あすのユニコーンたち

中食産業の課題克服に挑む「惣菜盛付ロボット」【コネクテッドロボティクス株式会社(東京都小金井市)】

2024年 6月 10日

沢登哲也代表取締役

スーパーやコンビニ、デパ地下などで販売されている弁当や惣菜。自宅で一から料理をつくる手間を省いてくれて、しかも、おいしい。共働きや一人暮らし、高齢化世帯の増加など消費者のライフスタイルの多様化を背景に需要は急拡大している。飲食店などで食事をとる「外食」、自宅で料理を作って食事をする「内食」に対して、惣菜など店舗で購入した料理を自宅で食べるスタイルを「中食」と呼ぶが、中食の市場規模は10兆円にものぼっている。

ポテトサラダを盛り付ける工程を自動化する「惣菜盛付ロボット」
ポテトサラダを盛り付ける工程を自動化する「惣菜盛付ロボット」
惣菜盛り付けの全工程をこなす世界初のロボットシステム。前方部分に容器供給機が取り付けられ、盛り付け、AI品位検査などの工程を進み、包装・ラベリングまでできる
惣菜盛り付けの全工程をこなす世界初のロボットシステム。前方部分に容器供給機が取り付けられ、盛り付け、AI品位検査などの工程を進み、包装・ラベリングまでできる

東京都小金井市のコネクテッドロボティクスは、中食の製造現場向けにポテトサラダやきんぴらごぼうといった惣菜の盛り付け作業をするロボットを開発している。2024年にはトレイの供給から盛り付け、検査、包装、ラベリングまでの一連の工程をすべてロボットが行う世界初のロボットシステムを実用化した。新たに開発されたロボットは従来1ライン7人の人員が必要だった工程を2人ほどに省人化することができる。

人手不足が深刻化する中食産業の生産性向上への貢献が期待され、2023年に日本ニュービジネス協議会連合会の第18回ニッポン新事業創出大賞アントレプレナー部門の中小企業庁長官賞を受賞するなどさまざまな賞を受賞。ベンチャーの旗手として大きな注目を集めている。

飲食業での起業を目指す 厳しい労働環境を目の当たりに

「食産業をロボティクスで革新する」というミッションを掲げる沢登哲也代表取締役
「食産業をロボティクスで革新する」というミッションを掲げる沢登哲也代表取締役

「通常、産業用のロボットがつかんでいるのは固形物。一方で、ポテトサラダのような惣菜は形が定まっていない。中の具材の大きさもまちまちで軟らかい。そういったものを定量でつかんできれいに盛り付けるというのは人の手でないとできなかった。その作業にロボットで挑んだ」と代表取締役の沢登哲也氏は胸を張った。

「食産業をロボティクスで革新する」というミッションを掲げ、食産業をターゲットにしたロボットの開発を手掛けるようになったのは、それまでに歩んだ人生経験が大きな影響を与えている。

東京大学工学部を2005年に卒業し、京都大学大学院を2008年に修了というエリートコースを歩んでいた沢登氏。最初に選んだ仕事は飲食業だった。「いつか自分で飲食店を開きたい」という子供のころからの夢を実現しようと、さまざまな業態の店舗を展開する飲食チェーン会社に就職した。

「大学院時代の1年間、ロンドンのスタートアップ会社のインターンシップに参加したが、同じく参加していた学生たちは等しく起業を目指していた。そこで大きな刺激を受けた」という。飲食チェーンで新規事業の企画部門を担当。自身が企画した店舗を立ち上げ、軌道に乗せることが任務だったが、そこで飲食ビジネスの厳しい現実に直面する。「長時間労働で賃金も低い。単純作業の繰り返しで、力仕事も多かった。少なくとも私には無理だった。この仕事を何十年も続ける自信がなかった」。限界を感じ、1年で退職。その後、マサチューセッツ工科大学発のベンチャー企業に転職した。

30歳目前に独立「たこ焼きロボット」開発が転機に

「たこ焼きロボット」の開発が人生の大きな転機となった
「たこ焼きロボット」の開発が人生の大きな転機となった

新たな会社では、産業用のロボットコントローラーの開発に取り組んだ。製造ラインで作業する産業用ロボットを制御する装置で、「こんなことができないか」「こういう作業をさせたい」という発注元の要望通りにロボットが作業できるようプログラムを開発・改良する。もともと大学で学んできた得意分野。「食品のことは一切考えずに夢中でやっていた」という。

そして、30歳を目前にした2011年に独立。勤めていた会社から仕事を引き受けながら3年後、コネクテッドロボティクスを起業した。AIを活用したアプリなどを手掛けるなどいろいろな事業にチャレンジしたものの、沢登氏自身、しっくりくるビジネスを見いだせずにいたそうだ。

その間を「自分探しのような感じだった」と語る沢登氏。2017年になって、ひょんなことから「たこ焼きロボット」の開発を手掛けることになった。

ソフトクリームを自動で巻いてくれるロボット
ソフトクリームを自動で巻いてくれるロボット

「たこ焼きは面白いところがあって、『見る要素』がある。たこ焼きパーティーをやると、子供が喜んで見に来る。『これはロボットでやる価値がある』と感じた」という。鉄板に生地を入れて、タコなどの具材を入れ、生地をころころと転がしながら焼いて丸い形をつくる—。AIをはじめ最新の技術を活用し、複雑な作業を行うロボットを実際に開発。すると、世間の大きな注目を集めた。国内メディアだけでなく海外メディアも取材に訪れ、大手外食チェーンやスーパーなども導入を考えてくれた。

「こんな風にロボットで調理を自動化できたら、飲食店で働いている人たちをつらい作業から解放できるのではないか」—。飲食業の厳しい労働環境に強い問題意識を持っていた沢登氏。これまでの人生経験が一つに結び付き事業の方向性を見出した。

「独立した2011年はロボットも高額でAIもなく、お金もなかった。だが、その後、ロボットが安くなり、人と一緒に働く『協働ロボット』が登場した。AIの技術も急速に進化し、資金調達もしやすくなった」。そんな時代の変化も沢登氏の事業を大きく後押しした。

惣菜盛付ロボットの開発に注力

不定形の惣菜を一定量つかめるよう独自開発したロボットハンド。一つのロボットハンドで多様な惣菜に対応できる
不定形の惣菜を一定量つかめるよう独自開発したロボットハンド。一つのロボットハンドで多様な惣菜に対応できる

たこ焼きロボットを皮切りに、立ち食いそば店向けの「そばゆでロボット」、自動でソフトクリームを巻いてくれる「ソフトクリームロボット」、食洗器ロボットなど飲食店向けのロボットを相次いで開発。飲食店への導入実績を上げていたが、現在は惣菜製造工場をターゲットにしたロボット開発に舵を切っている。中食産業には全体で推定数十万人単位の人たちが従事しているという。なかでも惣菜の盛り付けは省人化したくてもできなかった工程で、「ロボットを入れる余地は非常に大きい」と判断した。

盛付ロボットを開発する上で、越えなくてはならなかったのは、ロボットが苦手とする不定形の食材をつかむ技術の開発だった。人が盛り付けをするときには手袋をはめた手で行うため、微妙な調整ができる。ロボットが惣菜をつかむのに適した道具はどんなものか。トレイにきれいに惣菜を置くことも大切だ。AIだけでは対応できないロボットの物理的な動作もかかわってくる。一定量の重さを瞬時に判断するセンサーの技術も加わる。パズルのような複雑な組み合わせを紐解きながら、最適なロボットシステムを作り上げた。

中食の製造工場では、盛り付ける惣菜の切り替えも多いことから、スピーディーに惣菜を選択できるソフトウェアを開発した。ロボットハンドもマグネットや小さなラッチ(掛けがね)で工具なしに簡単に取り換えられるようにしている。粘着性の高いポテトサラダから油分の多い中華惣菜まで和洋中幅広い惣菜への対応を可能にした。

盛り付けの全工程をロボット化した統合システムの開発では、経済産業省や農林水産省、惣菜製造業界などの支援・協力を受けながら実用化にこぎつけた。外付けの容器供給機で多様な容器を生産ラインに供給。コネクテッドロボティクスの得意技術である盛り付け作業をした後、同社のAI検査ソフトで検品し、不良な盛り付けなどを見分ける。最新式のトップシーラーで包装。重量を検知して自動で値段のラベリングもする。食品スーパーの惣菜工場で実際に稼働させるまでにわずか半年で実現させた。

「今は惣菜をはじめ食品工場に注力し、何千台、何万台と盛付ロボットを広げることが重要なテーマ。その後は飲食や農業を含めて食産業全体のエコシステムの中での自動化にチャレンジしたい」と沢登氏は先を見つめる。近い将来、ロボットはさらに柔軟に多様な仕事をこなせるような形で進化するとみており、「農業から飲食業、第一次産業から第三次産業まで、食産業全体がロボット化する時代が必ず起こる。われわれの技術でそんな世界を早期に実現させたい」と意気込んでいる。

「早めに挑戦し、早めに失敗し、学ぶこと」が大事

東京都小金井市にあるコネクテッドロボティクスのオフィス
東京都小金井市にあるコネクテッドロボティクスのオフィス

さまざまな壁に突き当たりながら、今の事業を軌道に乗せた沢登氏。これから起業を目指すスタートアップたちにこんなメッセージを送った。

「早めにチャレンジして、早めに失敗し、学ぶこと。起業には適切なタイミングがある。それは、今かもしれないし、来年かもしれない。タイミングを逃さないためにもできるだけ早く起業をしたほうがいい。失敗しないで成功するのはファンタジー。結局、失敗はする。だが、失敗しても再起不能になるような失敗はしない。そして、自分の信頼を失うようなことはしないこと」

2014年に4人の仲間で事業をスタートしたが、事業がなかなか軌道に乗らず4人全員が辞めてしまい、1人になってしまったことがあったそうだ。当時は資金調達も難しく、切り詰めながらの経営。精神的・肉体的にも追い込まれたが、家族や仲間の支えがあり、なんとか立ち直ることができた。

中食向けロボットの開発に注力するため、飲食店向けロボットは積極的な開発はしていないが、ロボットを導入してくれた取引先や開発に携わった社員たちの信頼を裏切ることになりかねない経営判断だった。「そんな重要な経営判断をしないといけない場面が来ることもある。信頼を失わないように注意深く対応することが大事だ」と説く。苦労を重ねてきた沢登氏だからこそ言える重みのある言葉だ。

起業すれば必ず成功する、そう考えている人が少なくないかもしれない。だが、実際に成功するスタートアップの数はごくわずかにすぎない。失敗を恐れていては何も始まらない。起業し、失敗を重ね、そこから学んだことを糧にしてこそ成功の活路が見えてくる。スタートアップを目指す人たちにとって大切な心構えを沢登氏は語りかけている。

企業データ

企業名
コネクテッドロボティクス株式会社
Webサイト
設立
2014年2月
資本金
1億円
従業員数
43人
代表者
沢登哲也 氏
所在地
東京都小金井市梶野町5-4-1
事業内容
食産業向けロボットサービスの研究開発および販売