コロナ禍でがんばる中小企業

新ブランドのサンプル送る「トランクショー」が成果【宮城興業株式会社】(山形県南陽市)

2020年 12月 24日

社屋前に立つ高橋和義社長(62)
社屋前に立つ高橋和義社長(62)

1.コロナでどのような影響を受けましたか

サンプルをトランクに詰め、取引店へ
サンプルをトランクに詰め、取引店へ

宮城興業は1941年、宮城県仙台市創業の靴メーカーだ。戦前は軍靴を手掛け、疎開先の山形で戦後に民需へ転換。1969年に革靴の本場・英国のバーカー社と技術提携を結び、高級靴の代名詞とされる「グッドイヤーウェルト製法」による革靴などを全国500店以上の取引先に提供している。

「多品種・小ロット生産」が可能なため、他社ブランドの受託製造(OEM)のほか、近年はデザインや素材を組み合わせて自分だけの靴を作るオリジナルカスタムメイド・システムなど自社ブランドの展開にも力を入れ、全国約350の店舗で販売している。

新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの取扱店が休業し、自社ブランド靴の売上が大幅に減少。OEMも販売店の見込みが立たないことから受注減となった。ダブルパンチで今年5月以降の工場稼働率は前年同期比で半減。取扱店舗の営業再開後も前年に比べ7割程度で推移している。

2.どのような対策を講じましたか

職人の技術が活きる同社工場
職人の技術が活きる同社工場

公的金融機関のセーフティーネット融資や厚労省の雇用調整助成金の活用はもちろん、工場稼働減で空いた時間を活用し、社長や職人を講師に、従業員向けのスキルアップセミナーを開講した。技術の習得や維持、次の商品開発のための新たな技術開発に取り組み、新規で自社ブランドを5つ創出した。約10種にのぼる自社ブランドのカタログやSNSを活用したプロモーション方法を見直し、マーケティングを再考した。

手応えを得たのは「宮城興業版・トランクショー」だ。トランクショーとは本来、特定ブランドのスタッフがトランクに入る程度の自社製品を持ってホテルなどの会場を訪れ、顧客を招待して行う展示・受注会のことだが、コロナ禍で県を跨いだ営業ができないため、新たに立ち上げた新ブランドのサンプルをトランクに詰め、ショー開催を希望する店舗に送り、ミニ展示会的なイベントを行ってもらった。

コロナ禍で余裕がない店舗は、お金をかけずに売上を上げる方法を模索していた。トランクショーなら在庫リスクを抱えず、既存顧客への新提案のほか、新規顧客獲得のための幅広いブランドを提案できる。当社はSNSを使った周知活動での支援を行い、サンプルの行き帰りの送料を負担する。店舗側にはほとんどリスクが無い。

5月ごろから考え始め、これこそが今求められている形だと確信し、9月に開始したところ、全国約500店の取引先から引き合いが相次ぎ、いまでは毎週どこかの店で何らかのブランドのトランクショーが開催されている。

その結果、取引先1店舗あたりの売上が増加し、新規の取扱店を開拓できたし、当社の新ブランドを知ってもらうことで既存取扱店舗の取扱いアイテムも増加した。取扱店舗とのコミュニケーションが密になり、店舗側のニーズをつかむこともできた。なによりの収穫は営業マンが現場に行かなくても売上を上げられることが分かったことだ。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

婦人靴も人気商品だ
婦人靴も人気商品だ

トランクショーの成果を機にビジネスモデルの抜本的な見直しを行う。インターネットやIT技術を活用したデジタルマーケティングに力を入れ、非対面型のコミュニケーションを強化することで激化するビジネス環境に対応できる会社を目指すつもりだ。

既存取引先500店舗は当社の財産だ。ここでいかに売っていただけるかで当社の売上やブランド力が決まってくる。トランクショーをきっかけに、さらに連携を強化し、店舗から信頼され頼られるメーカーとして機能していけるようにしたい。EC事業では取引先の取扱店舗を裏切らないよう自社EC専用の新ブランドを売る。

昨年から南陽市の地域産品認定事業となった片麻痺障害者用靴の製造にも注力する。病気や事故などで片足に障害を負った人用の靴で、これまでは両足だった靴の最小単位の上をいく片足ずつの製造だ。量産はできないが市場はあると挑戦中だ。販売代理店となる義肢装具会社に向け、商品説明やカスタムオーダーメードシステムの受注方法などをまとめたDVDを郵送し、営業責任者とコンタクトを取っている。営業マン向けに販売手法を伝授するオンラインセミナーも企画中で、さらなる販売代理店を開拓していきたい。

企業データ

企業名
宮城興業株式会社
Webサイト
設立
1952年11月21日
代表者
高橋和義 氏
所在地
山形県南陽市宮内2200番地
Tel
0238-47-3155

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