売上高100億円への軌跡
電子機器修理・計測器校正などニッチ分野で唯一無二のサービスを提供【京西テクノス株式会社(東京都多摩市)】
2025年 7月 22日

電子機器修理や計測器校正といったニッチ分野で世界市場のトップ企業(グローバルニッチトップ)を目指す京西(きょうさい)テクノス株式会社。メーカーサポートが終了した機器の修理や低コスト・短期間のグローバルサービスなど、顧客に喜ばれる独自の取り組みを進め、創業から20年足らずで売上高100億円を達成した。創業者の臼井努社長は「次は1000億円」と高い目標を掲げている。
売上高目標を示すナンバープレートを「100」から「1000」へ

臼井氏の自家用車のナンバープレートは長らく「100」だった。「2002年の創業時に『売上高100億円を目指す』という目標を立て、その意気込みが周囲にも分かるように車のナンバーを100にした」という。京西テクノスの初年度(9月期決算)の売上高は約11億円。その後、概ね順調に売上高を伸ばし、目標より4年も早く2020年度に100億円を突破した。これを機に車のナンバーも変更。周りからは「次は150か200か」と言われたが、臼井氏は一気に1000にした。新たな売上高目標はケタ違いの1000億円だ。
「150億円や200億円は既存事業の延長でも達成可能な数字」(臼井氏)と言うように、2024年度には150億円を超え、200億円も近いうちに達成できる見通しだ。しかし1000億円は容易ではない。「そのためには発想を変えて事業に取り組んでいかなければならない」と臼井氏。どのメーカーの製品もトラブル受け付けから修理、シューティング(修理後の確認など)までワンストップで行う「トータルマルチベンダーサービス」(臼井氏の造語)を提供する同社の存在感を高めてきた臼井氏にとって、「1000」のナンバープレートは今後もさらなる変革を続けていこうという意思表示である。
「1回で10万円単位の稼ぎ」と修理サービスに着目

同社のルーツは、臼井氏の祖父、橋立勇氏が1946年に横河電機から独立して設立した京西電機(東京都八王子市)にさかのぼる。日本電気(NEC)や横河電機など大手メーカーから業務を受託し、通信機器や計測機器などの部品を製造していた。
臼井氏も大学卒業後に横河電機に入社。経営企画室などで勤務した後、1998年に祖父が会長を務めていた京西電機に転職した。しかし、下請けとしての限界と将来への不安を感じた臼井氏は保守・修理といったサービス事業に目を向けた。きっかけは工場の機械の故障だった。メーカーの担当者を呼んで修理してもらったところ、作業の代金や部品の交換費用などを含めて数十万円を支払うことに。「ものづくりの仕事は一つの部品の実装で1円にも満たず、数十銭単位で他社としのぎを削っているのに、修理は1回で10万円単位の稼ぎになる」と知った臼井氏は保守・修理といった新事業を立ち上げたいと考えた。
1999年に社内で事業化プロジェクトを開始。すると「運命の電話」(臼井氏)が外資系医療機器メーカーの日本法人からあった。脳波計など医療機器の修理サービスへの協力を依頼されたのだ。これを機に国内各社から計測機器や情報・通信機器のサービス業務を受注。事業に手応えを感じた臼井氏は2002年4月に独立して京西テクノスを創業した。
メーカーサポート終了製品の修理で国から“お墨付き”

創業5年目で売上高が30億円を超えた2006年、国から“お墨付き”を得た。メーカーサポートの終了した電子計測機器のマルチベンダーサービスが、企業の協業による新事業を推奨していた経済産業省の新連携ビジネスに認定されたのだ。メーカーは通常、一定の年数を経過すると自社製品のサポートを終了するが、その後も製品を使い続けるユーザーのために、京西テクノスは生産中止部品の調達・供給などのノウハウを持つ企業と連携して修理などのサービスを行っていた。
「KLES(京西ライフ・エクステンション・サービス)」と命名されたビジネスモデルのきっかけもまた、創業まもなくしてあった「運命の電話」(臼井氏)だった。電話の主は取引先の担当者で、「日本航空から古い計測器の修理依頼が来ているが、メーカーのサポートが終了している。京西で対応してほしい」という内容だった。3週間かけて修理を終えると日航側は大いに喜び、さらに、同様の悩みを抱えていた全日空にも話が伝わり、古い計測器の修理依頼が大量に寄せられるようになった。それ以降、多くの修理実績を積み上げながら事業の柱へと育て上げていった。
日本に居ながらにしてグローバルサービス

売上高の伸びにはグローバルな修理・保守サービスも大きく寄与している。中国には創業してすぐに現地法人を設立していたが、世界各地に拠点を立ち上げるのは中小企業にとって至難の業だ。そこで臼井氏が考案したのが、日本国内でグローバルなサービスを提供する「京西グローバルサービス(In JAPAN for Global)」というユニークな取り組みだ。
通常は、海外に輸出した日本製の精密機器などが故障した場合、いったん日本国内の製造工場に戻し、修理してから再び海外に送り返すが、通関を通す時間と関税がかかってしまう。これに対して、京西グローバルサービスでは、2014年から関西国際空港内の保税工場(関税を課されることなく加工・製造できる場所)で修理業務を行っている。関税だけでなく国内での輸送も不要となり、低コスト・短期間で“日本品質”のサービスを実現している。さらに、ネットワークを介してリモートで海外の製品を監視・点検するシステムを構築し、24時間・365日の体制でサポートする業務を提供している。「日本に居ながらにしてグローバルなサービスを展開している」と臼井氏は胸を張る。
大企業のノンコア事業を相次ぎ買収

国内外での唯一無二の取り組みが奏功し、2016年度に売上高が50億円に到達。2017年1月には経団連に入会し、業績だけでなく、企業としてのステータスと知名度も向上。この時期を境に成長の速度は加速する。その原動力となったのは校正事業のM&Aだ。
校正とは、測定機器が正しく動作しているかを確認し、必要に応じて調整を行う作業のことで、2016年10月に計測器大手のアンリツと合弁会社を設立し、校正事業に乗り出していた。さらに2019年4月にNECグループ会社から校正事業を買収したのに続き、2021年3月には富士通グループ3社からも校正事業を承継した。「大企業にとって校正部門はノンコア事業だが、中小企業ではコア事業になりうる。小が大の一部を買収して有望なマーケットに参入できた」という臼井氏の言葉どおり同社の売上高は大きく伸び、50億円到達からわずか4年で倍増した。
100億円企業の仲間入りを果たした2020年、経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」に選定された。修理や校正といったニッチ分野で世界市場のトップ企業として新たな“お墨付き”を得た。奇しくも同じ電気・電子部門(20社)には横河電機も名を連ねていた。祖父、そして臼井氏がかつて働き、創業後も取引が続いていた大企業と並んで選ばれたことに「感慨もひとしおだった」と臼井氏は振り返る。
「進化と深化」で飛躍的な成長を

車のナンバーにも掲げた次なる目標、売上高1000億円に向けて臼井氏は新規事業への参入を進める。2024年4月には半導体生産システム関連事業を手掛けるTCK(福岡市)を買収、完全子会社化した。さらに、スイスを拠点とする電力関係の多国籍企業からメガソーラー(大規模太陽光発電)やEV(電気自動車)の充電装置などの保守・点検サービスを受託し、エネルギー・環境分野へも参入した。
国内拠点の整備も進める。JR京都駅近くに建設中の京都本社が2026年11月にオープンする予定だ。大地震や豪雨など大規模災害が頻発するなか、BCP(事業継続計画)の一環で整備するものだが、臼井氏は「京都所在の国内有数の大企業との取引や、近隣の大学との産学連携も念頭に置いている。京都にしっかりと根を下ろし、付き合いを続けていきたい」と話す。
一方、これから売上高100億円を目指す中小企業に対して臼井氏は「進化と深化」を強調する。このうち「進化」とは他社が手掛けていない分野の進出のこと。「飛躍的に成長するには既存事業の延長だけでは不十分。他社との差別化を実現できる斬新なビジネスモデルを構築し、新たな市場を切り開くことが必要だ」と臼井氏。そのうえで必要なのが市場規模の把握だ。「ニッチでありながら相応の売上高を得られるだけのボリュームがあるマーケットなのかどうかを見極めることが大事」と訴える。そして新分野進出に際して求められるのが「深化」。「各社が持つ強みをしっかりと把握するよう、自分たち自身への理解を深めていくことが大事」と、臼井氏は“未来の100億円企業”に対してエールを送る。
企業データ
- 企業名
- 京西テクノス株式会社
- Webサイト
- 設立
- 2002年2月
- 資本金
- 8000万円
- 従業員数
- 419人
- 代表者
- 臼井努 氏
- 所在地
- 東京都多摩市愛宕4-25-2
- 事業内容
- 計測器/医療機器/通信機器/電子機器 設計・製造・修理・校正・ネットワーク設計・ 構築・運用管理・システム運用管理