Be a Great Small

主力ブランドに加え環境に配慮した傘で海外の販路拡大へ「株式会社ビコーズ」

2022年 2月21日

主力ブランド「ビコーズ」の傘を手にする渡辺一徳氏
主力ブランド「ビコーズ」の傘を手にする渡辺一徳氏

東京・世田谷区の閑静な住宅街にオフィスを構える株式会社ビコーズ。レディス向け洋傘の企画・卸売を手掛け、おしゃれなデザインが特徴の主力ブランド「ビコーズ」に続き、SDGsで環境への関心が高まるなか、ペットボトルのリサイクル素材を使用した新ブランド「U-DAY(ユーデイ)」を立ち上げた。今後は海外での販路開拓を目指し、着々と準備を進めている。

人生を変えたプロ野球日本シリーズの名場面

東京・世田谷区の閑静な住宅街にある本社
東京・世田谷区の閑静な住宅街にある本社

同社創業者で代表取締役の渡辺一徳氏は大学卒業後、婦人服メーカーで営業を担当していた。時はバブル景気の真っただ中。とくにアパレルに興味があったわけではなく、「なんとなく就職して、なんとなく働いていた」という。

そんな折、テレビで目にしたプロ野球日本シリーズの過去の名場面がその後の人生を大きく変えた。1987年、西武があとアウト1つで巨人に勝って日本一になろうかというとき守備に就いていた西武の清原和博選手(当時)が号泣を始めたシーンだった。甲子園で大活躍したものの、ドラフト会議で憧れの巨人から指名されなかった清原選手は、西武に入団し、日本シリーズで巨人を倒すことを目標に掲げていた。その達成を目前にして感極まったのだ。

「清原選手は自分の仕事で目標を達成したから、あんなに泣くことができた。はたして自分はどうだろうか」。そう考えた渡辺氏は、情熱を傾けられる別の道を模索した。そして傘の卸を行っていた知人からの勧めで、会社を辞め、1993年に傘のビジネスで起業することとした。

出だしは好調だった。前職で担当していた横浜元町商店街の恒例のセールの際に、取引先だった店舗の店先を借りてワゴンで傘を販売した。期間中に雨が降り出したこともあり、1週間で400万円ほどの売り上げを記録。仕入れ費や賃料を差し引いても手元に相当の金額が残った。それを元手に都内に店舗を借りて本格的にビジネスをスタート。翌94年には有限会社としてビコーズが誕生した。当初は渡辺氏と前職の同僚の2人だけだったが、その後にも同僚だった1人が加わった。

知人の経営者から一喝、意識改革で経営上向き

畳んだ際のたたずまいも重視した「ビコーズ」の傘
畳んだ際のたたずまいも重視した「ビコーズ」の傘

しかし世の中は甘くなかった。時代もバブルが崩壊し、景気は急降下していた。創業当初は、知人らに購入してもらったが、そんな「ご祝儀」が長続きするはずもなく、赤字続きで銀行からの借り入れが数千万円にも膨れ上がった。

「もう傘ではやっていけない。バッグなど他の商品を扱おう」と考えた渡辺氏は、都内で洋服店をチェーン展開する知人の経営者に相談してみた。すると知人は激怒。「売れないのはアイテムのせい、景気のせい、天気のせい」と考える渡辺氏に向かって「悪いのは、そんな考え方をしているお前の方だ」と一喝した。

それを機に、どこかバブル気分が残っていた渡辺氏の意識は変革した。「売れないのは自分の責任。ならばどうすれば売れるのか」。そんな変化が功を奏し、97年頃から経営は上向きに。約100店舗を展開する取引先も新規に獲得できた。2000年に株式会社化し、その後は本社移転、初の社員採用と、順調に推移。「景気が回復したなど、なにか大きなことがあったわけではなく、運が向いてきたような感じだった。自分たちの意識が大事だということがよくわかった」と渡辺氏は振り返る。

3本のペットボトルが地球に優しい1本の傘

新ブランド「U-DAY」には傘のほかトートバッグも
新ブランド「U-DAY」には傘のほかトートバッグも

同社の主力ブランドは社名と同じビコーズ。「とくに深く考えて名付けたものではない」(渡辺氏)というが、デザインにはこだわりがある。傘を広げたときのフォルムと畳んだ際のたたずまいを重視。「とくに広げたときに傘全体が美しい弧を描くように、製造委託先である中国の工場と何度も議論を重ねた末に完成させた」という。

一方、新ブランドのユーデイは環境への配慮がポイント。傘は日傘も含めて天気と縁がある商品である。集中豪雨など自然災害が多発する昨今、天候に関わるビジネスを手掛ける企業として環境への配慮について発信する必要がある、との考えから誕生したブランドだ。

「3本のペットボトルが地球に優しい1本の傘に生まれ変わります」とのキャッチフレーズのとおり、傘の生地にはペットボトルのリサイクルで作られた再生生地を使用。通常8本ある骨の本数を減らす一方で、軽くて丈夫なグラスファイバーを使用し、強風でも壊れにくい構造になっている。さらに、有害物質を含まず、世界トップレベルの安全な繊維製品の証であるエコテックスの認証を取得。まさにサステナブルな商品だ。デザインよりも機能性を重視し、男女で兼用できるシンプルな色・スタイルとなっている。「性別や年齢に関係なく家族でシェアでき、長く大事に使える傘になっている」(渡辺氏)という。

ブランド名は、ビコーズと異なり、さまざまな意味を込めて付けた。「U」はユーティリティ(機能性)、ユニセックス(男女兼用)、ユニバーサル(普遍的)、ユー(あなた)などを表し、もちろんアンブレラ(傘)の頭文字でもある。

ASEAN諸国へ進出、海外比率を20%に

若い社員とともにASEAN進出を目指す
若い社員とともにASEAN進出を目指す

創業から30年近く経った今、同社は本社のほか、神奈川県座間市に物流センター、中国・アモイに事務所を構える企業に成長した。次なる目標は海外の販路拡大だ。現在、海外の卸先は中国や台湾、韓国など東アジアに限られるが、今後はASEAN諸国、とりわけタイ、ベトナム、シンガポールで販路を開拓したい考えだ。渡辺氏は「国内市場と違ってASEANでは人口は増加し、経済成長も目覚ましい。また、気候は暑く雨季もあり、雨傘も日傘も需要がある」とみる。

現在、着々と準備を進めている段階で、2021年春からは中小機構の海外展開ハンズオン支援事業を活用。現地企業とのウェブ商談を設定してもらったり、同じくリモートで現地アドバイザーから市場動向や取引慣行などについて助言を得たりと、手厚いサポートを受けている。さらに売買契約書の際には弁護士が同席した。「普通なら多額の費用がかかることを無償で支援してもらった」(渡辺氏)という。同社の海外比率は現在5~6%程度だが、3年以内に20%に引き上げたいという。

バブル世代の脱サラ組が生み出した傘のブランドは今後、海外でも広がりを見せそうだ。「ビコーズもユーデイもなくてはならないブランドに育てていきたい」。そんな思いを渡辺氏は抱いている。

企業データ

企業名
株式会社ビコーズ
Webサイト
設立
1994年3月15日
代表者
渡辺一徳氏
所在地
東京都世田谷区祖師谷3-12-12
Tel
03-5490-7186