あすのユニコーンたち
専属の「パーソナル助産師」がヘルスデータに基づき妊婦と企業をサポート【株式会社MamaWell(茨城県つくば市)】
2025年 6月 5日

母子ともに健康な出産-。そんな願いの一方で、妊婦の3人に1人が切迫早産と診断され、5人に1人が妊娠合併症を発症する。とくに働く妊婦は、不安とリスクを抱えながら産休までの間、仕事を続けているのが現状だ。この状況を打開しようと株式会社MamaWell(ママウェル)は、妊婦一人ひとりに専属で付くパーソナル助産師とヘルスデータを活用し、妊婦の伴走型健康管理サポート事業を行っている。助産師でもある創業者の関まりか代表取締役は、健康的な妊娠・出産を支援することで「女性がより健やかで快適に暮らせる社会の実現」を目指している。
「早く社会に広めたい」との使命感、大学院を休学して起業

関氏は大学卒業後4年間、助産師として出身地である富山市内の病院に勤務し、100件以上の出産を直接介助した。その間、早産や低体重の赤ちゃんを出産し自分のせいだと自責の念を感じる妊娠たちの様子を目の当たりにし、「妊娠してからのケアで妊娠合併症は予防できないか?」との問題意識を抱くようになった。ついには仕事を辞め、看護学で高い評価を持つ千葉大学大学院に入学した。国内外の論文を把握するなどし、助産師がどう介入すれば妊婦が適切な活動量(WHOのガイドラインで週150分以上の中強度有酸素性身体活動)に到達できるのか、といったプログラムの開発に向けて研究を進めた。
在学中に関氏自身が結婚と出産を経験するなか、千葉大学発スタートアップ創出を支援する「なのはなコンペ」に参加。助産師がオンラインで継続的に運動をサポートするというビジネスプランで応募した。その際、ニーズの有無について妊婦にインタビューしたところ、「困っている。ぜひサービスを作ってほしい」との声が聞かれた。さらに2022年1月開催の最終審査では、審査員から「今すぐ起業すべき」との強い後押しも受けた。
「それまでは、起業は一つの選択肢、と考えていたが、もう待っていられない、一刻も早く社会に広めたい、という使命感に変わった」。関氏は大学院の博士後期課程の途中で休学し、同年8月に起業した。社名とサービス名は「MamaWell」。本社を茨城県つくば市内のスタートアップ支援拠点に開設した。さらに、設立直後の同年9月からは同市の社会実装トライアル支援事業として実証実験が実施された。
ウェアラブル端末でデータを記録、助産師と定期的な面談

同社のサービス「MamaWell」では、妊婦が腕時計型のウェアラブル端末(無料レンタル)を装着して心拍数や活動量、睡眠時間など日々のデータをスマートフォン用アプリに記録してパーソナル助産師がチェック。そのうえで助産師との面談が週1回程度の頻度でオンラインで行われ、その人に合った運動方法や仕事量などをアドバイスする。面談がない日でもLINEのチャットで相談を受け付け、妊婦の不安や困りごとの解消に努める。サービスは出産後も利用でき、母体の回復や赤ちゃんのお世話の仕方などのサポートが受けられる。
費用は、妊婦ではなく、雇用主である企業などが負担する。「少子化が国の重要課題となり、社会が子育てを支える必要がある」(関氏)との観点から設計したシステムだ。費用を負担する企業側のメリットも強調する。妊娠・出産による身体の不調を理由にした休職や離職を防ぎ、女性のキャリア形成とともに職場全体の生産性向上につながるという点だ。「人手不足で企業が優秀な人材の確保に躍起になるなか、働く女性が安心して子どもを産み育てられるMamaWellは、他社との差別化を図る制度になりうる」と関氏は話す。
国や自治体からの“お墨付き”、100社超が導入

そして2023年5月に初の導入事例が実現した。導入したのは成長産業支援を手掛けるフォースタートアップス株式会社(東京都港区)。「妊婦をどうサポートすればいいのか分からなかった」という悩みを解消するために導入したもので、「妊娠した従業員とのコミュニケーションやマネジメントがしやすくなった」など、好評を得た。
その後、同年8月に経済産業省が公募する「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」の補助事業者に採択。また厚生労働省が健康保険組合などに財政支援を行う事業の一つとしてMamaWellが対象になった。さらに2024年2月には東京都品川区などが主催する「ウーマンズビジネスグランプリin品川」でグランプリを獲得。こうした国や自治体からの“お墨付き”を得て知名度、信頼度ともにアップした。さらに、「合併症や切迫早産の発生率が低く、医療費が削減されることが期待できる」「従業員のためになり、かつ、従業員を大事にしていることが従業員に伝わる」といった声が聞かれるように。口コミも相まって導入する企業や健康保険組合が増え、現在は100社を超えている。
利用者からも感謝の声が手紙などで寄せられている。たとえば、第一子の際には切迫早産だった女性からは、第二子は問題なく出産でき、妊娠中の仕事のパフォーマンスも維持できた、というもの。「こうした感謝の手紙が私たちのモチベーションになっている」と関氏。また、夫婦の関係性が改善されたというケースも。夫婦ともども育児と家事で疲弊していたところ、夫も同席したオンライン面談で助産師から提案を受けて、役割を分担して両者の負担軽減につながったという。「最近は男性の育児休暇取得が増えたが、何をすればいいのか分からないという男性も多い。助産師からのアドバイスで育休期間を効率的に過ごすことにもつながっている」と、関氏はMamaWellの副次的効果もアピールした。
品川区の新事業に採択、働く妊婦以外も対象に

今年4月には新たな展開があった。子育て支援策の充実を進める東京都品川区の「オンラインMy助産師」事業にMamaWellが採択されたのだ。きっかけは前年のウーマンズビジネスグランプリ受賞で、その後、区が事業化を進め、今年度に実施する運びになった。利用料は区が負担する。
特筆すべきは対象者だ。これまでの事例では企業などで働く妊婦が対象だったが、同区の事業では専業主婦を含め区民が対象になる。「区内在住であれば、会社勤めをしていなくても利用でき、より多くの方たちに知ってもらえることになる」と関氏はその意義を強調する。また、妊婦だけでなく夫などパートナーもサポートの対象となる。妊娠中から産後3カ月にわたり、オンライン面談とチャットでの相談で助産師からの助言を2人そろって受け、出産後の共同での育児を促進していくことになる。
募集数は、区内在住で妊娠の届出をした妊婦とそのパートナー300組(先着順)だが、受け付け開始の1週目で定員の1割以上が埋まり、区民の関心の高さがうかがわれた。
目指す世界は「妊娠したらMamaWell」

起業からまだ3年弱。MamaWellの導入は進み、他の企業や自治体も注目している。起業当初は1人だけだった助産師も現在は50人近くが登録している。「一刻も早く社会に広めたい」との使命感が社会のニーズと見事にマッチした格好だ。
このように事業が成長を続けるなか、新たな課題が次々と現れ、「常に『今』が一番大変」(関氏)という日々を送っている。そんな関氏がこの先に目指しているのは、「妊娠したらMamaWell」と多くの人たちが当たり前のように口にする世界だ。MamaWellが“妊娠版ライフライン”とも言うべきインフラのような存在になるように社会へ浸透させたいとしている。
「少子化がより深刻化するなか、MamaWellを普及させていくことで、社会全体で子どもを育てるという意識を根付かせたい」と関氏は意気込みを語る。「女性がより健やかで快適に暮らせる社会の実現」をビジョンに掲げるMamaWellの取り組みは、妊婦の悩みだけではなく、社会課題の解決にも大いに貢献していくことになる。
企業データ
- 企業名
- 株式会社MamaWell
- Webサイト
- 設立
- 2022年8月
- 資本金
- 100万円
- 代表者
- 関まりか 氏
- 所在地
- 茨城県つくば市吾妻2-5-1つくば市産業振興センター1F
- 事業内容
- パーソナル助産師とヘルスデータを活用した妊婦の伴走型健康管理サポート事業