いよいよ本番、働き方改革

競争から共創へ「エースカーゴ株式会社」

2020年 4月 22日

幹線道路に面した本社屋
幹線道路に面した本社屋

エースカーゴは滋賀県内で家電・家具販売店や総合スーパーから家具・家電の配送を受注し、工事や組み立て設置を行う運送会社だ。中嶋辰也社長(56歳)が1991年にナカジマ配送を創業し、92年にエースカーゴを設立した。ときはバブル経済の末期、ドライバーの募集をかけると難なく人が集まった。順調なスタートを切り、仕事も少しずつ増えたが—。

ドライバーが大量退職

インタビューに応じる中嶋社長
インタビューに応じる中嶋社長

異変が始まったのは創業後10年くらい経ったころだ。トラックのドライバーが櫛の歯が欠けるように辞めていく。ある年は年に7~8人、多い年は10人が一挙に退職した。他業種に比べドライバーは勤務時間が不規則で労働時間が長い。体力的にきつい割に見合った賃金がもらえない。大量退職の背景にはそんな不満があった。

「荷主さんから仕事をいただいても応えることができない状態」に陥った中嶋氏は危機感を募らせた。外部の勉強会に参加したり、年長者に相談したり。暗中模索するなかで「社員みんなが長く勤めたいと喜んで働いてくれる環境をつくらないと、荷主さんの要望に応えられない」と気がついた。創業してから20年が過ぎていた。

「量より質」で業務効率化

オフィスの壁に事業計画表が張り出してある
オフィスの壁に事業計画表が張り出してある

まず国の補助金を使い手作業で行っていた伝票管理、配車管理、入出金管理を一元化するシステムを構築した。効果はてきめんで、荷物の積み忘れなどの無駄がなくなり、受注のキャパシティが増大。荷主も問い合わせ電話の代わりに、頼んだ荷物がいつ配送に回り、いまどこにあるか自分でデータを見て確認してくれるようになった。

次に共同配送サービスを導入した。従来は取引先ごとにトラックを配備していたが、取引先から依頼がないとトラックを遊ばせてしまう。ひとつの取引先から複数方面への配送依頼があれば長時間労働の原因にもなる。そこで取引先ごとではなく地域ごとに必要なトラック数を配備。取引先が異なっても近隣なら同じトラックで配送して効率化を図った。

取引先との契約内容も見直した。荷物が一定量を超えるとドライバーの負担が大きくなるが、配送単価が非常に低かった。荷主と相談しながら配送料を値上げしてもらった。値上げで受注件数は減るが、質の高いサービスを適正料金で提供できるようになる。そうすればドライバーの労働時間が短くなり、得られた収益をドライバーに還元できる。

収益配分では1日の粗利益表を作成。その日の運賃、燃料費に対し、ドライバーひとりひとりがどれだけ稼いだか一目でわかるようにした。所定労働時間は午前8時から午後5時だが、午後5時を待たなくても退社を可能にした。効率よく配達すれば収益がちゃんとつく、だらだら仕事をするよりプライベートを充実する方が良いと、ドライバーは仕事が終わり次第、早く帰社するようになった。あわせて全車に車内カメラ、デジタルタコメーター、ドライブレコーダーを配備。すべての配送を2人体制で行い、ドライバーの過重労働回避や安全確保にも配慮している。

これらの取り組みで同社は2017年、中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者」に選出された。ドライバー20人の月平均時間外労働は17年の52時間から18年は36時間に急減、年間休日の取得は90日から105日に急伸。ドライバーの退職も徐々に減ってきて、2年前にぴたりと止まった。

他社と共存共栄模索

倉庫には顧客から預かった荷物が整然と並ぶ
倉庫には顧客から預かった荷物が整然と並ぶ

滋賀県は運送業者それぞれに得意エリアがある。中心部に琵琶湖があって、対岸へ回るには大回りをしなくてはならず、時間とコストがかかるからだ。そこでエースカーゴが昨年から取り組んでいるのが同業他社との共創だ。

「うちのできひんところはそのエリアに行って同業他社さんを探し、お宅はこちらが得意じゃありませんか、うちの仕事をやってもらえませんかというお願いを始めています」と中嶋氏。先方と条件が合えば運送の仕事を回し、反対にエースカーゴの得意エリア内で相手ができない場合があれば仕事を回してほしいという提案である。

荷物量が増え自社で対応できるキャパシティを超えるとサービスの質が落ちてしまう。「得意じゃない仕事を無理してやっても価格が折り合わないし、顧客満足にもつながらない。先方と価格を相見積もりしてもらうと荷主は安い方を選ぶでしょう。そういう仕事はもうやめとこうか」と思う。だから同業他社が得意だろうなと思う仕事は「どうぞ」と手放す。

「競争とか敵対とかではなく、皆さんと協力しあってつながる時代。お互いに効率化が図れれば」と見る。高齢化の進展で過疎化も進んでいるため、地方には電気工事店がない地域が少なくない。ネットでなんでも買えて宅配便は届くかもしれないが大きな荷物を運び、エアコンや冷蔵庫を設置する人手やインフラが整っていない。これからは、それぞれの得意分野で手をつないで一緒にやっていける全国的なネットワークが必要なのではないか。中嶋氏はそう考えている。

社長を中心に笑顔の従業員
社長を中心に笑顔の従業員

経営理念は「真心物流による安心と安全の創造。荷主、社員とその家族、協力企業、すべての人に喜んでいただくこと」だ。取引先は約50社・260店舗。「我々が荷物を運んだ先のお客さんの満足度を落としてしまうと、荷主さんの評判も落としてしまう。そこを注意しながら、また買いたいなと思ってもらえるようにやっています」と話す。「われわれはお客さんの顔を見ることができる顧客との最終接点。そこに価値があるのです」とも。やりがいはドライバーがお客さんからかけられる「ありがとう」の言葉という。

※掲載している内容は、4月7日に発令された緊急事態宣言前に取材したものです。

企業データ

企業名
エースカーゴ株式会社
Webサイト
設立
1992年
資本金
1000万円
従業員数
56人
代表者
中嶋 辰也 氏
所在地
滋賀県野洲市妙光寺149-2
Tel
077(598)0306
事業内容
一般貨物自動車運送事業、産業廃棄物収集運搬、労働者派遣

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