農業ビジネスに挑む(事例)

「あいやさい」大阪城下で農業生産者自らが奈良の新鮮野菜を売る店舗開設

  • 農業生産者が自ら直売所を経営
  • 奈良県産の採れたて新鮮野菜を大阪市内で販売

採れたての新鮮な奈良県の野菜にこだわるのが、大阪城下で店舗を構える青果店「あいやさい」だ。同店を経営する多田隆士さんは奈良県北西部で自ら農業を営む。つまり、あいやさいは農業生産者が個人で経営する直売所だ。農産物の直売所は全国に数多あるが、ほとんどが農業法人や農業組合など組織として運営するのに対し、あいやさいは個人が経営するという点で極めてめずらしい直売所だ。

あいやさいの創業は2008年10月。多田さんはそれまでの7年間、大阪城に近い森之宮団地内で自家栽培の野菜と米を隔週日曜日に路地売りしていた。奈良県在住の多田さんがわざわざ大阪まで野菜や米を運んだ理由は、団地内のスーパーが閉鎖してしまったため、近隣の住民が不便していることを知人から聞き、何とかしてあげたいの思いからひと肌脱いだことにあった。

毎日、奈良から新鮮な野菜を大阪城下の店舗まで運び、販売する

新鮮ゆえのエピソード

あいやさいのコンセプトは「都会の人に奈良県の新鮮な野菜を提供する」ことであり、隆士さんの長男で店長の昌崇さんを中心に「親切、丁寧、まじめ」をモットーに店を運営している。毎朝約1時間をかけて奈良からクルマで野菜や加工品(みそ、豆腐など)を運ぶ。地元・奈良では約100件の農家と契約を結び、毎朝農産物を集荷して店舗に並べる。集荷方法は、契約農家を戸別に回るか、設置してある集荷場に農産物を持ち寄ってもらう。

約50m2の店内には奈良県産野菜がずらりと並ぶ。来客のほとんどが近隣の住民だが、高齢化・少家族化していることから野菜は小分けに、米は1kg単位で量り売りもする。また、重くて荷を持ち帰れないお客や注文客には無料で配達する。

「地元・奈良の新鮮な野菜をおいしく食べていただきたいので、野菜についての知識やレシピを勉強してお客さまに教えることもあります」(昌崇店長)

あいやさいの商品は奈良県産であること、そして新鮮であることがセールスポイントだ。また、それを証すかのようなエピソードにこと欠かない。

「青梅を買われたお客さまから、容器に入れて水洗いしたら青梅のうぶ毛がたくさん水に浮いたが大丈夫なのかと電話で問合せをいただきました」

早速、仕入れた農業生産者に確認してみると、収穫したての青梅の表面にはうぶ毛が生えているが、スーパーなどで販売されるものは通常、輸送や保管中にうぶ毛が取れてしまう。つまり、収穫したての青梅だからこそうぶ毛が付いているわけであり、それはなによりも新鮮な証拠というわけだ。

「購入した生卵を割ってみたら、白身が濃い色と薄い色の2層になっている。これは鮮度として問題ないのかというお問い合わせを受けたこともあります」

鶏卵の白身に濃淡の2層があるのも鮮度がいい証であり、鮮度が落ちると濃淡が交わり1層(同じ色あい)になってしまうのだ。

「売っている私たちもお客さまから問われて初めて知る農産物の知識もままあります」

自ら農業生産者であり地元の野菜を売っているゆえ、野菜に対する目利きと知識には自負があるが、ときには顧客と一緒に農産物について学ぶこともあるようだ。

「親切、丁寧、まじめ」をモットーにあいやさいを運営する(左端が店長の多田昌崇さん、左から3人目が創業者の多田隆士さん)

購買の年齢層は広がっている

現在、年間の売上は約3000万円で集客数は1500人。開業当初は高齢層の顧客が多かったが、最近は購買層が30、40代にも広がっている。

あいやさいのコンセプト「奈良の新鮮野菜を都会の人に食べてもらう」を実行するうえでの課題は、農産物の適切な集荷量の把握と輸送距離およびそのコストだ。新鮮な野菜だからその日のうちに完売させるが、日中に多く売れてしまい夕方に品薄状態になると、売れ残りのような印象になってしまう。とはいえ、奈良からの輸送だから補充するには時間とコストがかかりすぎる。その対応として、奈良と大阪の輸送ルート上の交通量の多い地域に2号店を設け、そこで販売することと現在の店舗へ補充することの2つの機能を発揮させることも思案中のようだ。

企業データ

企業名
あいやさい
代表者
多田隆士
所在地
大阪府大阪市城東区森之宮2-1-101