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世界を導くSDGsは、自社を成長させる大きなチャンス【金沢工業大学 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授/金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長・平本督太郎氏】<連載第1回>(全4回)

2020年 1月23日

中小企業はSDGsとどう向き合うべきか──。野村総合研究所のコンサルタントとして世界レベルの課題解決型ビジネスや経営改革支援などに取り組んだ後、金沢工業大学のSDGs推進センター長として「社会課題解決型ビジネス」をテーマに研究する平本督太郎氏に語っていただきました。4回に及ぶ連載の第1回のテーマは「海外におけるSDGsの位置づけと、SDGsと中小企業の関わりについて」です。

◆SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかに記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「気候変動」「エネルギー」「教育」など17分野の目標=「ゴール」と、17の各分野での詳細な目標を定めた169のターゲットから構成されており、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択された。2017年7月の国連総会では、各ターゲットの進捗を測定するため232の指標も採択された。

SDGsの17の目標(国連広報センターウェブサイトより)
SDGsの17の目標(国連広報センターウェブサイトより)

「社会課題の解決」を武器にする北欧諸国

日本市場を中心に事業を展開する中小企業にとっては、縁遠い存在にも思えてしまうSDGs。しかし、課題解決型ビジネスに長年かかわってきた平本氏は、「地球規模の課題をまとめたSDGsは、ビジネスを成長させる原動力」だとも語ります。

「SDGs対応が進む北欧諸国では、“社会課題を効率的に解決しながら、自国の産業を発展させる”という姿勢のもと、SDGsに国家戦略として取り組み、高い成果を挙げています」

新興国が台頭する中、品質や価格の勝負では難しいことを自覚し、“社会課題の解決”で勝負に出る欧州。

「一方で、日本はSDGsに十分なアプローチができていません。『SDGsにどう従うか』ということが中心になってしまい、世界の人々に共感してもらえる日本としての姿勢をまだ打ち出せていないのです」

新興国・先進国の全員参加で持続可能な社会を追究する

社会課題の解決を目指す製品・サービスは国境を超えて広がっていきます。その一つの好例として、平本氏はケニアの携帯電話を利用した決済・送金サービス「M-PESA(エムペサ)」を挙げました。

銀行口座を持たないことが多いケニア人が、出稼ぎで得たお金を海外送金するための課題解決ツールとして2007年に始まったこのM-PESAは、やがて公共料金や買い物の支払いにも使えるようになりました。このサービスに発想を得る形でアリババのアリペイが生まれ、日本のキャッシュレス決済にも影響を及ぼしていったと平本氏は指摘します。

「ここで注目したいのは、世界に広がる技術の種が、途上国から生まれていることです。SDGsの前身であるMDGs(Millennium Development Goals/ミレニアム開発目標)は、途上国の課題解決を先進国が支えるというスキームでした。しかしMDGsの実行期間である2015年までの間に、途上国は大きな成長を遂げ、先進国の経済は失速しました。そこで、途上国・先進国両方のノウハウを生かしながら、世界各国の全員参加で持続可能な成長を追求していくSDGsが生まれたのです」

課題解決型ビジネスの種は世界中にあり、その種が芽吹くと世界に広がっていきやすい。企業はこうしたSDGsの性質を理解しておくべきだと平本氏は強調します。

SDGsは自社のビジネスを考える最適なツール

日本でもSDGsを経営に導入する企業は増えていますが、平本氏はそれを経営の足かせと感じている方も少なくないと見ています。

「ただ、人類が地球上に生き残っていく基盤とも言えるSDGsは、企業がどこかのタイミングで責任をもって関わっていくべきもの。取り組みがすぐ収益化されるわけではありませんが、自社の将来を考えるきっかけとして最適なツールだといえるでしょう」

平本氏は、SDGsを脅威ではなくチャンスとして捉え、きちんと経営に落とし込んでいくことを推奨しています。そこには、日本企業特有の強みもあるそうです。

「実は日本の中小企業はサステナビリティの面で、海外の有識者の間でも高く評価されています。これは江戸時代半ば以降に広がった『三方よし(売り手・買い手・世間よし)』の考え方が、いまもビジネスに生きているから。内需だけで完結していた鎖国時代の『三方よし』に、海外への視点を加えていければ、中小企業も社会課題の対応と自社の成長を両立させていく道が開けるでしょう」

連載「オープンイノベーションも生かして、SDGsを成長のきっかけに」

平本督太郎(ひらもと・とくたろう)
金沢工業大学 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授/金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長

慶応義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程、メディアデザイン研究科博士課程修了後、野村総合研究所入社。同研究所の経営コンサルタントとして、貧困等のグローバルイシューを解決するBoPビジネスや、アフリカビジネス推進支援、経営改革支援などに2016年度末まで携わる。BoP Global Network日本代表、BoP Global Network Japan創設者兼代表。08年より宮城大学事業構想学部非常勤講師、12年より明治大学経営学部特別招聘教授を歴任し、16年に本学講師就任。2019年より現職。

◇主な編著書
・『アフリカ進出戦略ハンドブック』(東洋経済新報社/共著)2015年
・『BoPビジネス戦略』(東洋経済新報社/共著)2010年

取材日:2019年11月18日