中小企業・小規模事業者によるカーボンニュートラルの取り組み事例
従業員のアイデアを取り入れてCO2排出量を削減。カーボンニュートラルは全方良しの取り組み:アイレック株式会社(島根県出雲市)
2025年 3月 14日
企業データ
- 企業名
- アイレック株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1953年6月
- 従業員数
- 15名
- 所在地
- 島根県出雲市長浜町516番地57
- 業種
- 化学工業製品製造業
島根県出雲市でゴムタイヤの原材料の設計開発及び製造販売を行う。ロジン(松脂)を主原料としたハイブリット樹脂を主要製品とする同社。ロジン(松脂)は、カーボンニュートラルに貢献する天然資源であり、サステナブルなゴム配合剤として注目されている。今回は代表取締役社長の森山信雄氏にお話を伺った。

[取り組みのきっかけ]
取引先のお客様がカーボンニュートラルを推進

1953年に創業し、同社が開発したロジン系ハイブリッド樹脂は60年以上にわたってゴムタイヤの原材料として使用されている。ロジンは松から得られる天然樹脂であり、ロジン系ハイブリッド樹脂はゴムタイヤに使用すると耐久性やグリップ力の向上等の効果が期待できるとのこと。このようなハイブリッド樹脂の国内メーカーは同社を含めて僅か数社しかなく、世界を見渡しても20社に満たないという。
そんな世界的にも珍しい製品を展開している同社代表取締役社長の森山氏に、カーボンニュートラルに取り組むきっかけを伺った。
「取引先のタイヤメーカーや、その先の自動車業界がカーボンニュートラルの取り組みを推進していたことがきっかけです。元々脱炭素の取り組みに関心はあったので、これを機にすぐに取り組まなければと思いました」(森山氏)
取り組みを始めるにあたって、様々なチャネルから情報収集を行った。
「まずはインターネットで情報収集し、しまね産業振興財団に相談しました。その後は脱炭素化支援サービスを展開する企業と顧問契約をして取り組みをサポートしてもらっています」(森山氏)
取引先の業界全体がCO2排出量削減やSBT※認定の取得への機運が高まってきており、その流れに乗りつつ、地球環境に貢献したい思いで取り組みがスタートした。
※SBT
Science Based Targetsの略称。企業が科学的根拠に基づいて設定する温室効果ガス(GHG)排出削減目標のこと。
[具体的な取り組み]
フォークリフトの電動化から太陽光発電の導入まで幅広く。従業員からのアイデアを募る施策も

2019年には島根県で一番初めにSBT認定を取得した同社。具体的にどのような取り組みを行ってきたか尋ねてみた。
「社内では、SBTに関する勉強会を毎年実施し、A重油・電力の計量を全社測定から工場・装置ごとの測定に変更しました。また事務所の窓に黒いシートを貼り、事務所が熱くならないようにもしています。2022年にはフォークリフトを電動化し、電灯のLED化も実施しました。2024年には太陽光発電を導入し、電力消費を3割カットできました」(森山氏)
小さなことの積み重ねを大事にしつつ、要所で大規模な改革も厭わない同社だが、従業員のモチベーションを高める施策も興味深い。
「グリーンカード制度というものを作り、カーボンニュートラルの取り組みアイデアを社内で募る取り組みを2012年から行っています。件数と成果に応じて手当を支給しているのですが、従業員には楽しみつつカーボンニュートラルに関心を持ってもらえればとの思いから始めました。昨年は1年間で計143件ものアイデアが出ました。従業員のカーボンニュートラルへの意識向上はもとより、実際にCO2排出量を削減でき、良い取り組みになっていると感じます。グリーンカード制度に関わらず、特別に良い取り組みなどがあった場合は別途、表彰しています。このような小さな積み重ねでも継続すれば大きく変わると思っています」(森山氏)
[感じたメリット・課題]
光熱費の削減と、タイヤメーカーでの講演やSBT相談の依頼

積み重ねてきた取り組みの1つ1つが、光熱費の削減や対外的な評価のさらなる向上に繋がっていった。
「2030年まで52.5%を目標に、2021年を起点とし2024年までに21.9%削減出来ました。電気代などの光熱費削減を積み重ねていった結果ですが、フォークリフトの電動化も大きかったです」(森山氏)
また取引先のタイヤメーカーからのSBTに係る相談窓口にもなっているという。
「SBT認定を取得した2019年当時は自分たち以外に取得した企業がほぼなく、取引先のタイヤメーカーのSBTチームから相談を受けたりしていました。他、講演の依頼も、現在に至るまで何回もいただいています。取引先から頼ってもらえることも多く、従業員の業務へのモチベーションも高くなっています」(森山氏)
2024年に導入した太陽光発電のメリットについてはこう語る。
「CO2削減効果はもちろんのこと、中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用により即時償却や税額控除といったメリットを得ることができたため、コストを抑えることができました。導入のハードルはそこまで高くなかったように思います」(森山氏)
コストカットや取引先からの信頼向上というメリットがありながらも、さらなるCO2削減に向けては課題も感じている。
「スコープ1(自社が直接排出する温室効果ガス)があまり下がっていない状況なのですが、ここは受注量と連動しており、受注が増えると上がってしまい悩んでいます。ここを減らすノウハウを今後探していきたいですね」(森山氏)
[今後の展望]
2030年までにさらなるCO2排出量削減を目指す

同社は2030年に向けて、スコープ1およびスコープ2(自社が間接排出する温室効果ガス)を2021年基準年から52%以上削減する目標を掲げている。
「スコープ2の削減をメインに、受注量によって変動するスコープ1の削減も目指していきたいです。また現在のハイブリッド樹脂製品は5割が石油樹脂、残り5割がロジン等なのですが、石油樹脂を天然素材にしつつ、今よりもタイヤの性能を良くできないかとタイヤメーカーから相談を受けており、商品のさらなる改良にも取り組んでいきたいです」(森山氏)
地道な取り組みを続けてきた森山氏はカーボンニュートラルの取り組みについて、最後にこう語ってくれた。
「会社に利益をもたらし、環境にも良く、お客様にも喜ばれ、それが従業員のモチベーションにもなる、全方良しの取り組みだと思っています」(森山氏)