中小企業・小規模事業者によるカーボンニュートラルの取り組み事例
「できること」から着実に始める。社員全員で取り組む”人と環境に優しい”の創造が人材獲得やビジネス機会の拡大に:原貿易株式会社(神奈川県横浜市)
2025年 7月 22日
企業データ
- 企業名
- 原貿易株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1955年7月
- 従業員数
- 28名
- 所在地
- 神奈川県横浜市神奈川区松本町4-33-1(本社)
- 業種
- 卸売業・企画製造業
会社設立から約70年と長い歴史を有し、再利用可能なリユーストナーカートリッジ部材の販売をはじめ、ベビー&キッズ用品やバイオプラスチック食器の企画販売等、多彩な事業展開を行う。「世界の人達との懸け橋となって 人と環境に優しい価値ある情報と商品を『カチッ!』と提供する」をパーパス(企業の存在意義)に掲げ、全社的にサステナブル社会への貢献に邁進している。
代表取締役社長の江守雅人氏と4good事業部(※1) 事業部長補佐 内田真衣氏の2名にお話しを伺った。
(※1)同社4good事業部 紹介ページ:https://www.harabo.co.jp/4good

[取り組みのきっかけ]
SDGsから活動の幅を広げたいという思いから

同社は、日本政府がカーボンニュートラル宣言を行った2020年より遡ること約10年前の1990年代初めから、リユーストナーカートリッジ部材の販売を開始。リユーストナーカートリッジは、純正品と比べて廃プラスチックやCO2排出量の削減効果があり、SDGsへの貢献という点でも注目されている。事業を通じて環境貢献に取り組んできた当社にとって、カーボンニュートラルは積極的に取り組むべきテーマだと考えた、と代表取締役社長の江守雅人氏は語る。
「様々なステークホルダーの方々とお話をする中で、気候変動対策や脱炭素への取り組みの重要性を再認識しました。これをきっかけに、SDGsに加えてカーボンニュートラルにも活動の幅を広げていく必要があると考えるようになったのです。また、リユーストナーカートリッジ事業を通じて環境貢献に取り組んできた当社だからこそ、カーボンニュートラルに向き合うべきだと考えました。とはいえ、社内に詳しい者がいなかったため、まず私自身が本や知人を介して情報収集をするところからスタートしました」(江守雅人氏)
カーボンニュートラルの取り組みを定着させるには、社員に一方的に指示を出すのではなく、一緒に進めていくことが重要だと語る江守氏。取り組みの第一歩として着手したパーパスの策定も、社員と一緒に考えたという。
「カーボンニュートラルは、私を含めた社員全員が横一列で取り組めるテーマだと思っています。皆で一緒に考えながらパーパスを策定することで、カーボンニュートラルへの取り組みが当社の存在意義につながり、成長の機会にもなることを社員によく理解してもらうことができました。社員に対しては、最初から完璧を目指すのではなく、今の仕事の延長線上で、できることから始めていこうと呼びかけました」(江守雅人氏)
こうして、同社のカーボンニュートラルへの取り組みが始まった。
[具体的な取り組み]
できることから着実に取り組み、社外への発信に注力

最初のステップとして、CO2排出量の「見える化」に取り組んだ。民間企業が提供するCO2排出量算定ツールを導入し、現状を把握。その後、CO2削減に向けた具体的な行動として、本社事務所の電力を100%再生可能エネルギー電力へと順次切り替えていった。2025年現在、既に96%が再生可能エネルギー電力となっている。次のステップとして取り組んだのが、中小企業版SBT認証(※2)の取得だ。
「色々な枠組みがある中でも中小企業版SBT認証は大手企業の認知度も高く、中小企業でも比較的取り組みやすい内容であったことが取得を決めた理由です。また、中小企業版SBT認証を取得したことでCO2の削減目標値が明確になり、2023年には物流センターでも100%再生可能エネルギー電力を導入することにつながりました」(江守雅人氏)

同社はカーボンニュートラルへの取り組みに加えて、その内容を社外に対して積極的に発信することにも力を入れている。社外からの評価が社員の励みにつながっている、と江守氏は語る。
「当社ではメディアの取材をはじめ、大学や商工会議所における講演、動画出演などを通じて、カーボンニュートラルへの取り組みを積極的にPRしています。当社の活動を発信することが少しでも社会全体の環境への取り組みの後押しにつながればという思いからですが、こうした活動を続けることで、当社の取り組みが広く社会に認知され、社外からの評価を目にした社員の励みになっていると感じています」(江守雅人氏)

江守氏の地道な広報活動は、社員の環境意識と行動のモチベーションを向上させ、日々の業務にも実際に良い影響をもたらしている。リユーストナーカットリッジの普及を目的としたリーフレットやシールの制作、バイオプラスチックを使用した食器の企画開発などは、いずれも社員から江守氏への提案によって始まったという。環境対策の視点で、仕事に創意工夫を凝らす姿勢が社員に浸透していることがうかがえる。
(※2) 中小企業版SBT認証
SBTとは、Science Based Targetsの略称。企業が科学的根拠に基づいて設定する温室効果ガス(GHG)排出削減目標のこと。通常のSBTと比較して、削減対象範囲、目標レベル、費用、承認までのプロセス等が、中小企業が取り組みやすいように設定されている。
[感じたメリット・課題]
パーパスに賛同してくれた人材を獲得、新規商談も増加

4good事業部の事業部長補佐 内田真衣氏は、同社が取り組むカーボンニュートラルをはじめとする環境貢献活動をweb上で知ったことをきっかけに入社を決めたという。
内田氏に入社に至るまでの経緯を伺った。
「子供に誇れて、子供の未来につながる仕事に取り組みたいと考え、地元横浜に根差した様々な企業の情報を調べていました。その中で、偶然web上の記事で当社のSDGsやカーボンニュートラルへの取り組みを知りました。記事を読み進めていくうちに、表面的な取り組みではなく、等身大で全社的に行動していることに魅力を感じ、当社に応募することを決めました」(内田真衣氏)
内田氏は、現在、2025年4月に新設された4good事業部の事業部長補佐として、同社の、人と環境に優しい商材や事業を通じた発信・啓発や新規事業への着手準備など、日々奔走している。また最近開設した、エシカル商品をセレクトしたオンラインストア「4good」(※3)の拡充にも力を注いでいる。内田氏の他にも同社の環境への取り組みに共感し、入社を決めた若手社員もいる。
「ホームページ等で会社の環境への取り組み姿勢を確認し、応募をいただく方が増えてきていると感じています」(江守雅人氏)
また、同社の取り組みを知ったことで、新規取引につながったケースもでてきたという。
「大手企業の方々も、当社の脱炭素やサステナビリティの取り組みをしっかりと理解したうえで、当社を選んでくださっていると感じています。当社ホームページにて、バイオプラスチック製品に関するプレスリリースを掲載したところ、それをご覧になった企業様からご連絡をいただき、すぐにお取引が始まりました」(江守雅人氏)
カーボンニュートラルの推進にあたって苦労した点についても聞いてみた。
「取り組みを始めた当初は手探りの状態でカーボンニュートラルについて調べながら進めていたため、取り組む方向性が正しいかどうかを判断することがとても難しかったです。他にも、カーボンニュートラル専属の担当者がいないため、情報収集や発信、取り組みのスピード感に課題を感じることもあります。このような課題感はありますが、確かな手応えも得ており、今後もできることから着実に取り組んでいきたいと思っています」(江守雅人氏)
(※3)オンラインセレクトショップ「4good」:https://4good.base.shop/
[今後の展望]
地域の脱炭素の取り組み活性化への貢献に向けて

最後に、今後の展望について尋ねたところ、熱意のこもった回答をいただいた。
「他の企業や団体と連携しながら、脱炭素に関わるビジネスを推し進め、ひいては神奈川県や横浜市における脱炭素の取り組みの活性化に貢献していきたいと思っています。
また、新しく立ち上げた4good事業部では、当社の脱炭素やサステナビリティに関する活動を積極的に発信し、環境問題への取り組みに対するハードルを下げることにも貢献したいです。将来的には、SDGsやカーボンニュートラルに資する新規事業を立ち上げ、サステナブル経営を加速させる方法も模索していきたいと考えています」(江守雅人氏)
全社員がパーパスを共有し、できることから着実に取り組み、外部に発信することで成果を実感している同社。今後の同社の取り組みに、ますます目が離せない。