農業ビジネスに挑む(事例)

「オーレック」家庭菜園に特化したユニークなSNSで農業に貢献する

  • 家庭菜園の初心者でも成功に導くきめ細やかな栽培サポート
  • ネットばかりでなくリアルの場でも交流が広がる

農業用機械の老舗メーカー、オーレックがユニークな新事業を運営している。2013年3月から運用を開始した、家庭菜園に特化したSNS「菜園ナビ」がそれだ。

オーレックが運営する家庭菜園SNS「菜園ナビ」

従来とはまったく異なる客層を相手に新事業をスタート

菜園ナビは、家庭菜園の初心者でも野菜や果物を収穫できるよう、ネットワークを介して栽培全般を支援するサービスだ(登録・利用とも無料)。そのSNSユーザー(登録者)のほとんどが家庭菜園を愛する一般市民であり、農業用機械メーカーである同社の従来のユーザー層(農業を生業とする専業農家および兼業農家)とはかなり異なる顧客層となっている。

プロ農家という限られた層の顧客から、広く一般市民を対象とする事業を立ち上げた理由はなんだったのか。

「菜園ナビの発端は、当社の顧客である農家さんのご苦労や農業の価値、さらに農作物がもたらす食のありがたさについて、家庭菜園の愛好家を始めとした多くの方たちに広く知っていただきたいということでした」(菜園ナビ管理人の中村裕佳さん)

日本の農業は後継者不足や耕作放棄地などの問題から衰退の一途をたどっている。そのため国内の農業用機械の需要も減少が止まらない。ただ、今後の日本の農業を考えたとき、家庭菜園で青果を栽培する人たちならば、農作業の大変さやそこに従事する農家の苦労、その労苦に支えられる農業の価値を知ってもらえるはず。そして、そうした啓蒙は農機械メーカーとして農家の側面支援にもなる。

さらに、野菜・果物の栽培や収穫といった実体験、または菜園ナビの情報に触れることで得られる野菜・果物への関心を通して、命の源である「食」への関心を菜園ナビのユーザーに高めてもらえれば社会貢献にもつながる。そんな思いからオーレックは新事業をスタートさせた。

そんな壮大な理念の一方、実際に家庭菜園の初心者には栽培に失敗して落胆するケースも多く、そうした人々にとって手取り足取りサポートしてくれるSNSはなにより心強い。実際、菜園ナビが始まった2013年春からわずか2年でユーザーは1万人迫る勢いで増えている。それだけ初心者を始めとした家庭菜園愛好家が菜園ナビを頼りにしているということなのだろう。

菜園ナビの3つの主要機能

ところで、菜園ナビとはどんなSNSなのか。簡単に紹介しよう。まず、主な機能に以下の3つがある。

1.栽培教本

「栽培教本」は、野菜の基本情報や育て方、ダンボールコンポストのつくり方などを解説したコンテンツであり、イラストをふんだんに用いて文字の説明を極力少なくしている。ユーザーにとっては、栽培する野菜を選ぶうえでの基本情報になる。

菜園ナビの「栽培教本」。野菜の育て方がイラストでわかりやすく紹介されている

2.ナビゲーション

「ナビゲーション」は、自分が栽培する野菜を画面に登録すると、今後の栽培スケジュールが自動で表示される機能。野菜の種類によって多少異なるが、基本的には「種まき」「間引き」「施肥」「収穫」といった作業の時期が目安として表示される。また、その作業時期は常に菜園ナビのトップページにも、「収穫まであと○○日です」と時間の経過と共に更新されて表示される。

このナビゲーション機能に「積算温度」という便利な項目がある。これは毎日の気温を加算して表示する機能だ。積算温度は野菜の栽培において重要な要素であり、例えば枝豆は花が咲いてから積算温度約800℃、スイカは受粉してから約1000℃で収穫などと、栽培するうえでは重要な目安になる。

栽培する野菜をナビゲーションに登録する際、栽培地も登録すれば日々の積算温度も自動で表示してくれるので、収穫に適した積算温度がひと目でわかる。

この積算温度は、芽かき、土寄せなど栽培の作業工程ごとにも記録しておけるので、それを毎年蓄積していけばユーザーごとの栽培データベースを構築できる。その便利さが支持され、菜園ナビのユーザーはプロ農家も多く、全登録者の約1割を占めている。

ナビゲーションに野菜を登録すると、作業スケジュールが自動で表示される。地名を登録すれば積算温度も表示(毎日更新)される

3.タイムライン・フォロー

「タイムライン・フォロー」は、SNSだけに不可欠な機能であり、自分が気になる菜園ナビの登録者を自由にフォローでき、それによりフォローした登録者の投稿を自分のタイムラインに表示できるので、栽培のポイントやノウハウなどさまざまな情報を収集できる。

また、コメントや質問なども投稿できる(「コメントください」機能)。例えば「日あたりのよくない狭い環境で初心者が育てられる野菜はなんですか?」と質問すると、「○○ならおすすめですよ」といったコメントが寄せられる。

そのほかにも、ユーザー(登録者)同士で栽培中の野菜の成長具合を情報交換したり、収穫した野菜の料理レシピを開示するなど、さまざまな情報を共有することでユーザー間の連帯感を深めていける。

以上の菜園ナビの主要機能のうち、栽培教本とナビゲーションについてはオーレックの社員が自ら作成している。栽培教本には40種の野菜・果物が登録されているが、その基本情報はすべて担当社員が資料を調べて作成している。また、ナビゲーションの項目もすべて担当社員が資料を調べて作成し、専門家(プロ農家)のアドバイスを経てうえで菜園ナビに掲載している。まさにすべて手作りのSNSサイトなのだ。

ネットからリアルへと広がる交流の場

現在、菜園ナビのユーザーはほぼ1万人。そのうち55歳以上が43%を占めており、その点から菜園ナビは年齢層の高いSNSといえる。というのも、家庭菜園の愛好者は定年退職後に始める人が多いからだ。

また、前述のように菜園ナビはSNSとしての特性を活かし、ユーザー同士が活発に交流しているようで、そのコミュニケーションはネットを超えてリアルの場へも延長されている。例えば、ユーザー同士が野菜・果物の種の交換会を実施したり、登録者であるプロ農家の作業現場を訪れる見学会を催すなど、菜園ナビのユーザー(登録者)たちは多様な交流会を頻繁に開催している。

こうしたユーザー同士が活発に交流する菜園ナビだから、今後はそこで形成されたコミュニティを活かし、種苗・農業資材業界、さらには福祉、教育など多様な業界と連携して新しいサービスを開発したいという。

農業をベースにした異業界とのユニークなビジネスが生まれれば、オーレックの事業展開になるばなりでなく、菜園ナビの理念である「農業の価値への認識、食への感謝」の啓蒙にもつながるだろう。

企業データ

企業名
株式会社オーレック
Webサイト
代表者
今村 健二
所在地
福岡県八女郡広川町日吉548-22