農業ビジネスに挑む(事例)

「アグリグラフジャパン」農産物のつくり手と買い手を結ぶ

  • 生産者と顧客の双方に必要な情報を提供する
  • 農産物の栽培管理を遠隔操作できる

農業のことを知りたくても他の業界からは情報を得にくい。しかし、その情報が少しでもオープンになれば農業も盛り上がれる。そう考えエムスクエア・ラボの代表取締役・加藤百合子さんは、2009年12月に農業情報を発信するWebサイト「わいファーム」を立ち上げた。農産物の売買、農器具の貸借、農作業の受・委託を会員制で行うサイトだった。

しかし、わいファームは半年であえなく閉鎖した。思ったように会員が集まらなかったからだ。サイトの宣伝不足もあったが、なによりも「農家さんにとってはそこまでして農産物を売るつもりはなく、むしろ大儀だと思われたよう」(加藤さん)だったからだ。

農産物のつくり手と買い手に農業情報を提供するWebサイト「アグリグラフジャパン」

そこで一転して静岡県の補助事業(2010年度緊急雇用対策事業)に応募してみたところみごとに採択され、2010年7月に新しく農業情報のWebサイトとして「アグリグラフジャパン」(AGJ)をオープンさせた。サイトのコンセプトは農業生産者と顧客(スーパー、飲食店など)をつなぐ仲介役。そのために生産者の農作業や農産物の特徴などを聞き、毎日10本のレポートをサイトに掲載した。

さらにレポートは英語、フランス語など5カ国語にも翻訳した。

「日本に在住の外国人はもとより、海外でも日本料理や日本の食材がたいへん興味をもたれています。ならば、国内だけでなく海外へも日本の農産物をもっとアピールすべきだと考えました」

日本の農産物に対する海外の潜在需要は高いと判断しての行動だった。さらに翌年も同じ補助事業に採択された加藤さんは、農業生産者の輸出や海外向けPRなどのサポートを通して海外展開にもチャレンジした。

実質的には農業生産者の営業代行

AGJのコンセプトは農業生産者と顧客の仲介であり、生産者にとってのメリットは契約により価格と数量を事前に確定させたうえで生産できること、また、スーパーや飲食店などの顧客にとってのメリットは気候変動などによる価格上昇(コスト増)のリスクを回避して安定した経営をできることだ。

「双方のメリットを前提に農産物をスーパーや飲食店に卸します。仲介役ではありますが、実質的には農業生産者の営業代行です」
 現在、仲介の対象となる生産者、顧客はともに20軒。顧客に対してAGJは、「農の現場」というコーナーで生産者の作業の推移(農産物の生育状況)を適宜情報発信し、生産者に対しては顧客の需要(農産物の品質や形状、個数など)を非公開で伝え、双方にとっての情報の「見える化」を図っている。

生育状態を24時間チェックできる

この農業生産者と顧客の間の仲介事業は2012年春から「ベジプロバイダー」の名称で展開されている。

また、「見える化」については情報交換のみならず生産者の栽培技術でも導入が始まっている。これは「フィールドサーバー」という遠隔計測・監視システムで、農地の温度や湿度、土壌温度、日照量を各種センサーで測定し、カメラで農作物の生育状態を監視する。測定データは無線RANを経由してインターネットで24時間チェックできるため、農地から離れた場所でも作物の状態を把握できる。

「常に現場にいなくても遠方からでも農地の状態を見える化でき、次の農作業や収穫のタイミングを判断するバックデータに活用できます」

2011年の初夏から契約農家への導入を始め、現在では5カ所の農地で稼働させ、効率的で安定した生産を追求している。

各種センサーとカメラで農作物の生育状態を遠隔から監視する「フィールドサーバー」

現在、エムスクエア・ラボはAGJの運営のほかに各種イベント(マルシェ、農業体験など)、農業の受託調査、IT化など新技術のコンサルティングも手がけている。

さらに一般消費者への農産物の販売も始め、企業を対象にそこに勤務する社員に契約生産者の農作物を販売している。現在、同社が取り扱う農産物は静岡県内産(主に秋冬産)だけだが、来年からは通年営業を前提に長野や岐阜など県外農家と契約して春夏野菜も取り扱う。農業生産者と顧客の仲介事業はさらに前へ前へと進んでいくようだ。

企業データ

企業名
アグリグラフジャパン (運営会社:株式会社エムスクエア・ラボ)
代表者
加藤百合子
所在地
静岡県菊川市堀之内110-1#102