農業ビジネスに挑む(事例)

「スギヨファーム」「カニかま」を発明した企業が農業に参入

  • 石川県で最初に企業として農業に参入
  • 地域発展への寄与を目指す

世界で初めて「カニかま」を発明した食品メーカーのスギヨは、2007年春、自社の魚肉練り製品に使用する野菜を自前で調達するため、能登島(石川県七尾市)で青果の栽培を始めた。その主体が農業生産法人スギヨファームだ。

スギヨは明治元年(1868年)に石川県七尾市で創業し、1972年に世界に先駆けてカニかま(カニ風味かまぼこ)を発明することで練り製品業界に革命をもたらした老舗だ。

その同社が定番商品とする魚肉練り製品に「加賀揚」がある。魚のすり身に野菜を混ぜて揚げた製品だが、定番商品とはいえ市場で長く支持されるためにも常に変革が求められる。そこで地元の野菜を用いた「加賀揚」を開発することで付加価値を向上させようと考えた。

スギヨの定番商品「加賀揚」に自前の野菜を使って付加価値を高める

石川県の企業第1号として農業に参入

2005年の法改正(農地貸出しの解禁)を機に2007年、スギヨは石川県で初めて企業として農業に参入。能登島に4.8haの農地を地権者から借り受け、キャベツ、ニンジン、タマネギ、ジャガイモなど6品目の野菜の栽培を始めた。

「入社してすぐに連れてこられたのが、背丈よりも高い草木が生い茂った耕作放棄地でした」

そう語るのはスギヨファームの農場長、半澤咲子さん。半澤さんは東北大学・同大学院でバイオテクノロジーを学んだのち、青年海外協力隊、種苗会社などを経てスギヨに入社したが、農業事業の立ち上げを任され、最初の仕事が2名の社員と一緒に耕作放棄地から石を運び出すことだった。また、荒地を整えてようやく野菜の栽培を始めようとしたが、近くに井戸がなかったため、ポンプ小屋まで行って何度も水を汲んでは散水した。

そんな苦労のすえ、初年度は栽培技術が未熟だったにもかかわらず約70トンを収穫。翌年度には栽培技術の向上と農地面積の拡張により約100トンと1.5倍の収穫量になり、参入3年目には約290トンと順調に生産を伸ばしていった。

農業参入当初の生産量は約70トンだったが、いまでは500トンを超える

耕作放棄地がゼロになった

現在、スギヨファームは26haの農地で500トンの野菜を生産する。そのうち半分をスギヨに納入し、残り半分を地元のスーパー、飲食店などに販売する。生産から販売まですべて自分たちでやる。

入社2年目から農場長を務める半澤さんによれば、スギヨファームのミッションは単に農業に参入するだけでなく、6次産業化や耕作放棄地の解消など地域発展への寄与にあるという。

そのミッションを実行するため、ビジネス戦略として(1)6次産業化、(2)地域の特徴を活かした商品開発、(3)安心・安全な自社の野菜の確保を掲げ、また、社会貢献策として(1)耕作放棄地の解消と里山の保全・再生・管理、(2)地域住人の雇用、(3)農業の担い手として農業再生・復興を図る、(4)循環型農業への取組み(野菜・廃菌床の堆肥化)を目標に定めている。

その中でも6次産業化については、スギヨファームの野菜を用いて「自ら企画した商品を地元のメーカーさんに製造委託して」(半澤さん)能登野菜のカステラケーキや芋焼酎を商品化している。

また、社会貢献となる耕作放棄地の解消については、スギヨファームの取組みが呼び水となって農業を継承する人たちが能登島に集まり、結果として能登島の耕作放棄地がゼロになった。耕作されず放置されていた農地のすべてが再生されたのだ。

スギヨファームの能登野菜を使って商品化したカステラケーキ

スギヨファームは6月が決算期のため、7月から迎える2013年度は約700トンの生産を目標とする。また、今後は経営を安定化させるため、施設栽培(ベビーリーフ、ホウレンソウ、パプリカ、ミニトマトなど)を導入したり、スギヨファームで研修を受け就農を志す若者たちと共に奥能登の耕作放棄地を対象に農地拡大を目指していく。

能登で生まれた農業参入企業第1号のスギヨファームが躍進し続けていく。

企業データ

企業名
農業生産法人 株式会社スギヨファーム
Webサイト
代表者
杉野哲也
所在地
石川県七尾市府中町員外11-2-2