激変する時代を乗り越える中小企業
住宅事業から暮らしの価値提供企業へ【株式会社三五工務店(北海道札幌市)】
2023年 7月 20日
1. 事業内容をおしえてください
三五工務店は、大工の棟梁だった祖父、田中藤雄が良質な住宅を地域に提供したいとの強い想いから昭和33年に創業し、昭和48年に法人化した。営業部署を置かず、設計担当者が直接お客さまの要望を聞き、一緒に創り上げるスタイルで事業を行ってきた。何度も打ち合わせが必要で、手間暇はかかるが、顧客満足度の高い住宅づくりができていると自負している。私が経営に携わるようになってから「暮らしづくりを通して、幸せをつくりだす」を経営理念に掲げ、住宅・商業建築・リフォーム・リノベーションと暮らしに関わるビジネスへと領域を拡大した。現在は、三五工務店を中核に、規格住宅を中心とした「リヴスタイル」、店舗内装工事・カフェの運営・家具販売を手掛ける「35design」の3社で35GROUPを形成している。2022年4月期の売上高は、三五工務店が18億2100万円、35GROUPで24億円となっている。
2. 昨今の外部環境の変化でどのような影響を受けましたか
木材価格が高騰する「ウッドショック」に合わせ、建材の高騰にも見舞われた。足元の価格高騰は、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻などの国際情勢の変化が要因だが、それ以上に、日本は国土の約7割が森林という森林大国でありながら、木材を輸入に頼っていることそのものが問題だ。目先のコストだけを考えれば輸入材の方が安いのは事実だが、「このままでいいのか」という思いを抱いている。環境への負荷を考えても長距離輸送は温室効果ガスの排出増を招いている。長期的な視点で考えていかなければ、日本の林業そのものがなくなっていくという危機感を持っている。また、住宅産業そのものも、人口減少社会の中で見れば衰退産業となっていく。ウッドショック・土地の高騰・着工棟数の減少、さらには道内に大手ハウスメーカーが進出するなどで、住宅事業の集客、受注、利益率は何も手を打たなければ悪化していくだろう。先を見据えた事業展開を進めていかなければならない。
3. どのような対策を講じましたか
木材の地産地消を進めている。北海道の森林にはカラマツ、トドマツ、道南杉、ミズナラなど、地域の特性に合った樹木がたくさんある。長い年月を過ごす家には、暮らす地域の気候に適した材料が最適だ。当社が施工する住宅には、道産のカラマツを家づくりの中心となる構造材に、その他床や天井、壁の材料にも積極的に道産材を活用している。国産材価格も高騰しており、利益だけを考えれば割に合わないかもしれないが、長い目で見れば、こうした取り組みが北海道の林業を守り、職人の技術も継承されていくと信じている。
消費者の理解を得るために、それぞれの特性を活かした木々の魅力を発信し、木と共に暮らす楽しさ・喜びをたくさんの方へ伝えるため、講演活動やホームページ、SNS等で道産木材の魅力を発信する努力も続けている。自社で北海道の魅力を発信するフリーペーパー「35MAGAZINE」を発行しているが、2022年度の日本地域情報コンテンツ大賞内閣府地方創生推進事務局長を受賞するなど、評価していただいた。「時とともに育つ家」をコンセプトとした経年変化を楽しみながら環境負荷が少ない家づくりという当社のコンセプトに共感してくれる消費者も増えてきたことを実感している。
このように住宅事業は高級住宅へシフトし、価格競争とは一線を画した戦略をとる一方で、業務領域を商業建築や戸建て賃貸事業へと拡大させている。近年はボールパーク事業の受注や、ホテルの内装改修、ニセコでのヴィラの受注など領域が広がっている。
また、事業の拡大を支えるためには組織力を強化しなければならない。経営理念を具現化し、毎年やるべきことを示した当社の指針となるものとして「経営計画手帳」を作成し、社員にも配布している。社員一人ひとりが、手帳を見れば理念に基づいて仕事ができているかを確認することができる。
一方、物価高対策として社員にインフレ手当として、15万円・20万円と支給してきた。政府は企業に3%の賃上げを要請しているが、当社はそれを上回る実績を出している。また毎月お米を5キロずつ社員に配っており、社員が生活に困るようなことにならないように配慮している。
外部人材も積極的に活用している。大手電子部品メーカーの元経営幹部を顧問に招き、毎月経営についてアドバイスをもらっている。経営者は孤独と言われるが、外部の方に相談することで、自分だけの判断だけではない気づきも与えてもらっている。
4. 今後はどのように展開していきますか
「北海道の暮らしの新しい価値を提供する」を目指して領域を拡大させていく。その一つとして、宿泊事業、観光客向けの暮らしの提案をしていきたい。具体化の一つとして、小樽に近い日本海に面した銭函に長期滞在を念頭にした宿泊施設2棟を近く開設する。道産木材をふんだんに使い、北海道の自然やおいしい食べ物、アクティビティを体験してもらうように工夫している。北海道には観光地がたくさんあるが、意外に長期滞在型の宿泊施設は少ない。観光というより、北海道の暮らしを1週間体感できるような場所にしたい。すでに海外から予約サイトを通じて宿泊予約が入っている。近隣の土地も取得しており、今後飲食店や暮らし関連の雑貨店なども設け、「北海道の暮らしが集まる山」の構想も進めていく。
これからが本当の勝負になると思っている。企業としての生き残りをかけて、住宅・商業建築・リフォーム・リノベーション・戸建て賃貸・店舗内装・宿泊業の提案など、木材を使う会社として、点ではなく、面でとらえていきたい。結果としてそれが地域を豊かにすることに貢献する企業になれることだと信じている。
企業データ
- 企業名
- 株式会社三五工務店(株式会社リヴスタイル、株式会社35design)
- Webサイト
- 設立
- 1958年3月5日
- 資本金
- 3500万円
- 従業員数
- 三五工務店42名(35GROUP3社合計で74名)
- 代表者
- 田中裕基 氏
- 所在地
- 北海道札幌市北区北34条西10丁目6番21号
- Tel
- 011-726-3535
- 事業内容
- 住宅・商業建築・リフォーム・リノベーション・戸建て賃貸・店舗内装・宿泊業の提案など
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