Be a Great Small

浜野製作所

工場全焼を乗り越え、次世代にものづくりを伝承

町工場がたくさん集まる街・墨田区に、ひと際目を引く赤い建物が建っている。この建物内で金属加工業を営んでいるのが、株式会社浜野製作所である。創業は1968年であり、1993年に創業者が死去したことで、創業者の息子である浜野慶一氏が2代目社長として後を継いだ。顧客が求める製品アイデアを具現化し、設計・開発の上流工程から試作・小ロット生産、量産、・組立、検証の下流工程まで一貫したトータル提案を実現できることが強みである。

  • 従業員に権限・責任を委譲して自律型人材を育成
  • 顧客が求める製品を具現化し、トータル提案を実現
  • 次世代にものづくりを伝える社会的意義を意識した経営

お客様が求める価値を提供して新規受注獲得

先代は金型の職人であった。高度経済成長期には売上は順調だったが、浜野氏が会社を継いだ頃には安価である海外生産の金型が入ってくるようになり、次第に受注は減少していった。「量産製品は海外に仕事を取られてしまうが、一品ものの製品はまだ国内でつくれるはず」と浜野氏は考える。そこで、先代が行っていた量産に加え、多品種少量生産にも対応していくために、精密板金、試作工場を新たに建設することにした。

新工場の竣工を2000年9月にひかえた6月30日、近隣の火災によるもらい火により、当時の工場が全焼してしまった。地域住人からの支援により、仮工場でなんとか営業を再開し、資金繰りについては東京都と墨田区の公的制度を利用して設備資金と運転資金を確保した。現在は約2,500社と取引している浜野製作所であるが、先代から会社を引き継いだ当時は取引先の数が僅かであった。「このままでは会社の存続が危ない」と思った浜野氏は、知人に中小企業4社を紹介してもらい、早速営業に行くことにした。何度足を運んでも4社からは断られ続けたが、諦めずに営業訪問を続けたある日、ある1社から、「浜野くん、この製品を短納期でつくることができないか」と声をかけられ、1枚の図面を渡される。浜野氏はその場で図面を確認した時、「これは、うちの会社でつくれる」と確信した。提示された納期は2週間後。浜野氏は、「インパクトを与えるために、1週間で製品をつくって納品しよう」と考え、夜遅くまで仕事をして1週間で納品した。また、別の1社からは、「一品ものの製品を発注したいのだが、量産している会社からは、機械の段取り替えが面倒であることを理由に断られた」と連絡が入る。多品種少量生産を始めた頃だったので、「ぜひ、うちでやらせてください」と言い、受注を獲得した。その頃、「お客様は、短納期、一品ものに対応してくれる会社を求めているんだ」と浜野氏は気付く。その後も積極的に短納期、一品ものの受注を続けていくうちに取引先から信頼され、受注が増加したことにより、会社存続の危機を乗り越えることができた。

従業員を成長させるための環境と道筋づくり

浜野氏が2代目社長に就任してから、コーポレートカラーが赤になるきっかけとなる出来事があった。浜野氏は、「従業員には明るい色の作業着を着て元気に仕事をしてもらいたい」という思いから、作業着の色をグレーから赤に変更した。若い従業員はすぐに作業着を着用したが、古くからいる職人気質の従業員は新しい色をなかなか受け入れられなかった。しかし、社長が若い従業員向けと古くからいる従業員向けとで別々の指示を出してしてしまうと、従業員からの信頼は得られない。そこで、浜野氏は古くからいる従業員に赤色の作業着を選んだ背景を丁寧に説明したところ、古くからいる従業員は理解し、赤色の作業着を着てくれるようになった。この経験は、2代目社長に古くからいる従業員の使い方を教えてくれた。

会社が成長してきた現在、プロジェクト管理、採用、新人教育のカリキュラム構築など、一定の権限と責任を従業員に任せている。社長が従業員にいつまでも指示を出していては、それ以降の成長を期待できないからである。浜野氏は結果よりも過程を重視しており、従業員から適時報告を受ける際、自らがどのように考えてどのように行動したかをよく聞き出し、従業員の意見や判断を尊重するようにしている。これにより、指示待ち人間ではない、自律型人材を育成している。「従業員が成長していくために、まずは経営者が環境と道筋をつくることが必要です。その環境と道筋の中で、従業員は試行錯誤を繰り返しながら成功体験を積み重ね、自信につなげていきます」と浜野氏は語る。

また、従業員には、「常に経営者の目線で仕事をするように」と伝えている。ものづくりの現場にいると製品のことだけに目が行きがちだが、経営者の目線で仕事をしていくことで、その先にいる顧客のことも考えながら、広い視野で仕事ができるようになるからである。そのきっかけとして、浜野製作所では全従業員が経営会議に参加できる。今では全従業員のうち半分の約20名が経営会議に自ら参加している。これにより、従業員は経営にも参画しているという責任感を持ちながら、自分の仕事に取り組んでいる。

次世代にものづくりを伝えるために

浜野製作所では、大学生向けにインターンシップ制度を導入している。町工場は若い世代の人材が入社することが少ないため、インターンシップ制度で町工場と若い世代の人材をつなぎ、若い世代にものづくりの仕事を体験してもらう場を提供している。「彼らには、現場に来て手足を動かし、製品が完成した時の感動や満足感を味わってもらいたい」と浜野氏は語る。現在、新卒で入社した従業員はほぼ全員がインターンシップ経験者であり、新卒入社の離職率はゼロである。若い技術者の確保を積極的に行うことにより、社内での技術承継を進めて次世代にものづくりを伝えている。

墨田区の工場の数が年々減少する中、浜野製作所では、地元にある小学校の3年生の工場見学を毎年受け入れている。数年前、浜野氏は、工場見学に来たある女の子から絵日記をもらった。そこには次のことが書かれていた。

「浜野製作所には大きな機械があって、とてもかっこよかった。大きくなったら、浜野製作所で働きたいです。私が大きくなるまで、浜野製作所は潰れないでいてください」

この絵日記を読んだ時、浜野氏は、会社を続けていくことの社会的意義を感じた。「お金を寄付することだけが地域への恩返しではない。技術を含めて、人としての手本になる行動をすることで、今後も地域の人とつながっていく」

浜野製作所は3Dプリンターを始めとした高速試作が可能なデジタル工作機器を備えた、ものづくりベンチャーの支援施設「Garage Sumida」を運営しており、2017年の秋に向けて、この施設の機能拡張を行う予定である。次世代の若者がものづくりの世界に触れて活躍できるように、浜野氏はこれからも場づくりを続けていく。

数々の金属加工部品

「おもてなしの心」を常に持つ

経営理念、「『おもてなしの心』を常に持ってお客様・スタッフ・地域に感謝・還元し、夢(自己実現)と希望と誇りを持った活力ある企業を目指そう!」は、2000年6月の本社工場全焼をきっかけにつくられた。この経営理念は、従業員が仕事の方向性に迷った時の道しるべになるとともに、浜田社長が新規顧客との取引や新規事業のプロジェクト立ち上げを行う時の判断材料となっている。

企業データ

代表取締役CEO
浜野慶一
企業名
株式会社浜野製作所
Webサイト
法人番号
4010601014146
代表者
代表取締役CEO 浜野慶一
所在地
東京都墨田区八広4-39-7
事業内容
金属加工