あすのユニコーンたち

商用EVをファブレス生産 環境インフラ構築を目指す【フォロフライ株式会社(京都市下京区)】

2025年 5月 8日

フォロフライの小間裕康代表取締役
フォロフライの小間裕康代表取締役

脱炭素化に向けて電気自動車(EV)への転換が求められているが、日本は海外に比べ大きく出遅れているのが実情だ。京都市下京区のスターアップ企業、フォロフライ株式会社は2021年にファブレス方式で商用EVを生産・販売する事業をスタート。大手物流会社が導入を決めるなど大きな成長が期待されている。その取り組みが評価され、代表取締役の小間裕康氏は「第24回Japan Venture Awards」(中小機構主催)で最高賞の経済産業大臣賞を受賞した。

「シェアエコ」の考え ものづくりに生かす

フォロフライが開発した商用電気自動車「F1」のバンタイプ
フォロフライが開発した商用電気自動車「F1」のバンタイプ

「自動車メーカーが作るEVはガソリン車の3倍以上の価格になる。そうなると、物流会社には採算が合わない。ならば、複数の自動車メーカーが開発費を分担して作るやり方だったら、ガソリン車と変わらない価格で製造できるのではないか。シェアリングエコノミーの考えをものづくりに生かした」と小間氏は創業の経緯を語った。

フォロフライが製造販売する商用EV「F1」はバンとトラックの2車種ある。バンは積載量1トンクラスで、300キロの走行が可能なバッテリーを備えている。物流の最終集荷場から顧客のもとに荷物を届ける「ラストワンマイル」に最も適したサイズの車両だ。

製造は中国の大手自動車メーカーが担当。この会社の車体をベースに日本の安全基準に基づいた性能をフォロフライが追加で100カ所以上の追加開発を設計し、装備した。2021年10月に国土交通省から道路運送の保安基準に適合していることが認められ、最初のナンバー交付を受けた。当時の一般販売価格は380万円。資材価格の影響から現在は500万円だが、補助金適用後約320万円で購入でき、物流会社が導入しやすいガソリン車と同等の価格を実現させている。

車体を一から開発すれば、莫大な開発費用をかけなくてはならない。一方、中国メーカーにはガソリン車の時代から蓄積してきた車体製造の実績がある。その開発済み車体を活用することで初期開発費を下げるとともに、フォロフライは日本に必要な安全性能の開発に注力する。ものづくりを“シェア”することで製造コストを削減した。

「パソコンに例えるなら、莫大な開発費がかかり、共通部品として提供されるOSやCPUには手を出さない。スタートアップ1社ではできることが限られているので最初から大手の力を借りた」と小間氏。米アップルがスマートフォンの製造を海外メーカーに委託するのと同じ手法をEVに当てはめた。

開発した商用EVは、大手物流会社が最大1万台導入することを決定したのをはじめ、100社以上の物流会社やメーカーなどが導入を進めているという。また、大手商社の系列会社と販売代理店契約を締結。全国的な販売ルートを確保した。

京大大学院に入学 EVと出会う

実は、小間氏はスタートアップの分野ではよく知られた人物だ。

大学在学中に家電メーカー向けのアウトソーシング事業を展開し、事業を成功に導く。その後、「経営をもう一度学び直したい」と2009年京都大学大学院経営管理教育部に入学した。その転身がきっかけとなってEVと出会った。

当時、京都大学が取り組んでいた「京都電気自動車プロジェクト」に参画。翌年にはスポーツカータイプのEVを製造するグリーンロードモータース(現GLM)を設立し、社長に就任した。2014年に日本初の量産EVスポーツカーの国内認証を取得。2015年に伝説のスポーツカーといわれた「トミーカイラZZ」をEVとして蘇らせた。その後、GLMの経営から退くと、ベンチャーキャピタルを設立。自身の経験を活かし、起業家支援にも乗り出した。

支援を受ける側から支援する側の立場に立ち、経営に対する新たな学びが加わった。その中で、「もう一度、事業をやりたい」という思いを強くし、EVビジネスへの再チャレンジを決心したという。そんな小間氏の経歴から「連続起業家」と呼ぶ人も多い。

技術と仕組みで 街の風景変える

フォロフライの商用EVは、バンタイプ(上)とトラックタイプの2車種ある
フォロフライの商用EVは、バンタイプ(上)とトラックタイプの2車種ある

「やっていることは最初から基本的には変わっていない。一つずつ解決して、高みを目指す。それがいい形で回っているのが、今だと思っている」と小間氏は語る。フォロフライは、創業から3年で黒字化を実現。さらに、フォロフライを囲むようにEVビジネスのエコシステムも生まれつつある。

企業向けに車両の効率的な運行などを支援するフリート管理サービス会社がフォロフライの商用EVをサービス対応車種に決定した。大手損保会社とも連携し、車両整備の全国ネットワークを整えた。「生産は中国だが、海外生産をうまく活用しながら日本の企業が収益を上げる仕組みもできている」と小間氏は胸を張った。

国内自動車メーカーとの連携にも前向きだ。「ものづくりの現場は余剰資産が多い。工場の余った生産能力を活用して、当社のEVを製造してもらう。それによって地産地消も実現できる。多くの企業を巻き込み、エコシステムを作ることが大事」としていた。

商用EVのビジネスを通じて小間氏が先に見つめるのは環境対応型インフラサービスの提供だ。「『技術と仕組みで街の風景を変える』がわれわれのテーマ。これからのものづくりはソフトウェアやアプリケーションと密接につながっていく。バッテリーの交換システムやフリート管理システムの開発などを他社と共同で進め、人々がワクワクするような新しい街の風景を作っていきたい」と小間氏。環境にやさしい物流システムの構築やまちづくりに意欲をみせていた。

「日本流」のスタートアップ成功モデルにもチャレンジ

第24回JVAで経済産業大臣賞を受賞した
第24回JVAで経済産業大臣賞を受賞した

「スタートから大きな目標を考えるべき」

起業家としての経験が豊富な小間氏。これから起業を目指す人たちに向けて、こんなメッセージを送る。小間氏自身、最初の起業では目先の利益や数年先のイメージしか見えていなかったそうだ。しかし、経験を重ねる中で、大きな目標を最初に描いたほうが、ゴールが早いと感じるようになったという。「今の自分が駆け出しのころの自分に何かアドバイスをするならば、『最初からもっと大きなビジョンを持ちなさい』と言っていた」と笑顔を見せた。

また、小間氏はスタートアップ先進国であるアメリカのビジネス戦略については「アメリカ流だけを勉強してもあまり意味がない」とも指摘する。

アメリカのスタートアップは独占型で、1社がすべてを抱え込み、「自分たちですべてやる」というスタイルで事業を推し進めているが、日本では必ずしもそれがうまく当てはまらず、さまざまなノウハウを持った企業が連携してビジネスを作ることでエコシステム全体としての成長が得られると訴えている。

世界で成功した日本の大手自動車メーカーが部品サプライヤーを活用・育成し、地場資本の販売チャネルを構築し、成長に結びつけた。その水平分業の領域をフォロフライはさらに広げ、さまざまな企業を巻き込みながら成長を加速させている。「これは起業家に対して求められているやり方だと感じている」と語る小間氏。フォロフライの事業を通じて、日本流のスタートアップ成長モデルの構築にもチャレンジしている。

企業データ

企業名
フォロフライ株式会社
Webサイト
設立
2021年8月
従業員数
30人(委託社員・パート含む)
代表者
小間裕康 氏
所在地
京都市下京区中堂寺粟田町93 KRP4号館
Tel
078-891-7117
事業内容
次世代自動車の開発販売、環境対応型インフラサービスの提供