SDGs達成に向けて

17ゴールを掲げる"新時代の薬局"を拠点に【株式会社平野(愛媛県今治市)】

2023年 7月 10日

SDGsの17ゴールを看板に表記した平野みらい薬局。おしゃれな外観も目を引く
SDGsの17ゴールを看板に表記した平野みらい薬局。おしゃれな外観も目を引く

愛媛県今治市のJR今治駅近くに異彩を放つ薬局がある。とりわけ目を引くのがSDGsの17ゴールを示すアイコンを表記した看板。この薬局を含め7つの調剤薬局を運営する株式会社平野が2019年5月1日にオープンした平野みらい薬局である。「健康と環境は表裏一体」(松田泰幸代表取締役)との考えから環境問題に始まり、その後、SDGsのゴールと紐付けた同社の取り組みは、令和の幕開けとともに誕生した新時代の薬局を拠点として地域に広がりを見せている。

全社員がeco検定を受検、エコアクション21を取得

平野会長(左)と松田代表取締役
平野会長(左)と松田代表取締役

瀬戸内海のほぼ中央に位置する今治市は古くから海上交通の要衝として栄えてきた。現在は全長約60kmの自動車専用道路「瀬戸内しまなみ海道」で本州(広島県尾道市)と結ばれており、陸上交通でも四国の玄関口となっている。

同社は1953年、今治駅前でお土産などを販売していた店舗に、平野啓三会長(前代表取締役)の父・祥三氏が薬店を併設したのが始まり。その後、調剤専門薬局を開局した1980年を創業の年とし、2年後に法人化した。2代目となる松田氏は平野会長の女婿にあたり、京都薬科大学大学院卒業後、製薬会社に就職し、東京都内で勤務していたが、2007年に夫婦で今治に移り、後継者として平野薬局に入社した。新生活の場となった今治について松田氏は「気候が温暖で、海の幸などの食べ物もおいしい。自然も豊かでとても住みやすいところ」と話す。

こうした環境で暮らし始めたことも影響してか、「健康と環境は表裏一体」との考えを抱くようになった松田氏は、2009年から環境問題への取り組みをスタート。東京商工会議所が実施する「eco検定」を全社員が受検するなどし、環境問題に関する意識付けを社内に広げていった。eco検定については現在も採用の際、入社前後に受検するよう位置付けている。経営指針に環境経営を位置付け、社内に環境委員会を設置して、薬局ができる環境への取り組みを社員一丸となって進めている。2013年5月から環境省が定める環境経営システム「エコアクション21認証」を取得し、以後更新継続している。こうした取り組みは外部からも評価され、2020年3月には「環境 人づくり大賞2019」(環境省など主催)の優秀賞(中小企業区分)を受賞している。

入社間もない若手社員2人をSDGs担当に任命

若い社員が中心になってSDGsのゴールと業務内容を紐付け
若い社員が中心になってSDGsのゴールと業務内容を紐付け

SDGsへの取り組みは2018年から。同社はすでに環境問題を中心に持続可能な社会を目指した活動を続けていたが、愛媛県中小企業家同友会主催のSDGs勉強会などに参加しているうちに、同社の目指すものとSDGsのゴールがリンクしていることに気づいたという。

その後、本格的にSDGsへの取り組みを開始したが、その際、キーパーソンとしてちょうどその時期に入社してきた女性社員2人をSDGs担当に任命した。担当者の一人は「環境への意識が高い会社だとは知っていたが、『SDGsってなに?』というのが正直な気持ちだった」と振り返る。そして、SDGsの17のゴールと同社の業務内容とを紐付けて考えるワークショップを社員全員で開催。若い新入社員が懸命に説明する姿を見て、社内に「自分たちも協力しよう」という思いが芽生え、会社が目指す重点ゴールなどを設定した。当初は戸惑いを見せていた担当者も「SDGsが自分たちの仕事の延長線上にあるものだと実感できた」と話す。「新しいことを始めるときはトップダウンで指示を出すより、キーパーソンを決め、若い人が中心になって進めた方が現場にも馴染みやすい。『SDGsやりなさい』ではなく、みんなで取り組むキーワードとして進めたのがよかった」(松田氏)という。

「すべての人に健康と福祉を」など4つの重点ゴール

ワークショップでの紐付けを行った結果、薬局という業務、女性が多いという職場環境などから、17のゴールのうち7つのゴールを抽出。さらに関連が特に深い4つ(「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「働きがいも経済成長も」「住み続けられるまちづくりを」)を重点ゴールに位置付けた。

このうち「すべての人に健康と福祉を」はまさに薬局の本業に関わるもので、達成のための具体的な目標である13のターゲット(妊産婦の健康、感染症への対処など)とも細かく紐付けを行った。「質の高い教育をみんなに」については、インターンシップや職場体験を行い、学生や子どもたちに働くことについて考える機会を提供。さらに社員の生涯学習の機会を促進している。

平野薬局のSDGs~本業から関連するゴールへ~

また、「働きがいも経済成長も」では、とくに女性が働きやすい職場づくりを重視。家庭の事情で島根県に移住した後もフルリモートで仕事を続けている女性社員がいるという。「健康経営」にも力を入れている。働き方改革などを通じて社員の健康が維持できれば、業務の能率や会社のイメージが向上する一方で、医療費負担が軽減するなどし、結果的に会社の業績がアップするという好循環を生み出す。こうした健康経営への取り組みも評価され、「健康経営優良法人ブライト500」の認定を受けている。

さらに「住み続けられるまちづくりを」は、「今治の地に根を張った薬局業務を創造発展させ、保険調剤&ヘルスケアで地域の皆様のQOL(生活の質)の向上に貢献します」(一部省略)とした同社の経営理念に深く関連したゴール。県内第2の都市である今治市でも人口減少が進むなか、若者や高齢者など様々な世代が健康に、そして安心して暮らせるまちづくりに向け、地域のステークホルダー(利害関係者)との協力を進めている。

10年ビジョンに盛り込まれた新たな薬局像

管理栄養士の資格を持つ社員による料理レシピを掲示
管理栄養士の資格を持つ社員による料理レシピを掲示

SDGsへの取り組みを語るにあたって忘れてならないのが同社の10年ビジョンだ。ビジョンは2025年を目標年度として2015年に策定。そのメインテーマは「健康なときも、そうでないときも、一番に思い出してもらえる存在でありたい」。薬局は病気やけがなど健康でなくなったときに訪れる場所というイメージだが、松田氏は「健康づくりをしたり、予防や未病などについて相談に来てもらったりできるような場所になりたい」と話す。

そして、このビジョンに盛り込まれ、その後に実現したのが平野みらい薬局である。「これまでの薬局業務にとらわれず、地域に合った新しい価値を生み出す薬局」という新たな薬局像を具現化したものだ。薬局の建物もエコや持続可能性にこだわっており、資源を有効活用する木造のCLT工法では嶺北地方のスギ材を使用し、地中熱のGEOパワーシステムやソーラーパネルなど、クリーンエネルギーを使用することで、訪れる人の心と体が心地よく過ごせる空間をつくっている。1階の店舗部分には相談スペースやエコショップなどを設置。管理栄養士の資格を持つ社員による健康づくりのための料理レシピも掲示されている。2階にはイベントスペースがあり、ヨガ教室や料理教室などを開催。まさに健康なときにも利用できる薬局となっている。

外観は薬局とは思えないほどおしゃれで、カフェに間違えられるほどだという。とくに目を引くのが、SDGsの17ゴールのアイコンを表示した看板だ。これは平野会長の発案によるもの。実際に完成すると強いインパクトがあり、評判は上々だ。看板を見た人たちから「見学したい」と問い合わせも寄せられるという。社員からも「看板を目にすると自分たちが目指すものが再確認できる」と話す。

同薬局は地域ESD活動推進拠点にも登録されている。ESDは、持続可能な社会の実現を目指して行う学習や教育活動のことで、重点ゴールのひとつ「質の高い教育をみんなに」の達成に向けた活動の場となっている。

"think globally, act locally"地域と連携して活動を積み重ね

新時代の薬局を拠点にSDGsの取り組みを進める
新時代の薬局を拠点にSDGsの取り組みを進める

コロナ禍で一部の活動が中断・縮小されることもあったが、同社の取り組みはたゆまなく続いている。重点ゴールではないが、「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」の達成に向け、平野みらい薬局を含めた4店舗で太陽光発電を設置し、配達業務用に電気自動車も導入している。さらに2021年8月にはすべての薬局で使用する電気を再生可能エネルギー100%の電力に切り替えた。

このように重点ゴールに限らず、SDGs全般に関連した活動を推進しているが、「SDGsの取り組みはまだまだ途上」と松田氏は話す。「"think globally, act locally"(地球規模で考えて、足元から行動せよ)という標語がある。一人ができることは小さくても、それをやる人が増えれば大きな力になる。これからも地域の方々と連携し、派手さはないが、小さな活動の積み重ねていきたい」と意気込みを語った。

企業データ

企業名
株式会社平野
Webサイト
設立
1980年(1982年に法人化)
資本金
3000万円
従業員数
38人
代表者
松田泰幸 氏
所在地
愛媛県今治市北宝来町2-2-22
事業内容
調剤薬局の運営