農業ビジネスに挑む(事例)
「フードランド」廃みかんに着目し、未利用資源の新しい活用法を開発する
- 従来の常識に対する疑問
- 食肉処理技術を活用
和歌山、愛媛についでみかんの出荷量が多い静岡県。そのうち市町村単位で日本一の出荷量(年間3万5000トン)を誇るのが三ケ日町の「三ケ日みかん」であり、国内でも有数のブランドみかんとされる。
そのブランドみかんを皮ごと食べられるようにペースト化する方法を考案したのがフードランド・代表取締役社長の中村健二さんだ。
きっかけは2007年、地元・三ヶ日町でみかんを栽培する篤農家に嫁いだ妹のひとことだった。
「みかん農家は食べられるみかんも捨てている」
その妹の言葉のよう、三ケ日みかんのブランドを守るため、農家は選果場の規格に合わないみかんを廃棄する。廃棄対象となるのは、収穫前の大雨や台風で落下したり、表面に傷がついたり、害虫被害や病気になるもの、また、収穫できても形状が大きすぎたり、小さすぎたりするものだ。
三ケ日みかんの特徴は、高い糖度とほどよい酸味、また袋も軟らかくそのまま食べられることにある。そのため農家は収穫したみかんを貯蔵して時間を費やす。それによりみかんの酸度が減って甘みが増すからだ。
そうした品質管理により三ケ日みかんのブランド価値を保つため、規格外となるみかんを徹底して排除していく。食べられる状態のみかんがそれぞれの農場で捨てられる理由だ。
規格外のみかんの一部はジュースに加工されるが、搾汁工程で搾りかすが発生する。1個のみかんをジュースにした場合、そのほぼ半分が搾りかすとして廃棄される。
この規格外として廃棄されるみかんの利用を促す方法はないか。しかも、かすのような廃棄物も排出しないような方法で。妹の話を聞いた中村さんは考えた。さらに、ただ未利用資源を有効活用するというだけでなく、それにより、限界集落に近づいている三ケ日町の地域振興にもつなげるという一石二鳥の仕掛けができないか。
無意識の行為が新たな処理方法を生み出した
思案に暮れる中村さんをある偶然が解決へと導いてくれた。それはある日、なにげなくみかんに酵素を混ぜて放置しておいた試験管を見てみた時だった。みかんはみごとに分解され、ペースト状になっていたのだ。また、それを口に含んでも何も問題ない。
みかんに酵素を混ぜる。この偶然の行為に至ったきっかけが、かつて食肉学校で学んだ「食肉の軟化処理」という技術だった。フードランドは食肉加工会社であり、3代目経営者として中村さんは事業を継承する際、専門の学校で食肉の技術と知識を習得した。その際に習ったのが「食肉の軟化処理」という酵素分解技術だった。食肉にパパインという酵素を混ぜ、一定の温度と時間をかけて寝かせることで軟らかくする。その技術を素人考えでみかんにも試していたのだ。
「これをみかんにも応用すれば、皮ごと軟化させられるので廃棄物は残らない」
そう考えた中村さんは、分解酵素の種類とその組合せ、制御する温度と時間を繰り返し測定し、2008年にみかんをペースト化する組合せを見出した。
このペースト化の方法は、(1)残留農薬の除去法を開発、(2)皮も含み丸ごとペースト化して作業工程中に廃棄物を出さない、(3)これを原料にするメーカーが扱いやすく、応用性も高い、(4)一定の収穫時期だけでなく通年処理できるので加工を平準化できる、などのメリットを生み出している。また、皮に多く含まれる天然香気成分も液化抽出されるため、果汁にはない特徴の風味(苦味)が出る。糖度の高いみかんに苦味が加わり、おいしいみかんの加工品にできる。経済産業省の地域資源活用事業にも認定された。
みかんの成分であるβクリプトキサンチンは、動脈硬化などの生活習慣病の予防に役立ち、骨粗しょう症になりにくいという研究結果も発表されている。そうした効果をフードランドの新処理法は、ペーストという新しい食品形態にして市場に提供でき、かつ廃棄物も出さない。未利用資源を有効活用するうえで理想的な処理方法といえる。
同社は、2011年に自社製品として「三ケ日みかん少年純情派オレンジソース」というドレッシングを開発・発売。さらにその後もふりかけ、酢、カレーなど、自社および提携他社からさまざまな製品として企画・開発した。
多様な応用が見込まれる
フードランドで開発された、酵素分解技術を活用したみかんのペースト化法は、みかんに限らずさまざまな果物もしくは食材でも応用できる。
「ブロッコリーも収穫時に切除して廃棄する部位があるのですが、これを酵素分解することで顆粒にもできます。それを原料にサプリメントがつくられています」(中村さん)
酵素分解は温度と時間の制御でペースト(液体)から顆粒(個体)まで任意の形状をつくれる。それにより、食品原料としての活用はもとよりサプリメントや香り成分など多様な用途に展開できる。実際、菓子メーカーからの依頼で近江牛を顆粒状にしてスナック菓子の香り成分として活用した例もある。
さらに、フードランドは食材以外のものでも酵素分解を挑んでいる。例えば廃木片・廃木材。東日本大震災など自然災害で排出される不慮の廃棄物を処理して再資源化できないか。そんな打診に応えての廃木片・廃木材の酵素分解に挑戦している。
今後はこうした工業品分野と医薬品分野で酵素分解技術を展開していく。実際、米国の日系企業からは食品廃棄物を顆粒化してプロテイン製造に利用したいと打診を受けている。 「ただし、今後この技術を伸ばしていくためには、自社だけでなく産学官が連携したもっと広範囲な取組みとして展開していくべきだと思います」
酵素分解技術を活用してさまざまな未利用資源を有効活用する。そのためには自社だけでなく、多岐にわたる分野の知恵の結集が必要だ。中村さんはそう考える。
この未利用資源の新しい活用法は、規格外のみかんは利用できないという地元農業の常識を異なる視点から見て発想したことから生まれた。また、それは食材ばかりでなく医薬品、工業品などへとその可能性を伸ばそうとしている。発想と技術によって物事は変わる。そんな中村さんの信念が、酵素分解技術を次の展開へと向かわせている。
企業データ
- 企業名
- 株式会社フードランド
- Webサイト
- 代表者
- 中村健二
- 所在地
- 静岡県浜松市北区三ヶ日町三ヶ日843