SDGs達成に向けて
陸奥湾のアマモを「竜宮礁」で保護・育成、海の豊かさを後世へ【志田内海株式会社(青森県青森市)】
2025年 8月 4日

青森県の陸奥湾の豊かさを後世へつなげていこうとローカルゼネコンの志田内海(しだうつみ)株式会社は様々な活動を続けている。とくに海草のアマモを保護する礁体「竜宮礁(りゅうぐうしょう)」は、多種多様な海の生き物が生息する場所にもなり、注目を集めている。開発者の志田崇会長は「陸奥湾の漁獲量が増えて地元の漁港がにぎわってほしい」と話している。
青森駅近くのビーチで生物多様性を保全

JR青森駅から徒歩数分のあおもり駅前ビーチ。かつて青森-函館間を航行していた青函連絡船の岸壁跡の一部を整備して2021年7月にオープンした人工海浜だ。近くには「青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸」や「ねぶたの家 ワ・ラッセ」など観光スポットがあり、訪れた観光客が砂浜を散策するほか、地元住民にとっても憩いの場になっている。
今年3月にはビーチの0.37haの海域が自然共生サイトに認定された。自然共生サイトとは、民間の取り組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域として環境省が認定するもので、ビーチの海域では、海の生き物の住みかとなるアマモが群生する「アマモ場」が形成されている。そのアマモ場の保全活動に取り組んでいるのがNPO法人・あおもりみなとクラブ、八戸工業大学、そして志田内海だ。認定後の5月、メンバーを代表して県庁で宮下宗一郎知事に報告を行った志田氏は「活動を陸奥湾全体に広めていきたい」と意気込みを語った。
“海のゆりかご”の減少を知り「自分がやるべきもの」

志田内海は、1914年創業の志田組(のちに志田建設)と1951年創業の内海工業が2020年1月に合併して誕生した。合併した2社のうち志田建設は漁港建設など土木工事を手掛けていた。同社の後継者である志田氏は将来の事業承継を視野に宮城県内の建築会社に勤務していたが、社長だった父・正敏氏の急死を受けて2005年に郷里へ戻って志田建設に入社した(2015年に社長就任)。
竜宮礁の開発に取り掛かったのは2007年のこと。漁港建設を通じて付き合いがあった地元漁師や青森県の水産総合研究所の研究者らから陸奥湾のアマモ場が減少しているという話を耳にした。浅い海底で見られるアマモ場は小魚の隠れ場や産卵場所となっており、「海のゆりかご」とも呼ばれる。とくに陸奥湾にはアマモ場が多く、その面積は日本一。ところが、埋め立てや湾岸工事による影響に加え、ナマコを捕獲する「桁曳き網操業」(金属製の枠が付いた網を海底で曳く漁法)によってアマモ場が姿を消していたのだ。
この状況を知った志田氏は「ビビビッときた」という。「ナマコや魚など海の生き物が住みやすい環境を作り出すのはまさに建設会社の仕事。地元に戻って、まだ何も成し遂げていない自分がやるべきものだ」と強く感じたという。
実証実験で内部に多くの魚が生息、「竜宮城のよう」

志田氏は、水産総合研究所の研究者だった桐原慎二氏(現在は八戸工業大学教授)のアドバイスを受けるなどしてアマモを保護・育成する礁体の開発に着手。アマモを保護すると同時に桁曳き網操業の障害にならないようにと、形や大きさを考えた末、直径1.5m、高さ0.3mのドーム型で天井部分に直径0.6mの穴が開いたコンクリート製礁体を完成させた。
次に効果の有無を調べるため、陸奥湾に面した野辺地町で実証実験を実施。3基の礁体を海底に設置し、アマモを移植した。2年ほどかけて調査を進めた結果、礁体の中でアマモが成長し、ナマコのほかメバルの稚魚やカレイなどが生息していたことが分かった。桁曳き網操業への影響も全くなかった。この結果に、調査に協力した同町漁業協同組合の組合長(当時)がニコッと満面の笑みを浮かべたという。「その笑顔を見て『自分がやっていることは間違っていなかった』と確信した」と志田氏は振り返る。製品名の「竜宮礁」もこのときに付けられた。内部で多くの魚が生息している様子を目の当たりにした志田氏が「まるで浦島太郎に出てくる竜宮城のようだ」との印象を受けたことで命名した。
県外含め4万基以上を設置、外海用に大型サイズも製造

2009年には、地元の漁港建設業者の同志とともに竜宮礁の製造・販売会社「epco(エピコ)」を設立。さらに、国土交通省の助成事業として補助金の交付を受け、野辺地町などを中心に130基の竜宮礁を設置した。その後、設置場所は陸奥湾内から外海へと広がり、新潟県の佐渡島など県外を含め、これまでに4万基以上が設置されている。外海では湾内に比べて波が高いことから、直径4.5m、高さ1.1mのより頑丈な大型サイズも製造している。
こうした取り組みによって、減少の一途だった陸奥湾内のアマモ場面積は増加に転じたという。志田氏は、竜宮礁による成果を論文「アマモ・ナマコ増殖礁におけるスゲアマモの保護育成及びマナマコの資源培養効果」としてまとめたところ、日本水産工学会の2018年度日本水産工学論文賞に選ばれた。さらに論文賞受賞という功績が認められて弘前大学大学院に入学。その後、工学博士号を取得した。志田氏は今や、博士号を持つ企業経営者なのである。
社内にサステナブル事業室を開設 グッドライフアワードを受賞

内海工業との合併によって会長に就任した志田氏はSDGsへの取り組みをさらに進めている。2022年には社内にサステナブル事業室を開設。カーボンニュートラルの実現に向け、温室効果ガスの排出量削減につながる事業を積極的に展開している。その一つがアマモ移植によるブルーカーボンクレジットだ。これは、アマモなどが光合成で吸収・貯留する炭素(ブルーカーボン)を数値化してCO2排出量取引を行う制度。陸奥湾に面した蓬田村など県内の自治体や漁業協同組合などと連携してクレジットの認証を目指している。このほか、青森県で吹く強い風に注目し、風力発電につなげるための風況調査など再生可能エネルギー事業も手掛けている。
こうした活動が高く評価され、2022年11月の第10回グッドライフアワードでは環境大臣賞・企業部門を受賞。さらに、あおもり駅前ビーチの自然共生サイト認定などSDGsへ積極的に取り組む企業として認知度が向上している。とくに若い世代では環境問題に対する意識が高いことから、最近の新卒採用では「SDGsへの取り組みを知って志望した」と話す学生も目にするという。
豊富な漁獲量を維持して漁港ににぎわいを

サステナブル事業室が新たに取り組んでいるのが未利用魚の活用だ。具体的にはカナガシラを使ったラーメン作り。カナガシラは、刺身などで食されるホウボウの仲間だが、魚体が小さいうえ食べられる部分が少ないため、網にかかっても廃棄されることもある。カナガシラの活用を模索していたところ、「いい出汁が取れるので家では料理に使っている」という話を知り合いの漁師から聞いた志田氏はラーメンのスープに使うことを思いついた。
1年以上の試行錯誤の末、2024年10月に開催された「あおもりの漁師祭」で「かながしらラーメン」を販売したところ200食を完売。評判も上々だったことから事業化を決定した。今年6月からは漁師からカナガシラの購入を始めた。「通常は1kgあたり10~20円程度の値段だが、100円で買い入れている。当社の収益だけでなく、地元漁師の収入増にもつなげていきたい」と志田氏は話す。
既存の事業、さらに新規事業によって志田氏が目指すのは漁港のにぎわいだ。「会社として漁港建設も手掛けているが、ただ造るだけではなく、出来上がった漁港がにぎわいを見せてほしい」と志田氏。そのためには、竜宮礁などサステナブルな活動を続け、ナマコなど陸奥湾の水産資源が増えていき、豊富な漁獲量が維持されることが必要だ。「漁獲量が増えれば、漁港は活気づき、にぎわいをみせる。そんな光景を実現したい」と話している。

企業データ
- 企業名
- 志田内海株式会社
- Webサイト
- 設立
- (合併)2020年1月
- 資本金
- 5,000万円
- 従業員数
- 68人(うち役員4人)
- 代表者
- 秋田正孝 氏
- 所在地
- 青森県青森市佃二丁目19番7号
- 事業内容
- 土木・建築・砕石・道路維持