激変する時代を乗り越える中小企業

ICT導入で生産性向上と社員の処遇改善の好循環築く【株式会社沼田建設(愛媛県上浮穴郡久万高原町)】

2023年 7月 20日

代表取締役沼田真禎氏
代表取締役沼田真禎氏

1. 事業内容をおしえてください

本社工場
本社工場

昭和 24 年に創業し、昭和 32 年 4 月に株式会社沼田建設として法人化した。現在従業員は15 名。愛媛県上浮穴郡久万高原町下畑野川に本社を持ち、「地域とともにふるさとを守る」の企業理念のもと地域の発展・住民のみなさまの安全と安心を守るため、土木建設業に携わっている。創業以来「地域社会に役立つ仕事を」「一生懸命、誠実に」をモットーに業務を続けてきた結果、地域の皆様、取引先から大きな信頼を得るようになった。また、平成 16 年には品質に関する国際標準規格ISO 認証 9001、平成 27 年には 環境に関する国際標準規格ISO 認証 14001、平成 30 年には労働安全衛生に関する国際標準規格 ISO45001 を取得するなど積極的に経営力の向上に取り組んでいる。直近の年商は令和4年12月期で3億3,127万円。

当社の強みは、愛媛県・久万高原町などから受注を行っており、公共土木工事を中心とした売上がほとんどを占めているが、高い技術力と丁寧な仕事により、平成30年から5年連続で愛媛県優良建設工事知事表彰を受賞している。

一方で、次代の担い手となる人材の確保と技術の継承をどのように進めるかが大きな課題だと認識している。

2. 昨今の外部環境の変化でどのような影響を受けましたか

現場の見える化を実践
現場の見える化を実践

平成30年の西日本豪雨災害において被災箇所の早期復旧工事を行わなければいけなかったが、建設業界の高齢化と人手不足で迅速な対応が困難になるなど課題が浮き彫りとなった。

当社でも、平成初期から公共投資の減少傾向に伴い、人材採用を積極的に行えず社員数も右肩下がりで減っていたため(令和2年度に10名程度まで)、災害工事発注量はあっても受注量減少⇒競争激化⇒利益減少⇒経営不振⇒従業員のやる気低下⇒労働災害発生⇒会社のイメージダウンと、負のスパイラルに陥ることが考えられた。

3. どのような対策を講じましたか

位置情報を伝達してMCバックホウを制御
位置情報を伝達してMCバックホウを制御

社長に就任し、まず社内の実態把握に取り組んだ。決算から過去のデータを洗い出し、当社はどういう工事が得意で、どこに時間がかかっているのかなど、課題を抽出した。仕事は丁寧だが、時間がかかっている。だから利益が出ていないということが分かってきた。それらの分析を踏まえ、令和2年5月に今後取り組む基本方針を決定した。活力ある人材の確保・育成に取り組む、技術力と機動力の強化、健全な財務体質の構築を掲げた。

まず、活力ある人材の確保・育成策として、企業説明会に積極的に参加することから始めた。令和2年から地元高校の企業説明会に毎年参加し、当社の考えをアピールした。結果として、令和4年と5年にそれぞれ1名ずつ新卒採用することができた。

次いで、活力ある人材の確保・育成に取り組む施策として、社員のスキルアップに取り組み、資格取得を奨励した。必要な費用は全額補助することにした。社員も意欲的に取り組んでくれ、取得の加速ができた。現在、1級土木施工管理技士が3名、2級土木施工管理技士が7名、1級建設機械施工技士が2名など、資格取得者を多数輩出している。最近になって、新たに5名の防災士も誕生した。地震や豪雨などの災害リスクが高まっており、いざというときに自分の身を守る力を備えるとともに、職場や地域と連携して災害に立ち向かうために、建設業者として知識のアップデートをはかっている。

ICT施工による作業現場
ICT施工による作業現場

こうした社員の努力に報いるものとして、働き方改革にも取り組んでいる。令和2年から毎年給料とボーナスをひきあげてきた。さらに令和4年から土曜、日曜を休みとする完全週休2日制を実現させた。その前提として、仕事内容を社員に見える化し、どの現場がどういう進捗状況なのかも、すべて開示した。従来は職長が明日の作業を指示することに従っているだけだったが、先の計画を示すことで、社員それぞれが自分が今やるべきこと、さらにその先にやるべきことを考えて動いてくれるようになった。自分の現場が終わったら、他の現場に手伝いにいくなど、協力することも自然とできるようになった。こうした取り組みが完全週休2日を実現させることにつながった。建設業界では完全週休2日制はまだまだ少なく、今後の新卒採用においても、アピールポイントになると考えている。

また、技術力と機動力の強化策として、生産性の向上と効率化に取り組んだ。建設業界においても3D施工とICT建機施工といったICT施工への移行が不可欠であり、当社も取り組みを強化している。令和4年からものづくり補助金を活用して3Dレーザースキャナーを導入した。ICT施工として、事前に測量したデータをもとに、MCバックホウ(機械制御で土砂を掘る掘削機械)が自動制御で掘削作業を行っている。また、ICT施工は、測量調査、設計、施工、検査と段階を経るが、通常は施工は自社で行っても、他は他社に委託するところが多い。当社はすべてを完全内製化させ、高品質な施工を実施できる体制となっている。生産性も高めることができた。ICT施工は全国的に見れば取り組むところも出ているが、愛媛県では当社が他社に先んじて取り組んでいる。

このほか、安全第一・整理整頓の徹底により、現場の見える化、ウエブサイトでの情報発信、技術講習会への参加などで企業力の底上げに努めている。

生産性向上で社員の給料もアップ
生産性向上で社員の給料もアップ

健全な財務体質の構築では、経営の収益、効率の向上と監視を強化している。まず、現場ごとの数値化をはかり、工事原価の見える化で収益改善に取り組んだ。それまでの家内工業から中小企業へと脱皮し、利益は従業員の待遇改善へ投じることにした。同時に人事評価制度も採り入れ、社員に納得感のある待遇改善をはかった。

一連の取り組みで得られた成果として、愛媛県優良工事表彰5年連続受賞、工事成績評定点平均81点を獲得した。完全週休2日制でも売上・利益ともに増加させ、より良いモノをより早く作るという社員の意識改革につなげるなど、正のスパイラルを実現させた。

4. 今後はどのように展開していきますか

全工事の完全ICT施工に挑戦
全工事の完全ICT施工に挑戦

伴走支援を活用して人材確保・育成の強化とICT部門を設立するための準備を進めている。国が建設にかかわる測量から設計、施工、検査、維持管理に至る全ての事業プロセスでICTを導入することで建設生産システム全体の生産性向上を目指すi-Construction(アイ・コンストラクション)を掲げおり、当社もその方針に沿って、社内の仕組みを構築していく。それにより、国道整備などの国からの受注ができる体制を確立し、収益の拡大を目指したい。また、先端技術を扱うことができる企業としてイメージを向上させ優秀な人材の確保につなげたい。地域の雇用に貢献し、地域により必要とされる企業としての地位を確立させるのが当面の目標だ。

企業データ

企業名
株式会社沼田建設
Webサイト
設立
1950年11月9日
資本金
2,000万円
従業員数
15名
代表者
沼田真禎 氏
所在地
愛媛県上浮穴郡久万高原町下畑野川甲710番地
Tel
0892-41-0211