2026年 3月 30日

桑原弘明社長
桑原弘明社長

TD Holdingsは、制御盤製作を手がける東洋電装株式会社を中核に、ロボット関連、介護の見守りサービス、衛星通信事業などグループ5社で計9事業を展開している。目指すは2030年にグループ売上高100億円の達成。多数の事業を展開し、若手に仕事を任せて経営者マインドを育成するという同社の考え方は、新卒採用にも好影響を及ぼしている。

一軸経営からの脱却

高速道路システム事業が手掛ける路側情報伝送装置
高速道路システム事業が手掛ける路側情報伝送装置

同社の源流の東洋電装は、桑原弘明社長の父が1973年に創業した。東洋電装は、制御盤システム事業を手がけ、工場のFA化やダム、発電所などのインフラ向けとして堅調に事業を行ってきた。桑原氏は大手電機メーカーに就職した。当時父親から一度も「会社を継いでほしい」と言われたことはなかった。しかし、電機メーカーで19年間働く中で、家業への思いが高まり、2008年に東洋電装に入社した。当時は制御盤事業のみで、社員も数名程度の規模だった。

最初の転機は高速道路案件の受注だった。桑原氏は将来の事業環境の変化を見据え、制御盤事業の一軸経営では不安になると考え、新しい仕事を模索していた。そんな時に、電機メーカー時代から付き合いのあった高速道路会社から「非常電話や通信装置をセットにした機器を作ってくれないか」という依頼が舞い込んだ。従来なら、品質や信頼性が厳しく求められるため、中小企業に直接声がかかることはないような案件だった。しかし、最初の発注が1億円以下と小口だったため、大手メーカーからは断られていた。桑原氏は「やります」と応え、製品供給を実行した。これがきっかけとなり、高速道路会社から安定した受注を獲得できるようになった。これにより、当時3億円だった売上は10億円に拡大した。高速道路システム事業は現在も同社の基盤を支える事業として継続している。

M&Aで成長を加速

バロ電機工業が開発したロボットシステム
バロ電機工業が開発したロボットシステム

次の転機は2015年にバロ電機工業株式会社(広島市)を買収したことだった。バロ電機工業は従業員11名の制御盤メーカーだが、後継者が不在で廃業の危機にあった。桑原社長は広島銀行の仲介で、バロ電機工業を紹介された。2014年に父から社長を引き継いだ直後というタイミングだったが、同じ広島市で制御盤事業を行うバロ電機工業のことは以前から知っていた。経営者同士がざっくばらんに話をするなかで、「社員の雇用を守ってもらえれば結構です」という要望を聞き、スムーズに譲渡は進んだ。広島県にとっても広島県事業承継・引継ぎ支援センターを設立後初のM&A成立案件だった。

桑原社長は「バロ電機工業を買収した当時は、ハゲタカなどと言われて、第三者への事業譲渡は世の中からよく思われないところもあった。しかし、当社は前経営者が社員の雇用を第一に考えられて決断されたため、非常に順調に統合ができた。買収した会社の社員の気持ちを大切にして、できるだけ変えないことを心掛けたことがよかったのかもしれない。唯一お願いしたのは、営業や総務、設計など部署ごとに部屋が違っていたのを、同じ部屋で仕事をしてもらうようにしたことぐらい」と、経営統合後も買収された側の社員の不安を極力取り除くことに心を砕いた。

バロ電機工業は工場のライン製造に優れた技術があり、東洋電装ともよい補完関係を築けた。2022年にはロボットシステム分野に参入し、ハンドを付け替えることで、組み立てや検品・仕分けなどさまざまな作業が1台でできる装置を開発した。自動車メーカーの協力企業や農業、医療、食品など、さまざまな中小企業の省力化に貢献する事業で成長を続けている。

後継者が不在の企業を他企業が傘下に収める第三者承継は、現在では事業承継の一つのスタイルとして定着しつつある。しかし、買収した企業をさらに成長に導くPMI(統合プロセス)に成功する事例はまだまだ少ない。同社に次々と買収や事業譲渡の依頼が集まるのは、買収される側の社員の気持ちを考慮した経営を実践しているからに他ならない。

ZIPCAREの見守り介護ロボット「MAMORUNO」
ZIPCAREの見守り介護ロボット「MAMORUNO」

東洋電装はその後、2018年に衛星通信事業の株式会社TD衛星通信システム(広島市)を、2019年には福祉・介護機器開発の株式会社まもるーの(現株式会社ZIPCARE、広島市)を傘下とした。TD衛星通信システムは、人工衛星を利用した通信サービスを提供している。災害時に地上の通信回線が被災して使用できなくなった際の通信確保手段となるもので、企業のBCP(事業継続計画)対策としてのバックアップ回線や災害時の避難所向けの通信確保といった用途として提供している。まもるーのは、2021年にZIPCAREに社名変更し、福祉・介護機器の研究開発、設計、製造を手掛けている。ベッドのマットレスの下に敷くエアバッグ式の圧力変動検知センサーとベッドフレームに取り付けるタイプのたまご型環境センサーを用いた、見守り介護ロボット「MAMORUNO」が主力事業。身体に装着するものではなく、画像を使わず動作状態をデータで検出するため、利用者側も抵抗感なく使ってもらえる。介護施設にとっても夜間巡回の負担が軽減できるようになるなど、人手不足対策として有効に機能している。現在は、利用者の呼吸や心拍、体動などをビッグデータとしてAIで解析し、病気の早期発見や未病の検出につなげるなど、新しい領域での事業にも取り組んでいる。

見せるDX工場を開設

「DX工場」として開設した可部事業所
「DX工場」として開設した可部事業所

2022年に広島市安佐北区に制御盤の新工場として可部事業所を稼働させた。同社はここを「DX工場」と名付け、中小企業の工場で取り組めるDXの実験場として外部にも公開している。DX工場で制御盤を作る作業では、タブレット端末に表示された設計図を見ながら作業者が制御盤を組み上げていく。従来の紙の設計図ではできなかった拡大・縮小が自由にできるため、作業者にとっても使い勝手が改善された。また、作業はカメラやセンサーで記録・分析され、工程の遅れやトラブルも瞬時に把握できるようにした。単純作業はロボットに置き換え、工具はRFIDタグで管理することで、探す手間をなくした。一連の取り組みで生産性を大幅に高めている。可部事業所の開設には、国のポストコロナ時代を踏まえた新市場展開を支援する事業再構築補助金を活用した。

ノーコードアプリで開発した部品管理システム
ノーコードアプリで開発した部品管理システム

桑原社長はDXへの取り組みについて、「もともとエンジニアなので社内のデジタル化は早くから取り組んでおり、紙図面のPDF化などは行っていた。その後にノーコードアプリを導入した。次に設計や工場との情報共有が重要だと考え、どうやって進めるかを検討してきた。新工場の建設計画が持ち上がった時に、どうせつくるなら「DX工場」として、課題解決策を極力盛り込むようにした。それも低コストでやるにはどうすればよいかを徹底的に考え、生産管理システムをノーコードで作成した」と語る。これまで自社で作成したアプリは、部品在庫管理・測定器管理・消耗品管理・駐車場管理など多岐にわたる。これら自社開発したアプリを活用して、生産管理システムを外販する計画で、DX工場はそれを見せるショールームとしての役割を果たしている。すでに約500社・1200人以上が工場見学に訪れているという。

工場見学はすでに1200人以上の見学者が訪れている
工場見学はすでに1200人以上の見学者が訪れている

同社は2025年にDX外販の専門部隊として、「デジタルイノベーション事業」を新設した。同社が開発した生産効率向上プラットフォーム「フリックスプラットフォーム」を業種別にカスタマイズして提供するとともに、製造業のDX人材を育成するリスキリング講座の運営を行う。桑原社長は「DX工場を開設した3年前ごろは、中小企業の経営者の前でDXの取り組みについて話しても、『DXなんてやる必要あるの』といった反応が多かった。それが今は『どうやったらやれるの』と聞かれるようになり、確実に意識は変わっている。しかし、デジタル化したからといってすぐに効果がでるものではないので、投資に踏み切れない経営者は多い」という。同社はそうした中小企業に、何十万円や100万~200万円程度で導入できる生産管理システムで、第一歩を踏み出してもらうことを提案している。導入で得られたデータを分析して、生産の最適化ができれば生産性が向上し、利益も出てくる。DX投資が利益に結び付くことを実感してもらえれば、さらにシミュレーションなどの大型投資へと次の段階に進む提案ができるようになると考えている。

100億円を目指して

若い社員に責任のある仕事を任せている
若い社員に責任のある仕事を任せている

2021年に持ち株会社TD Holdingsを設立し、その下に東洋電装など4社を置く体制へと移行した。桑原社長は「この体制にすることで、間接部門は共通化してコストの軽減をはかりながら、それぞれの事業会社は若手が責任を持って活躍できるようにしている」と説明する。

実際、介護現場でのIoTプラットフォーム事業を手がけるZIPCAREは、マレーシアで介護ビジネスを展開しているが、その責任者は入社数年の若手社員が担っている。若手が活躍できると評判を呼び、同社には地元広島だけでなく、東京など全国からインターンを希望する学生が集まるという。

また同社は、中小機構が運営するマッチングサイト「J-GoodTech(ジェグテック)」を活用して新しい取引先の開拓に役立てているほか、中小企業大学校に社員を派遣し、事業の拡大に合わせた組織力の強化に取り組んでいる。

桑原社長は、2023年12月の創業50周年式典で改めて「2030年にグループ売上高100億円を目指す」と宣言した。1事業で10億円規模の事業・会社を10社育成することで実現させる計画だ。「将来的には10人の社長が誕生し、その人たちがまた新しい事業を生み出す。活躍したい人にその場を提供することで次の成長を生み出す、そんな企業文化を育てていきたい」と語った。さまざまな事業を展開することで、時代の変化にしなやかに対応し、社員の意欲を引き出す同社の手法は、成長を目指す中小企業にも示唆を与えてくれるものだ。

企業データ

企業名
株式会社TD Holdings(東洋電装グループ)
設立
(創業)1973年(東洋電装株式会社)
資本金
10,150,000円(東洋電装株式会社)
代表者
桑原弘明 氏
所在地
広島市安佐南区緑井4丁目22番25号
Tel
082-831-2363
事業内容
制御盤製作・システム開発、介護IoTのプラットフォーム、FA・ロボット事業