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淡路島から生パスタで「革命」を起こす「淡路麺業株式会社」

2025年 12月 15日

おいしい生パスタを全国へ供給する淡路麺業の出雲文人代表取締役
おいしい生パスタを全国へ供給する淡路麺業の出雲文人代表取締役

うどん店から始まった淡路島の中小企業が「日本のパスタ文化に革命を起こす」という壮大なビジョンを掲げ、生パスタ市場の拡大に挑んでいる。淡路麺業株式会社(兵庫県淡路市)の出雲文人代表取締役は「本当においしい生パスタ」を追求し、今やファミリー向けイタリアンレストランから五つ星ホテル、著名シェフのレストランなど全国約3500店舗に生パスタを供給するまでに同社を成長させた。

うどん店から製麺業へ 明石海峡大橋開通で経営難に

社屋併設の直営レストラン「PASTA FRESCA DAN-MEN」
社屋併設の直営レストラン「PASTA FRESCA DAN-MEN」

淡路島の北部に位置し、明石海峡大橋で神戸市とつながる淡路市。その大阪湾沿いの人工島の一画に、ひときわ目を引く黒を基調にした建物がある。全国各地へ生パスタを納入している淡路麺業の社屋と直営レストラン「PASTA FRESCA DAN-MEN(パスタフレスカダンメン)」、工場だ。市内の別の場所に本社兼工場があったが、「ここで働く若い人たちがカッコいいと思えて、夢が持てるような場所にしたかった」(出雲氏)との思いから、2015年12月に現在の拠点を完成させた。

同社の歴史は、1909年創業のうどん店「氷室商店」に始まる。戦後に製麺業を本格化した後、1968年には同店を含め島内の五つの製麺業者が集まり、淡路麺業を設立した。バブル期の1990年に売り上げのピークを迎えたものの、その後は減少傾向に。さらに1998年に明石海峡大橋が開通すると、本州から安価な麺が流入し、経営環境は一段と厳しくなった。そうしたなか、父・勉氏の跡を継いだのが出雲氏である。

出雲氏は元々、会社を継ぐつもりはなかった。しかし大阪府内の大学に進学して島を離れてみると、初めて淡路島の自然や食べ物、島に住む人たちの良さに気づいたという。そして大学3年のとき、「淡路島のすばらしさを全国に発信したい」と決心。事業承継を視野にまずは食品メーカーに入って業界で経験を積み、2005年に淡路麺業に入社。3年後に5代目に就任した。

「世の中にないもの」を求めて試行錯誤の末にたどり着いた生パスタ

1日4万~5万食の生パスタを製造
1日4万~5万食の生パスタを製造

島に戻った出雲氏は、現状打開に向けて商品開発に取り組んだ。「なにか世の中にないものを作ろう」と、麺にさまざまな素材を練り込んでみた。栄養豊富なキノコであるタモギダケの粉末や淡路島特産のタマネギ、さらにはスポーツが盛んな淡路島を訪れるアスリート向けにプロテインも試した。しかし、どれも思うようには売れず、試行錯誤の日々が続いた。

打開策のヒントを求め、うどんに限らず、いろいろな麺の食べ歩きを続けていた。そんな折、パスタを食べた出雲氏は疑問を抱いた。「おいしいうどんやそば、ラーメンの主流は生麺なのに対して、なぜパスタだけ乾燥麺が主流なのか?」「パスタも『本当においしい』を追求すればきっと生麺にたどり着くはず」。そう確信し、生パスタづくりへの挑戦が始まった。

ホテルシェフから高評価、“タウンページ営業”で第1号の取引先獲得

生パスタを使った「PASTA FRESCA DAN-MEN」のメニュー
生パスタを使った「PASTA FRESCA DAN-MEN」のメニュー

長年のうどんづくりで培ったノウハウを活かし、500回以上の試作を繰り返した末、淡路市内にあるウェスティンホテル淡路(現グランドニッコー淡路)のシェフに相談。試作品を食べてもらうと、「さすが麺屋さんだね」と高評価を得た。この言葉が自信となって商品開発が一気に進み、2007年11月、ついに生パスタが完成した。コシと弾力のある生パスタには、乾麺にはない風味とモチッとした食感があり、パスタだけを食べてもおいしいと実感できる。さらにソースがパスタに染み込みやすく、「具材も合わさると、奥行きのある味わいを生み出せる」と出雲氏は胸を張る。

続いて生パスタの売り込みをスタート。兵庫県内のタウンページを取り寄せ、掲載されているイタリアンレストランやカフェに「あ」から順番に電話をかけていった。断られることが多かったが、100件に1件ほどは「とりあえずサンプルを送って」と反応があった。そうして2007年12月、神戸・三宮の飲食店を出雲氏が訪問し、持参したサンプルを試食してもらった。すると乾麺との違いは明らかで、その場で使用が決定。こうして第1号の取引先が誕生した。

「おいしくない店」をなくしたい 直営レストランで磨いた味と提案力

取引先店舗などを対象に生パスタ講習会を実施
取引先店舗などを対象に生パスタ講習会を実施

「生パスタを食べたお客さんからは『このパスタ、なんなん?』『どうやって作ったん?』といった驚きの声も聞かれる」(出雲氏)と評判は上々だった。地道な営業活動に加え、シェフ同士の口コミもあって取引先は順調に拡大していく。一方で出雲氏には心の葛藤があった。「生パスタを使っていても、料理がおいしい店もあれば、あまりおいしくない店もあった」。しかし、取引先に対して面と向かって「おいしくない」とは言えずにいた。

やがて“おいしくない店”の一つが閉店してしまう。「こういった店を二度と出したくない」と考えた出雲氏は、2013年に直営レストランを開設。パスタのほか、ソースや具材まで含め、「どう調理すれば、よりおいしい料理が出来上がるのかを自ら実践した」(出雲氏)という。それ以降、同社の営業スタッフはフライパンを持参して取引先を訪問し、生パスタに最適な調理方法をその場で実演するようになった。

直営レストランの開設は、同社の新商品開発にとっても重要な役割を担っている。取引先のシェフが知人と来店して食事をした際、シェフは満足してくれたものの、連れの知人は「乾麺のパスタと変わらない」との感想を漏らした。プロには分かっても、一部の一般の人には生パスタと乾麺の違いが伝わっていなかったのだ。この一言にショックを受けた出雲氏は「モチモチ感を最大限に引き出した、誰が食べても乾麺との違いが分かる商品も作ろう」と決意。こうして“もっちもち”が特徴の「モッチリーニ」という商品が誕生した。現在、プロ向けの商品(淡麺プロ)は定番商品から季節限定商品など50種類以上に及ぶという。

2015年12月完成の社屋に隣接する第一工場(2021年に第二工場を増設)で「本当においしい生パスタ」を1日4万~5万食製造し、社屋併設のレストラン「PASTA FRESCA DAN-MEN」で生パスタを使った料理を提供している。誰が食べても違いが分かる生パスタは、常時約30種類から選ぶことができ、そのおいしさが評判を呼び、開店時間前から入店待ちの人たちの姿が見られるなど、多くの来店者で賑わっている。

「食卓でも生パスタを」と家庭用商品を発売、賞味期限は常温保存で180日

2025年4月発売の「淡麺(DAN-MEN)スパゲッティ2.0」
2025年4月発売の「淡麺(DAN-MEN)スパゲッティ2.0」

「日本のパスタ文化に革命を起こす」。同社が掲げるビジョンだ。取引先をさらに拡大していくとともに、家庭の食卓でも生パスタを味わってもらいたいと考えている。そして2025年4月、“プロが信頼する生パスタ”を作り続けてきた同社が、その技術と思いを今度は“家庭の食卓へ”と5年の歳月をかけて完成させた新商品「淡麺(DAN-MEN)スパゲッティ2.0」が登場した。

日持ちせず家庭用には不向きとみられがちな生パスタだが、同商品は常温保存で賞味期限が製造後180日あり、茹で時間も2分10~30秒と短い。茹でるときの塩も不要と簡単・手軽なのに、生パスタならではのモチッとした食感と弾力も楽しめる。「飲食店やレストランでは当然のように生パスタを使った料理が提供され、家庭の食卓でも生パスタが普通に楽しめる。そんな文化を日本に定着させたい」。これが出雲氏の目指す姿だ。

変貌を遂げる島から新たな食文化を

「PASTA FRESCA DAN-MEN」では約30種類の生パスタから選べる
「PASTA FRESCA DAN-MEN」では約30種類の生パスタから選べる

「淡路島のすばらしさを全国に発信したい」との思いで郷里に戻ってから20年。出雲氏が手掛けた生パスタの取引先は今や全国約3500店舗にのぼる。直営レストランには、島特産の野菜や海産物を具材にしたパスタ料理を目当てに、島内外から多くの人が訪れる。また、生パスタに魅了されて入社してきた若手社員も少なくない。「島で働く人たちが幸せでいられる場所にしたい」との思いを強め、「スタッフの物心両面の幸せの追求」を企業目標の一つに掲げている。

近年、淡路市では本社機能の一部を移した企業や、食の複合施設を手がける企業が相次いで進出し、島は大きな変貌を遂げつつある。そうした動きと歩調を合わせながら、淡路麺業は生パスタを通じてパスタを“麺そのものを味わう料理”へと進化させ、新たな食文化を広げようとしている。淡路島から日本のパスタ文化に革命を起こす挑戦は、これからも続いていく。

企業データ

企業名
淡路麺業株式会社
Webサイト
設立
(創業)1909年
資本金
1500万円
従業員数
67人
代表者
出雲文人 氏
所在地
兵庫県淡路市生穂新島9番15号
Tel
0799-64-0811
事業内容
麺の製造・販売、直営レストラン(PASTA FRESCA DAN-MEN)の運営、飲食店コンサルティング