農業ビジネスに挑む(事例)
「オーガニック新篠津」北の大地でオーガニック野菜のブランド化を進める
- 生産者たちで設立した有機野菜の販売会社
- 青果と加工品の生産・販売で多角化を図る
北の大地で有機野菜を販売する農家の法人がある。「オーガニック新篠津」だ。
「約20年前に6人の有機栽培農家で設立したのがオーガニック新篠津です。各人の栽培する有機野菜を団体として販売しよう、新篠津を有機農業の地としてブランディングし、販売へとつなげることが設立の目的です」
そう語るのは代表取締役の大塚裕樹さん。現在、オーガニック新篠津の法人形態は株式会社だが、1996年に設立した時は任意団体だった。それを大塚さんたちは翌年に有限会社として法人化し、2003年の法人解散を経て2006に農事組合法人オーガニック新篠津、2008に株式会社オーガニック新篠津の2つの組織を相次いで設立した。
大塚さん自身も「大塚ファーム」という農場を経営する有機野菜の生産者だ。家業の農家を継いで5年目から有機栽培に取り組み、ミニトマトや大根の生産を始めた。その有機ミニトマトが札幌市場で最高値をつけたことで全国のバイヤーの興味を引き付け、1つ2つと取引が始まった。そうした中に横浜の中堅居酒屋チェーンと栽培契約を結び、取引を始める。その当時、オーガニック新篠津は任意団体だったが、取引の便宜を図るために法人化した。それが有限会社にした理由だった。
外食産業主体の販路から量販店へも拡大
現在、オーガニック新篠津はミニトマト、大根、にんじんなど年間で平均12品目の野菜や米などを販売する。取引先の内訳は、レストラン・飲食店などの外食産業30%、食品スーパーなどの量販店50%、直売所20%だ。外食産業のうち50%が全国展開するチェーン店、残り50%が北海道内のチェーン店だ。量販店の主な取引先はコープ札幌、イトーヨーカドー、地元の食品スーパーなどであり、外食産業、量販店ともすべて契約栽培として取引している。
量販店に販売する商品は、ブランド化の一貫としてパッケージやラベルに生産者の顔写真や商品名などを添付して出荷する。新篠津の有機野菜であることを訴求し、かつ生産者に対する親近感を消費者にもってもらいたいという思いからだ。
1997年の法人化からしばらくの間、オーガニック新篠津の販売先は80%が外食産業だったが、レストラン・飲食店のメニューから自分たちの野菜が外されてしまうと販売量・金額とも大きく落ち込んでしまうリスクがある。そのリスクを回避するために2000年、外食産業へ卸売する青果商の紹介を得て量販店へと販路を広げた。
ただ、量販店と取引が始まっても5年間はなかなか思うように売れなかった。というのも、量販店は相対的に安価な野菜を大量に揃えて陳列している。そこに約1.5倍の価格の有機野菜が並ぶのだから無理もない。無農薬・無化学肥料というオーガニック新篠津の商品価値を消費者に認知してもらえるまでには時間が必要だったようだ。
さらに直売所にもブランドの浸透を図る
2010年には直売所にも販路を広げた。外食産業や量販店との取引は契約栽培のため、オーガニック新篠津に所属する生産者は契約数量より多めに野菜を栽培する。そのため、契約で外食産業・量販店へ販売する以外の野菜を直売所に出荷することにした。
現在、札幌近郊の3カ所の直売所に出荷する。
「それまでの外食や量販店との取引は契約に基づく買取式です。しかし、直売所への出荷は委託式のため最初はちょっと戸惑いもありました」(大塚さん)
しかも、量販店との初期の取引と同じよう、周囲に並ぶ野菜に比べて有機の価格は1.2~1.5倍高い。直売所を訪れる消費者に有機野菜の価値を理解してもらうまでに一定の期間を要した。が、同時に周囲に並ぶ野菜にはない、有機野菜(無農薬・無化学肥料)というオーガニック新篠津の価値を訴える機会にもなった。オーガニック新篠津というブランドを浸透させる1つのチャンスにもなったのだ。
加工品づくりで6次産業化に着手
オーガニック新篠津は有機野菜以外に加工品も販売している。いわゆる6次産業化への取組みであり、加工はすべて大塚ファームが担当する。
加工品づくりを始めたきっかは2008年のリーマンショックだった。この世界的不況により国内でも高価格な商品が売れなくなってしまい、オーガニック新篠津の有機野菜も影響を受けた。そこで有機野菜の販売減少を補うため、加工品の生産・販売を始めた。
最初はさつまいものプリン、トマトのゼリーから始め、現在では4品目を揃えている。加工は地元の食品メーカーに委託し、2011年に大塚ファームでも農産品の1次処理加工を始めた。大塚ファームでは加工会社として「大塚オーガニックファーム」を設立し、今年からは第2工場を設立し、焼き菓子を中心に多品種少量の加工品づくりを始める。
海外へも目を向ける
設立から約20年になるオーガニック新篠津は海外にも目を向けている。2010年に台湾の百貨店に有機野菜をテスト的に出荷し、それを機に香港、中国(2カ所の経済特区)、インドネシア、タイにも出荷した経験がある。現在、本格的な輸出はまだ検討段階だが、2011年に新千歳空港に出店した「情熱ファーム北海道」には外国人観光客も多く訪れ、この販売店を介して外国人の嗜好を注視している。
これからの農業はチャンスしかない
「これから10年、15年後の農業にはチャンスしかない」
大塚さんはそう言い切る。今後は農業界も再編が進み、法人化した組織が大きく伸びていくと読んでいる。そのためにはオーガニック新篠津もさらに組織を強化してブランド力を高めることが必須だという。併せて未来の生産を担う若手農家を増やすことも不可欠だ。そのためにも魅力のある「かっこいい農業」を確立していかなければならない。大塚さんの目は15年後の農業経営を見据え、そこに到る布石を着々と打っているようだ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社オーガニック新篠津
- Webサイト
- 代表者
- 大塚裕樹
- 所在地
- 北海道石狩郡新篠津村第43線北19番地