営を学ぶ。前後期とも農場での実践が研修の主体だ。

「新規事業として農業に参入する企業さんが派遣した研修生ということもあり、研修終了後には90%以上が実際に就農しています」(ヤンマーアグリイノベーション代表取締役社長、橋本康治さん)
 これまでに受け入れた2011年度の14名(2期生、3期生)、2012年度の15名(4期生)も含め、22名の研修終了者のうち20名が農業に従事したという。

同社が人材育成で注力するのが、マネジメントのできるリーダーの育成だ。農業計画を立案し、栽培技術や資材の購入などの生産管理から販売管理までをトータルにマネジメントできる人材を育てる。さらには栽培技術や営業戦略の問題点を自ら見極め改善できる能力を身に付けることを終極の目的としている。

広島県内の企業から研修生を受け入れ、次代の農業経営者を育成する

独自の販路を築く

既述のように同社の目指す儲かる農業の目標は10名で1億円の売上だが、そのためにはコスト削減のほかに販路の開拓・確保も不可欠であり、ヤンマーファームでは広島県飲食組合や地元スーパー、直売所、飲食店などに独自の販路を築いている。農産物の約半分は独自販路の顧客に契約販売する。つまり販路を確保できれば事業も持続できるというわけだ。

「儲かる農業になれば就業する人も当然増えるわけです」(橋本さん)

儲かる農業にするためにも経営的視点が重要であり、よって需要を予測して適切な時期に適切な数量を計画的に生産・供給すれば無用な値崩れを防げるという考えを前提に、同社では生産から販売までトータルにマネジメントできる人材の育成および生産効率を追求するための徹底した機械化に取り組んでいる。

現在、ヤンマーアグリイノベーション(社員6名)は農地を10.4haに拡張し、キャベツ、白ねぎ、ホウレンソウを栽培している。地元からは耕作放棄地の回復や次世代リーダーの育成などで熱い期待を寄せられている。また、2014年からは海外へも同社の事業を広げようと計画している。

「夢があればハードルが高くとも越えられます。そして成功によって得た自信により創造性が生み出されます」(橋本さん)

儲かる農業のビジネスモデルを追求するヤンマーアグリイノベーションの挑戦は国内外で続けられていく。

現在、エムスクエア・ラボはAGJの運営のほかに各種イベント(マルシェ、農業体験など)、農業の受託調査、IT化など新技術のコンサルティングも手がけている。

さらに一般消費者への農産物の販売も始め、企業を対象にそこに勤務する社員に契約生産者の農作物を販売している。現在、同社が取り扱う農産物は静岡県内産(主に秋冬産)だけだが、来年からは通年営業を前提に長野や岐阜など県外農家と契約して春夏野菜も取り扱う。農業生産者と顧客の仲介事業はさらに前へ前へと進んでいくようだ。

企業データ

企業名
ヤンマーアグリイノベーション株式会社
代表者
橋本康治
所在地
大阪市北区鶴野町1-9 梅田ゲートタワー