社会課題解決企業

ゲノム検査で不妊治療・少子化対策に挑戦「Varinos(バリノス)株式会社」

2020年 5月 20日

「ゲノム医療の発展に貢献したい」と桜庭喜行代表取締役
「ゲノム医療の発展に貢献したい」と桜庭喜行代表取締役

少子化に伴い、人口減少が進む日本。原因の一つとして「不妊」に悩む夫婦が急増していることが指摘される。これに対し、子宮内の細菌バランスを高精度に検査する「子宮内フローラ検査」を世界で初めて実用化し、不妊治療の成功率向上に取り組んでいるのがVarinos(バリノス、東京都品川区)である。少子化・人口減少という社会課題の解決に挑戦する点が評価され、優れたベンチャー企業を表彰する「Japan Venture Awards 2020」(中小機構主催)で最高賞である経済産業大臣賞を受賞した。

晩婚化で急増する不妊治療

世界保健機関(WHO)は、不妊を「避妊していないのに1年以上妊娠しない状態」と定義する。日本は夫婦の6組に1組は不妊症の検査や治療を受けており、体外受精の実施件数は世界最多の年間約45万件と、米国の2倍(人口比だと4倍以上)に上る。今では日本の赤ちゃんの16人に1人は体外受精で生まれてくるという。

日本で不妊治療が急増したのは、女性の社会進出や長寿化に伴い結婚年齢が高くなる一方で、女性の妊娠の適齢期は20代から30代前半と昔とさほど変わらないためだ。人口動態統計によると、2015年の平均初婚年齢は夫が31.1歳、妻が29.4歳。30年前の1985年に比べて夫は2.9歳、妻は3.9歳も年齢が上がった。第1子出生時の母親の平均年齢も、1985年が26.7歳だったのに対し、2015年は30.7歳と4歳も高齢化した。

ところが女性が妊娠できる能力は20代をピークに徐々に下がり、35~36歳を過ぎると下降スピードが速まるといわれる。結婚直後は仕事に専念し、40歳を前に「そろそろ子どもをつくりたい」と思っても、不妊に悩まされる可能性が高いというわけだ。実際、体外受精治療を受けても、妊娠成功率は35~45歳平均で10~30%にとどまるという。

子宮内フローラ検査で正常化に導く

本社ラボラトリーに備える3台の次世代シーケンサー
本社ラボラトリーに備える3台の次世代シーケンサー

「人工授精や体外受精の成功率を高める方法はないかと考え、2報の論文に行き着いた」。そう語るのは、バリノスの桜庭喜行代表取締役だ。その一つは、2015年に米ラトガース大学の研究者が、従来は無菌とされていた子宮内に多様な細菌が存在することを解明した論文。16年には米スタンフォード大学の研究者が、ラクトバチルス属の細菌(善玉乳酸菌)の構成割合が小さいと体外受精の成功率が低くなることを突き止めた。

スタンフォード大の研究では、子宮内でラクトバチルス属の細菌が多くを占めた「正常群」の体外受精成功率は70.6%だったのに対し、この細菌が少ない「異常群」は33.3%にとどまった。また生児獲得率は正常群が58.8%に対し、異常群はわずか6.7%だった。この論文を見つけた時、「子宮内フローラ(細菌の集合体)の状態を検査で把握し、正常化させれば、赤ちゃんの生まれやすい環境に導いていけると考えた」と振り返る。

バリノスが開発した臨床検査サービスは、DNAの塩基配列を高速・大量に解析できる次世代シーケンサーを用いて子宮内フローラの構成要素を検査し、妊娠の成功率を高めようとするものだ。米大の研究成果と日本の医療機関との共同研究をもとに、独自の検査法を開発。現在、全国の医療機関約130カ所にサービスを提供し、月400件弱の検査実績を持つ。

具体的には、検査を受けたい人がバリノスと提携する医療機関を通じて申し込む。医療機関は検査キットを使って生殖器内から検体を採集し、バリノスに送る。届いた検体は次世代シーケンサーを使って検査・解析し、約2週間で詳細な結果をレポートとして返却する仕組みだ。ラクトバチルス属の細菌の割合が少ない人は「ラクトフェリン(ヒトの母乳や牛乳に含まれているたんぱく質)のサプリメントを飲むことで、子宮内フローラを改善することが可能になる」という。

検査手法開発で医療応用を目指す

ゲノム検査に関わるさまざまな機器・備品が並ぶ
ゲノム検査に関わるさまざまな機器・備品が並ぶ

桜庭氏が2017年2月に同社を設立したのは、14年から次世代シーケンサーを開発・製造する米イルミナ(カリフォルニア州)の日本法人で、医療分野の市場開拓に携わっていたためだ。07年に同社が発売した次世代シーケンサーは、数千億円のコストが必要だったヒト1人分のゲノム(全遺伝情報)解析を、10万円弱へと劇的に低コスト化させた。ところが日本ではいくら導入を提案しても、受注実績に結び付かなかった。

「日本はゲノムの研究こそ最先端だが、ゲノム検査会社は海外企業の日本法人ばかり。検査手法そのものを開発できないので、臨床応用が進まない」と実感した。この分野のベンチャー企業が次々と誕生する欧米や中国、韓国に対し、日本だけが遅れていく危機感があった。それなら自分が検査手法を開発しようと決意し、腸内細菌のゲノム検査に精通した同僚の長井陽子氏(現取締役CTO=最高技術責任者)と2人で起業した。

桜庭氏が不妊医療に着目したのは、日本が「不妊大国」で市場が大きいのに加え、不妊治療が「自由診療」であるためだ。「さまざまな規制を受ける保険診療に対し、自由診療ならすぐに事業化して患者さんにサービスを提供できる。この分野の進歩は目覚ましく、最新技術を適時に提供できる点も大きい」とメリットを強調する。

ただ、起業後の道のりは平坦ではなかった。検査に使う試薬や空気中にある細菌と、検体に含まれる細菌をどう判別するかなど、技術的な課題が山積していた。試行錯誤を繰り返した結果、ようやく独自の検査方法を確立したのである。「当社の強みは開発力に尽きる。我々が3年間やってきて、いまだにどこも真似できていないことがその証だ」と胸を張る。

日本発の技術を海外に、正しい知識啓発も

表彰式で松本洋平副大臣から経済産業大臣賞を手渡された
表彰式で松本洋平副大臣から経済産業大臣賞を手渡された

桜庭氏は埼玉大学大学院で理学博士号を取得後、01年から理化学研究所でゲノム分野の研究に携わってきた。最先端のゲノムの研究者がビジネスの世界に転身したのは、08年に米国に留学して「本当に社会貢献ができているのか」という思いが湧いてきたからだという。「社会貢献をより実感したい」と、日本で新型出生前検査を手がけるGeneTech(東京都港区)に11年に入社し、イルミナに移った。

起業後、2年半は桜庭氏1人で医療機関に営業したが、「題材(サービス内容)が良く、分かりやすかったのか、訪問すればほぼ成約できた」と話す。「新型コロナウイルス感染症の拡大がいつまで続くかによって大きく変わる」と前置きしながら、20年中に単年度黒字化を果たすとともに、株式公開(IPO)の準備に入り、早ければ3年後に上場を目指す計画だ。

今後の課題は2つある。一つは海外進出だ。現在、グローバルカンパニーと交渉しており、「日本で培った日本発の技術を海外に提供できると確信している」。もう一つは、一般向け事業への進出である。ゲノム検査キットを一般の人向けにも提供する検査サービスを始めることで他社と交渉中だという。

日本で不妊治療の成功率が低いのは、体外受精をしている人のピークが40~41歳と、欧米より5歳も高いためである。「最近も40歳半ばで出産した有名人が話題となったが、奇跡に近い。多くの人に間違った情報を与えてしまっている」と嘆く。「私の知る範囲でも、若い時に正しい知識を持たず、今になって後悔する女性は多い。若い人に正しい情報を提供する必要がある」と話し、その啓蒙・啓発手段として一般向けサービスに期待をかけている。

※掲載している内容は、4月7日に発令された緊急事態宣言前に取材したものです。

企業データ

企業名
Varinos(バリノス)株式会社
Webサイト
資本金
1億円
従業員数
19人(役員2人を含む)
代表者
桜庭喜行氏
所在地
東京都品川区東五反田5-23-1 第2五反田不二越ビル6階
Tel
03-5422-6501
事業内容
臨床検査・衛生検査の受託解析、新世代ゲノム検査の開発
創業
2017年2月