中小企業とDX

「1日2時間から」子育て中の母親が無理なく働ける職場環境を実現【株式会社ケイリーパートナーズ(福島県郡山市)】

2025年 4月 28日

2児の母でもある鷲谷恭子氏は福島から“カラフルな働き方”を広げていく
2児の母でもある鷲谷恭子氏は福島から“カラフルな働き方”を広げていく

バックオフィス業務の代行などを手掛ける株式会社ケイリーパートナーズは、子育て中の母親にはうれしい「1日2時間から」という短時間勤務を導入している。出産を機に郷里にUターンした鷲谷(わしや)恭子氏が「地方でも女性が活躍できる場を」との思いで起業した。DXによって女性たちがキャリアアップを実感できる“カラフルな働き方”を進めている同社の取り組みは高く評価され、昨年12月開催の全国ワークスタイル変革大賞(中小機構など後援)では大賞に輝いた。

子連れ出勤OKのオフィス、柔軟に働ける環境

子育て中の母親が多いオフィスでは子連れ出勤も
子育て中の母親が多いオフィスでは子連れ出勤も

沿道の安積(あさか)高校にちなんで「安高(あんこう)通り」と呼ばれる県道に面したビルに、ケイリーパートナーズの郡山オフィスがある。職場には子育て中の母親が多く、子連れ出勤も可能。乳幼児や夏休み中の小学生と一緒に仕事をするスタッフの姿も見られる。

オフィスだけでなく、働く場所は柔軟に選べる。業務全体の約48%が在宅で行われており、ほぼ全員が業務内容に応じて在宅勤務を選択できる仕組みになっている。一方で、基本的にリモートで働くメンバーも、定期的にオフィスでチームミーティングを行い、顔を合わせている。「完全なフルリモートではなく、オフィスも活用しながらチームのつながりを保ち、仕事のしやすさを両立できる環境を整えている」と鷲谷氏は話す。

そして最大の特徴が「1日2時間から」働けること。子育て中の母親が、生活スタイルを大きく変えずに新しいチャレンジを踏み出すとき、「2時間ならきっと始められる」。これは、2児の母である鷲谷氏が自身の経験から得た確信でもあり、起業当初から変わらない考えだ。現在、スタッフの約5分の1が2時間勤務を選択し、全体の平均勤務時間は約4時間。「それぞれの生活スタイルに合わせて、無理のない働き方を選べるようにしている」と鷲谷氏。短時間勤務のスタッフが多いなかでも、チームで業務を分担し、互いにフォローし合う仕組みを整えることで業務を滞りなく進めている。

人手不足の一方で母親たちは「働きたい」

鷲谷氏は郷里・郡山でボランティア活動に参加した
鷲谷氏は郷里・郡山でボランティア活動に参加した

鷲谷氏は郡山市の出身。東京都内の大学に進学し、就職。職場結婚して長女を出産後に退職した。「それまでは宿直勤務など、男性と同じ働き方をしていたが、私が望む子育てのスタイルとは両立が難しいと感じた」と鷲谷氏。子どもとの時間を大切にしながら、自分に合った働き方を模索した結果、一度仕事を離れることを選んだ。その後、2009年に子育ての場として郡山へUターンし、同年に次女を出産した。

2011年に東日本大震災と福島第一原発事故が発生。不安な日々を過ごすなか、ボランティア活動に参加し、自分と同じ子育て中の母親たちとのつながりが生まれた。震災から5年ほどが経ち、子どもが成長するにつれて「そろそろ私も、社会とつながる時間を持ちたい」と思うようになった。これまでの経験を活かしながら、やりがいを持って働ける場所を探したが、地方では女性が自分らしく活躍できる選択肢が限られていた。

そんな折、郡山商工会議所のまちづくりに関するプロジェクトに加わり、多くの企業経営者と交流する機会を得た。「経営者は皆、口々に人手不足だと嘆く一方で、働きたいと希望している私のような母親もたくさんいる。ここにミスマッチを感じた」。そこで思いついたのが、「1日2時間から無理なく始められる働き方」をつくり、企業の人手不足の解消にもつなげるというビジネスプランだった。

専門家の評価と市民の共感が後押しした起業の決意

働きたい母親のために立ち上げた「2hours」
働きたい母親のために立ち上げた「2hours」

このビジネスプランで鷲谷氏は2019年1月、「ふくしまベンチャーアワード」(福島県主催)で優秀賞を受賞。翌月には、クラウドシステムを使って起業家を応援する交流会型イベント「郡山地域クラウド交流会」(一般社団法人グロウイングクラウド主催、中小機構など共催)で優勝した。このうちクラウド交流会は、起業家や行政、関係者だけでなく、市民だれもが参加できるイベントだった。「ベンチャーアワードでは専門家からの評価に背中を押され、交流会では市民の皆さんからの共感が大きな励みになった。『この事業には意味がある、やるなら今だ』と確信し、起業への覚悟が固まった」と振り返る。

そして同年5月に立ち上げたのが「2hours」。企業から依頼される業務を鷲谷氏が一括して受け、フリーランスとして働く母親たちに振り分けた。その後、「企業からの信頼を得て安定した雇用環境を提供し、持続的な事業成長を通じて地域の女性たちが安心して働き続けられる場を広げたい」として、税理士法人三部会計事務所(郡山市)とのジョイントベンチャーで同年10月にケイリーパートナーズを設立した。

属人化ではなくワークシェアリングで業務に対応

ケイリーパートナーズの創業メンバーである三部香奈氏(右)
ケイリーパートナーズの創業メンバーである三部香奈氏(右)

短時間勤務やリモートワークを実現するため、同社ではワークシェアリングを徹底している。業務が属人化すると、担当者の不在時に業務が滞るリスクがあるため、どの業務もチームで対応できる体制を整えている。その仕組みを支えているのが、クラウドツール「サイボウズOffice」を活用したデータの一元管理と業務の見える化だ。スケジュールや業務の進捗をリアルタイムで共有することで、誰がどの業務を担当していてもチーム全員が状況を把握できる。また、固定されたチームではなく、業務内容に応じて柔軟にメンバーを編成。一人のスタッフが複数のチームに関わることもあり、それぞれの得意分野を活かしながら業務を進めている。「未経験だけど挑戦してみたい」というスタッフの声も大切にし、新しいスキルを身につける機会を提供しているのも特徴の一つだ。

さらに、短時間勤務でも業務が円滑に進むよう、チーム内での引き継ぎの仕組みを整えている。「データを共有しているので、誰かが勤務を終えても、他のメンバーがスムーズに業務を引き継ぐことができる」と鷲谷氏。こうした仕組みにより、時間や場所に縛られずに働きながらも、しっかりと成果を出せる環境を実現している。

寄り添いながら、企業の成長を支える伴走型サポート

短時間勤務のスタッフが多いが、業務に支障はない
短時間勤務のスタッフが多いが、業務に支障はない

事業は単なる業務代行にとどまらない。大切にしているのは、「相手に寄り添いながら、一つひとつの課題を解決し、成長を支援すること」だ。顧客には、これまでアウトソーシング(業務委託)の経験がない企業も多い。「社内にDXを推進できる人材がいない」「どこから手をつければいいのかわからない」といった漠然とした不安を抱えている経営者も少なくない。そこで、じっくりと対話を重ね、課題の本質を整理。「業務の流れを整理し、社内で取り組むべきことと、外部の力を活用できる部分を見極めてみませんか?」と提案し、事業の効率化と成長につながる道筋を一緒に考える。

業務代行によって当面の課題が解決すると新たなステージが見えてくる。「実はここも改善できるのでは?」「今度はこの業務を効率化したい」といった次の一手を考える経営者も多い。「私たちは単なる業務請負ではなく、企業が目指す方向に寄り添いながら、共に成長していく存在」と鷲谷氏。柔軟な対応力と、相手の立場に立って考える姿勢こそが強みだ。

このようにケイリーパートナーズは、DXを活用して柔軟な働き方を実現するだけでなく、企業の課題解決にも力を注ぐ。そんな鷲谷氏は、DXの成功のカギについて「目先の問題を解決するだけでなく、その先の未来を見据えることが大切」と語る。「DXの導入が目的ではなく、その先にどんな働き方を目指し、どんな未来をつくりたいのかが大切。その道筋をしっかり描いてこそ、DXは本当に意味のあるものになる。目の前の課題を解決するために『とりあえずツールを導入しよう』というやり方では、うまくいかない」と鷲谷氏。

地方でも“カラフルな働き方”を広げていく

全国ワークスタイル変革大賞で大賞を受賞
全国ワークスタイル変革大賞で大賞を受賞

鷲谷氏のDXへの取り組みは、年々注目を集めている。2021年9月には全国商工会議所女性会連合会主催の女性起業家大賞(スタートアップ部門)で奨励賞を受賞。さらに、2024年12月には全国ワークスタイル変革大賞(企業部門)で大賞に輝いた。特に、日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX)が主催する全国ワークスタイル変革大賞での受賞は、DXに関心を持つ中小企業経営者の間での認知度向上につながった。「『福島にこんな会社があるんだ』と改めて知ってもらえたことが大きかった。それ以来、『詳しく話を聞かせてほしい』と、県内の経営者の集まりに呼ばれる機会が増えた」と鷲谷氏は語る。

東京のような大都市と比べ、地方ではまだ女性の働き方の選択肢が限られている。そんな現状を変えるためにも、「DXを活用すれば、地方でももっと自由に、自分らしい働き方を選べる」という考えを、地域の企業にも広げていきたいとしている。「柔軟な働き方を取り入れることで、優秀な人材とつながる機会が増えるはず。そうした仕組みを一緒につくっていけたら」と鷲谷氏。福島から“カラフルな働き方”をもっと広げるために、新しい挑戦は続いていく。

福島から、働き方の未来をつくる

ママのための小冊子「Ripples」
ママのための小冊子「Ripples」

2022年から、ケイリーパートナーズは県南部に位置する白河市の「女性に寄り添うライフ・ワークサポート事業」に参画している。その中でも、ライフステージの影響を受けやすい女性が、自分らしく、調和の取れた働き方をかなえる実証モデル事業として立ち上げたのが「Ripples(リップルズ)」だ。2023年には同市内にオフィスを開設し、翌年からは代表事業者として本格的に運営に取り組んでいる。

「Ripples(=波紋)」の名のとおり、一人ひとりの小さな一歩が、やがて大きな変化を生み出していく。「働きたい」という思いを、「働き続けられる未来」につなげるために、これからも伴走していきたいとしている。

また、女性が安心して働き続けられる環境を整えるには、企業側の理解と協力も不可欠だ。「女性のキャリア支援とともに、雇用する企業側にも採用や定着に向けたサポートを総合的に実施し、双方にとってより良い仕組みをつくっていきたい。それによって、女性が活躍しやすくなるだけでなく、企業の人手不足の解消にもつなげていきたい」と鷲谷氏。

一人ひとりの選択が尊重される社会へ。福島から、その新しい波が広がっていく。

企業データ

企業名
株式会社ケイリーパートナーズ
Webサイト
設立
2019年10月
資本金
600万円
従業員数
23人
代表者
鷲谷恭子 氏
所在地
(郡山オフィス)福島県郡山市台新1丁目31−9 山一ビル106号
事業内容
事務代行/経理代行/広報代行/事業代行/データ化支援/オフィス整理支援/行政事業請負支援など