農業ビジネスに挑む(事例)

「ウエルシード」種苗と経営の両面から農家をきっちりサポートする

  • 旧態依然としたビジネスの殻を破る
  • 農家のサポートもできる種苗販売を実践

種苗や農業資材の販売会社「ウエルシード」は2010年12月、創業50年になるハナワ種苗(茨城県筑西市)の常務だった塙徹さんが分離独立してつくば市に立ち上げた。新時代の農業に対応し、「昔ながらのタネ屋」からの脱皮を狙った独立だった。

従来の種苗販売からの脱皮を図り、新しいビジネスモデルを実践するウエルシード

現状を打破するため、会社を飛び出した

ハナワ種苗は、塙さんの父親が経営する会社で、鉾田、小美玉、大洋、八郷などに支店を配して茨城県内をカバーしている。従来の種苗小売店は、地元の気候や土壌にあった野菜や品種を農家に提案し、店舗を構えながら半径10km圏内をテリトリーとして営業する。

一方、ウエルシードは店舗を持たず(本社、営業所の形態)、営業範囲も北海道から沖縄まで全国に及ぶ。そうした営業スタイルは、ITの発達により気候や土壌のデータをネット経由で取得でき、さらに植物の生育状況も携帯端末などで写真をやり取りできるようになったことから実現できた。

会社設立の狙いについて、社長の塙さんはこう説明する。

「政府は農業をこれからの成長産業と言いますが、現実的には農家の軒数の減少傾向に歯止めはかかっていません。むしろ、少子高齢化から食の需要はますます減るという厳しい状況であり、そうなると農業は収縮し、種苗のマーケットも先細ってしまい、どうしても従来の業態の殻を破ることが必要だと考えたわけです」

ハナワ種苗は、50年の業歴を背景に地元農家や農協に顧客が多い。塙さんは大学卒業後、足利銀行と種苗メーカーの研究農場の勤務を経てハナワ種苗に入社した。そして、その地域密着型の経営基盤に安定感を見出したものの、事業の将来性を思うとき、「ほんとうにこのままでいいのか」という疑問に直面した。

しかも会社の古参社員は、従来の商慣習に固執し、若手社員が何か新しいことに挑戦しようとしても反対しがち。新入社員に対しても、「俺の背中を見て覚えろ」式のやり方で接するため、貴重な人材が早々に辞めてしまう。

この現状を打破するには、新会社を設立して新たな事業方針でチャレンジするほうが手っ取り早い。そう考えた塙さんは勇躍、ハナワ種苗を飛び出してウエルシードを立ち上げた。塙さんと行動をともにしたいという若手社員もいたが、経営に失敗して路頭に迷わせるわけにはいかない、軌道に乗ったら一緒にやろうと単身で事業を始めた。

思いもかけなかった困難

孤軍奮闘の1年。その結果は、初年度に150件の顧客と1億3000万円の売上に結実した。しかし、その1年間に劇的な経験もした。東日本大震災だ。ウエルシードの設立から3カ月後に起きた未曾有の災害は、福島原発事故を誘発し、それにより福島・茨城の農業に壊滅的被害をもたらした。それを目の当たりにした塙さんは「これで私の新しい事業も終わりか」と覚悟したという。

ところが、創業以降に知り合った生産者たちは「まだ農業を諦めない」と強い意志を示す。それにより茨城の農業は原発事故から半年後に復活。その生産者たちの不屈の闘志に支えられてのウエルシードの初年度の売上だった。

ウエルシードの顧客は個人・法人の農家が大半で、数件の農協とも取引するが、ビジネスの広がりは紹介や口コミがほとんどという。それも、農協の理事長や有力農家の信用を勝ち取っていったことが大きかった。

東日本大震災以外にも思わぬ困難があった。

売ろうにも種苗や農業資材などの商品の仕入れが思うに任せなかったことは想定外だった。新会社ゆえにまだ信用が築けなかったことに加え、同業者の因習的な営業圏を新規参入者が脅かすことにメーカーが荷担するわけにはいかないとの理由で、苦しい商品仕入れを強いられる羽目になる。

これにはハナワ種苗経由の商品仕入れで凌いだ。この仕入れ形態は、信用の拡大に伴って徐々に減ってきているとはいえ、現在も続いている。

時代にあった野菜の生産方法を伝える

会社設立からほぼ5年を経過し、役員4人(うち2人は非常勤)、正規従業員8人、パート1人の陣容で、年商4億7000万円。この間にハナワ種苗の鹿島支店を吸収し、顧客も500~600軒に拡大した。  営業品目は種苗およびビニールハウスなどの農業資材がほとんどだが、農業者には農業指導支援も適宜行っている。例えば、こうだ。

「キャベツの出荷の大きさは、15kg入りの箱に8個入るサイズが好ましいとされています。家庭で食べるにはそのサイズがちょうど手頃だからです。一方、核家族化を背景に加工野菜の比率がどんどん高まる傾向にあります。例えばヨーロッパで流通する野菜の大半はカット野菜であり、やがて日本もそうなるでしょう。そんな時代になると従来より大きいサイズのキャベツのほうが好ましくなります。大きいほうがカット野菜をつくるのに歩留りも良いし、契約はキログラム単価なので農家の手取りも多くなります。そこで私どもは、大きくなるキャベツの品種を選定し、栽培方法も指導しながら営業活動を進めているわけです」(塙さん)

すでに大手スーパーのイオンや食品加工の成田食品など約10社と野菜の取引があるが、その売上は子会社のハイランドキャピタルに計上し、ウエルシードはあくまで種苗や農業資材の販売・サービスに特化する。

社員の採用もユニークで、常時募集しているものの面接試験はしない。インターンシップ制を敷いており、3~5日間で2ターム働いてもらって雇用、被雇用の相互が納得したうえで採用を決めている。

種苗、農業資材を販売するだけでなく栽培技術や経営の面でも農家をサポート

「農家あってのわれわれなので、農家のお手伝いができる会社でなければなりません。農業と一口に言ってもその内容は複雑多岐にわたっているので、1人の社員でなにもかもに対応するのは無理です。さまざまな能力や特性をもった人材を増やし、農家のサポートがきっちりできる会社にしていきたいのです」(塙さん)

従来の因習や業態の殻を破り、新しい時代の農業に対応できる種苗会社として、塙さんの農業ビジネスに託す夢の翼が大きく広がろうとしている。

企業データ

企業名
株式会社ウエルシード
Webサイト
代表者
塙徹
所在地
茨城県つくば市千現2-1-6 つくば創業プラザ215