激変する時代を乗り越える中小企業
マスク需要減、WBCで一躍注目のベルト「コアエナジー」などに注力【株式会社白鳩(愛知県名古屋市)】
2023年 7月 20日
1. 事業内容をおしえてください
当社は、マスク製造のOEM(不織布マスクの製造・検査・包装、ウレタンマスクの検査・包装)を事業の柱としている。1950年に祖父・横井正男がヘアネットを製造する会社として創業(会社設立は1958年)。ヘアネットのゴム部分が医療用マスク素材として販売が好調だったこともあり、間もなく日本で初めての民生用マスクを開発・販売するようになった。その後も花粉用フィルターマスクや不織布マスク、ウレタンマスクなど、その時代のニーズに合わせた様々なマスクの改良・製造に携わり、日本人の“マスク着用文化”の礎を築いてきた。2023年4月期の売上高は約50億円で、このうちマスク製造OEM事業が9割ほどを占めている。
強みは、日本で初めて民生用マスクを開発・販売した会社としての縫製技術のノウハウ。そして、それを支える従業員が高い技術や能力を備えていること。新商品の開発に欠かせない生産機械の大部分は自社で手を加えて設計・開発したオリジナル製品で、他社が開発できない商品を生み出す源泉になっている。さらに、全従業員が世界の人々の健康や快適な生活に貢献したいとの思いを強く持っていることや、経営者と従業員が強い絆と信念のもとで会社を支えていることも当社の強みである。今後は、海外展開などを行う際、文化の違いなどをよく理解して製品を開発・販売する必要があり、その点に注力していく予定だ。
このほか、女子野球部「白鳩フェリックス」を2019年に創部。今年3月には子どもの職業・社会体験施設「キッザニア福岡」(福岡市博多区)のオフィシャルスポンサーとなって「マスク工房」パビリオンをオープンするなど、様々な活動を行っている。
2. 昨今の外部環境の変化でどのような影響を受けましたか
コロナ禍前まで主力であったウレタンマスクは、若者を中心に支持を集め、ここ数年で当社の年間売上の70%を占める主力商品へと成長した。しかし、ウレタンマスク本体は抗菌仕様だが、ウイルスなどは十分に捕集されないこと、加えて政府が不織布マスクを推奨する内容をアナウンスしたため、ウレタンマスクの需要が激減し、当社の売上も大きく減少した。
政府の増産要請もあり、需要の高い不織布マスクを増産すべく対応してきたが、コロナの収束とともに需要も落ち着いてきており、今年4月に派遣社員を100人近く削減するという苦渋の決断を行った。今後はひとりでも多くの雇用を確保すべく、雇用の在り方についても検討していく予定だが、このように、コロナ対策の政策や、それを受けた市場の変化に翻弄され続けた。
なお、当社は製品の大部分を盛岡工場(岩手県)など国内の自社工場で製造し、原材料もほとんどを国内で調達しているため、今のところ原材料費高騰などの影響はあまり受けずに済んでいる。
3. どのような対策を講じましたか
ウレタンマスクの需要減に伴い、需要が高い不織布マスクの生産に注力するため、中部経済産業局の経営力向上計画を活用するなどし、不織布マスク製造設備の増設を行った。交替勤務によって操業時間を拡大したり、グループ間での人の融通などを行ったりすることで増産に対応した。同時に、不織布と同様の性能があり、なおかつファッション性や快適性が高い高機能マスク「and MASK(アンドマスク)」を自社開発し、生産・販売を開始した。これはファッション誌「VOGUE JAPAN」などにも掲載され、注目された。しかしながら、ウレタンマスクの売上減少分をカバーするまでには至っておらず、事業の再構築が急務となっている。現在は、不織布と同等の捕集効率を備えた新ウレタンマスクの開発に注力している。
一方で、コロナ禍が収まり、マスクの需要が減少してきたのに伴い、マスクの生産に割いていた人員を他の業務のために充てることができるようになった。とくに、従来からグループ会社であるコア・テクノロジー株式会社が生産・販売を行ってきた、サポーター機能を兼ね備えた野球ベルト「コアエナジー」事業の展開に注力している。
「コアエナジー」は、プロアスリートの故障の防止やパフォーマンスの向上といった効果から、日本のプロ野球選手では昨シーズンの三冠王、村上宗隆選手(ヤクルト)ら約700人が利用しているほか、通常は契約メーカー以外の商品は着用できないことになっている米メジャーリーグのトップ選手にも愛用者がいる。侍ジャパンが活躍した今年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)開催に伴い、「コアエナジー」が多くのメディアに取り上げられるなどして認知度はいっそう上昇した。その結果、注文が殺到し、現在は半年から1年分近くの受注を抱えるほどの当グループの第二の事業となっている。
4. 今後はどのように展開していきますか
今後は、まずは従来のマスク事業を継続しつつ、「and MASK」をはじめとした付加価値の高い商品の新たな開発や販売を主軸に置いていく。さらに、中国など、コロナ禍が明けてからもマスク着用の習慣が根付いた国々に対して不織布マスクを販売するほか、これまで花粉症対策としてマスクをつける文化のなかった国々にも“マスク着用文化”を定着させるなど、日本で製造したマスクの輸出を通じて、世界中の人々の健康や快適な生活に寄与したい。
とはいえ、なにがあってもマスクにこだわり続けていこうという考えではない。当社は民生用マスクのパイオニアであるが、マスキングによって人間の「できる」を広げることを使命としており、より人のためになる、健康に資するという目的を達成できる事業であれば、老舗のマスク事業をやめることも一つの選択肢としている。常にアップグレードしながら今後の事業展開を進めていく所存だ。
その方針を示すものとして、まずは自社の縫製技術を活用し、製造・販売を行っている「コアエナジーベルト」事業を第二の事業の柱と位置づけ、本事業の売上を高めるべく、グループ会社(コア・テクノロジー)の支援に注力することとしている。新たな分野の需要にも応えるべく新商品の開発・販売を進めていくとともに、私(横井隆直社長)自身が今年から米国に数年間移住し、海外でのPR、販売を推し進める予定であるなど、グローバル戦略を展開していく。
企業データ
- 企業名
- 株式会社白鳩
- Webサイト
- 設立
- 1958年7月
- 資本金
- 1500万円
- 従業員数
- 186人
- 代表者
- 横井隆直 氏
- 所在地
- 愛知県名古屋市南区弥生町121-1
- Tel
- 052-823-1141
- 事業内容
- マスクなど繊維製品の企画・製造・販売
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