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スピーディーな事業展開を進める“こだわりの酒店”「有限会社リカーショップスドウ」

2023年 5月 1日

“こだわりの酒店”を展開するリカーショップスドウ代表取締役の須藤利明氏
“こだわりの酒店”を展開するリカーショップスドウ代表取締役の須藤利明氏

茨城県の県庁所在地・水戸市の表玄関であるJR水戸駅。多くの乗降客が通過する改札口のほど近くに店を構えるのが「いばらき地酒バー水戸」だ。「関東屈指の酒どころ」を称する県が地酒PRのために昨年11月にオープン。県内35蔵元・約100銘柄の地酒を1杯(60ml)300円(税込み)で味わえるとして注目され、恒例の「水戸の梅まつり」の期間中には1日最大680人が来店し、約70平方メートルの店舗内は大賑わいとなった。この新たな人気スポットの運営を任されているのが有限会社リカーショップスドウ。中小企業ならではスピーディーな事業展開を進めており、創業の地・つくば市を中心に7店舗を構え、新たにインターネット販売もスタートさせている。

各地とっておきの地酒・焼酎を発掘、高い利益率を維持

スドウ酒店は1936年に創業
スドウ酒店は1936年に創業

同社の歴史は、現代表取締役・須藤利明氏の祖父である春治氏(故人)が1936年、谷田部町(当時、現つくば市)に創業したスドウ酒店に始まる。須藤氏は当初エンジニアを目指していたが、東京理科大学在学中に結婚、さらに子どもも産まれることとなり、考えは一変。「すぐにでも働いて稼ぎたい」と思い、大学を中退し、1991年に2代目の父・孝明氏から事業を承継。これを機に店を法人化し、有限会社リカーショップスドウが誕生した。

しかし、経営方法をめぐって須藤氏は祖父、父と激しく対立した。定価販売が当たり前だった酒類販売についても規制緩和が進み、ディスカウント店が登場するなか、消費者利益を考えて自分たちも値引き販売すべきだと主張する須藤氏に対し、祖父と父は「安売りは仲間内の同業者の客を奪うことになる」と断固反対。大手メーカーの定番商品では事業拡大は無理だと悟った須藤氏は「ならば一般の酒店ではあまり売られていない各地の地酒や焼酎を扱っていこう」と考えた。

とはいえ、当時はインターネットが普及しておらず、情報を入手するのにはひと苦労。幸い、研究施設が多いつくば市には転勤などで全国さまざまな場所から移り住んでいる人が多く、その人たちからの情報などをもとに須藤氏は各地に足を運び、とっておきの銘柄の発掘に努めたという。その中のひとつが鹿児島県の芋焼酎「森伊蔵」だ。名前が知れ渡った現在でも入手が困難といわれるなか、同社は特約店として“幻の焼酎”を取り扱っている。

こうしてスドウ酒店は、各地の隠れた銘酒や焼酎などを取りそろえた“こだわりの酒店”に変貌。高付加価値の商品を扱うことで一般の酒店に比べて高い利益率を維持しているという。

つくば研究学園地区に相次いで2店舗オープン

「美酒堂」の看板を掲げる研究学園店
「美酒堂」の看板を掲げる研究学園店

2011年の東日本大震災は同社にとっても大きな転機となった。茨城県内でも大きな揺れが続き、店内の商品は崩れ落ち、在庫の3、4割を失ったという。また震災後の自粛ムードで酒類の販売は低迷した。「このままでは会社は続けられない。従業員も守れない」と危機感を抱いた須藤氏は新規の店舗展開に着手した。長年にわたって規制に守られてきた酒販店の場合、「買いたい人はウチの店まで買いにくればいい」という意識が強かったが、「これからは客のいる場所に店を出すべき」と考え、つくば市役所が移転し、今後の発展が期待されるTX(つくばエクスプレス)研究学園駅近くに出店を計画。地元の地銀から2億円の融資を受け、店舗建設を進めた。

すると、時をほぼ同じくして、近くの大規模商業施設「イーアスつくば」を運営する大和ハウス工業から同施設への出店を持ち掛けられた。「集客力のある施設内に同業者が出店したらウチの新店舗には客が来なくなる」と危惧した須藤氏は、「イーアス」内への出店も決意。ところが父・孝明氏は猛反対。当時は父がリカーショップスドウの代表だったため銀行からの追加融資は受けられなかった。困った末に須藤氏は自己資金で別会社を立ち上げ、その会社名義で政府系金融機関から融資を受けることに。こうして2015年3月にイーアスつくば店が、同7月に研究学園店が相次いでオープンすることとなった。そして、新店舗開業を機に新たな屋号「美酒堂」の看板を掲げた。

日本酒、焼酎のほかにワインも取り扱う
日本酒、焼酎のほかにワインも取り扱う

2店は500メートルほどしか離れていないことから、差別化を図るため、研究学園店は「これまで以上にこだわりの銘柄ばかりを取りそろえた“超専門店”というスタイルにした」という。一方のイーアスつくば店は、商業施設を訪れる多くの買い物客らに「美酒堂」を知ってもらうための広告塔となり、新規顧客の開拓に役立った。客単価も、高価な逸品を扱う研究学園店が5000円台なのに対し、お手頃価格の商品が中心のイーアスつくば店は2000円台と、すみ分けもできている。

力を合わせて事業化を進めるために経営理念を作成

テレビ局の撮影取材を受ける「いばらき地酒バー水戸」
テレビ局の撮影取材を受ける「いばらき地酒バー水戸」

店舗展開を機に須藤氏は経営理念を打ち出すこととした。「従業員みんなで力を合わせて本格的に事業化を進めていくうえで、旗印となるものが必要だと感じた」と須藤氏。その頃、茨城県中小企業家同友会から経営理念に関するセミナーの案内があり、会員ではなかったが、セミナーに参加。「質の高い商品とサービスを提供し 人を街を 元気にする」との経営理念を作成した。「いい会社をつくり、会社を取り巻くすべての人たちが幸せになれるようにしたい。そんな想いを表した」(須藤氏)という。

セミナーに参加したことで貴重な出会いもあった。イーアスつくば店出店のための融資獲得に苦しんでいたとき、茨城同友会会員の税理士と知り合い、融資を受けることになる政府系金融機関を紹介してもらった。そうした経緯から自然の流れで同友会に入会することとなった須藤氏は「それまで同業者同士の付き合いがほとんどだったが、同友会の会合などで異業種の経営者らと交流ができ、非常にいい勉強となっている」と話している。

コロナ禍にめげず3店舗、ネット販売もスタート

店を手伝う次男・虎治郎氏(左)とともに
店を手伝う次男・虎治郎氏(左)とともに

店舗展開はその後も続き、2019年6月には首都圏中央連絡自動車道(圏央道)つくば牛久IC近くの商業施設内にAEONつくば店がオープン。さらに、コロナ禍で飲食業界が大打撃を受けるなか、昨年4月にブランチ守谷店(茨城県守谷市)と流山おおたかの森店(千葉県流山市)を相次いで開店。いずれも大和ハウス工業が展開する大規模商業施設内への出店で、「イーアスつくば」での実績が認められ、さらなる出店を打診されたものだ。県から運営を委託されて同11月にオープンした「いばらき地酒バー水戸」を含め、現在7店舗を展開している。「コロナ禍で飲食店からの注文はゼロになった一方で、家飲み需要が出てきた。ピンチの時にこそチャンスがある。スピーディーで小回りの利く中小企業のメリットを発揮し、その時々の環境に合わせた事業展開を進めていきたい」と須藤氏は話す。

今後はネット販売に力を入れていく。「いばらき地酒バー水戸」で県内地酒の認知度が高まり、来店客からは「また飲みたい。どこで購入できるか」という問い合わせが急増。この好機を逃してはいけないと県が今年2月、須藤氏にネット販売の開始を要望したのだ。翌月に通信販売のため酒類販売免許の条件緩和を済ませ、4月には早くも「いばらき地酒バーオンラインショップ」を開設した。

「祖父(春治氏)が『泣いても酒、笑っても酒。お酒は人の悲しみを癒し、喜びを増やしてくれる』とよく話していた。どんな時でも酒は必要とされているもの、役立つもの。そういう商品を販売しているというプライドを持って仕事を続けていきたい」と須藤氏は話している。

企業データ

企業名
有限会社リカーショップスドウ
Webサイト
設立
1936年2月創業、1991年3月法人化
資本金
1000万円
従業員数
15人、ほかにパート50人
代表者
須藤利明 氏
所在地
茨城県つくば市谷田部2985‐2
Tel
029-836-0079
事業内容
酒類小売・全酒類卸売業