コロナ禍でがんばる中小企業
OEM専業からオリジナルブランド立ち上げで次なるステップへ【株式会社ユーイーアイ】(秋田県大仙市)
2022年 12月19日
1.コロナでどのような影響を受けましたか
当社は、OEM(他社ブランド製品の受託生産)を専門に、秋田県大仙市の自社工場で紳士革靴や婦人パンプス、スニーカーなど幅広い種類の靴を製造しており、近年は、工場認定取得が必要なゴアテックスシューズの縫製及び製靴なども行っている。小規模の工場としては珍しいと言われるが、企画から設計、裁断、縫製、成型までを一貫して行っており、少量の注文にも可能な限り対応している。
1976(昭和51)年に有限会社羽後通信工業として創業した際は、大手電子部品メーカーの協力工場として弱電部品の製造を行っていたが、元号が昭和から平成に変わる頃に発注元企業が生産拠点を中国に移行することとなったのを機に、当時の社長で現会長の加藤タヱが、製造業という共通点以外はまったく未知の分野であった靴製造に業種転換した。アッパー縫製から徐々に開始し、アウトソール加工、アッパーの革の裁断など取り組み内容を広げていった。1998(平成10)年には、並行して行っていた弱電部品製造の製造を完全に終了し、有限会社ユーイーアイ(2008年に株式会社化)を設立して靴製造業へ完全に業態転換を果たした。
なお、社名の「ユーイーアイ」は「Unique and Essential Individuals」(唯一でかけがえのない仲間たち)の頭文字を取ったもの。私たちの靴を履いてくれるユーザーが力強く歩む一歩一歩を想いながら製品をつくっている。
新型コロナウイルスの感染拡大で生活様式に大きな変化が出始めてからは、革靴生産にも大きな影響が生じた。当社は、リクルート活動を含むビジネスシーンや卒業式、入学式といった各種セレモニーで使用されることが多い革靴や革パンプスを生産の主力としていたため、大勢の人が集まる場面がことごとく取り止めとなったり自粛されたりしたことで需要が激減し、それに伴って生産量も大幅にダウンした。生産の100%をOEMに依存していたため、対策を打つにも限界があった。需要が回復するまでは耐えるしかないと、各種の補助金を活用しながら工場の稼働を停止するなどして、コロナ禍が沈静化するのを待った。しかし、次々と変異ウイルスが発生し、状況が改善されることもないまま時間だけが過ぎた。
国内では、服装や生活様式の多様化に伴い、コロナ禍の数年前から徐々に革靴離れが顕著になってきており、生産縮小の影響が出始めていたところであった。コロナ禍は完全に追い討ちとなり、まるで革靴需要が蒸発してしまったかのように感じられた。
2.どのような対策を講じましたか
持続化給付金や雇用調整助成金などの補助金を活用して、仕事量に応じて工場の稼働を停止したほか、売上が上がらないなか、コロナ特別融資などで、とにかく手元資金を確保することに努めた。それでも、どうしても従来の大量生産に合わせた設備や人員の体制では立ち行かなくなり、人員体制を見直し、生産規模を縮小した。苦渋の決断であった。
同時に、一貫生産できる強みを活かした自社ブランドの立ち上げを急いだ。前々から検討していたが、コロナ禍を契機に、OEM生産のみに依存しない自律的な成長を志向できる事業の柱をつくろうと、JAPANブランド育成支援事業の枠組みを活用して立ち上げを加速させた。2020(令和2)年3月に申請した際は選に漏れてしまったが、同年6月の特別枠募集への再挑戦で採択してもらった。これにより、新たなコンセプトで生み出した初のオリジナルブランド「SEAM.SHOES(シーム・シューズ)」を創設し、自社によるEC販売を中心に事業をスタートさせた。
翌年1月に補助事業が完了し、その後も継続してEC販売や商談会を実施していく計画だった。ところが、コロナ禍で既存事業がますます苦境に陥り、その立て直しなどに奔走するうちに、新規事業に取り組む時間や人的資源も侵食されていき、事業の推進が大幅に遅れてしまっていた。
海外ではアフターコロナの経済活動へ移行し始める国も徐々に出始めてきた今年の初頭、日本国内でのアフターコロナを見据え、OEM事業の立て直しと併行して、オリジナルブランドの本格発売開始のための具体的な準備を再開した。盛岡市内で今年10月上旬に開催された展示会、さらに、同月下旬に東京都内で開催された展示会に出展を果たした。評判は上々で、セレクトショップのバイヤーとの商談を行ったほか、一般客からも好評だった。コロナ禍に翻弄され、想定外の1年以上もの期間を要してしまったが、ようやく具体的な展開をスタートすることができた。
これまでOEM専業でエンドユーザーの姿が見えていなかったが、「SEAM.SHOES」の直売事業によってエンドユーザーひとりひとりの声を聞き、評価を知ることができた。このことは今後、自社ブランド事業を進めるうえでも、OEM生産で卸先とともに製品づくりを進めるうえでも、ひとつ次のステップへと進めたと感じている。
3.今後はどのように展開していく予定ですか
今後は、これまでのOEM生産を継続しつつ、靴のメーカーとして、人々の生活をより豊かにできる自社ブランド製品を開発していきたい。
それらの自社直売ECを含めた小売は、当社にとって始まったばかりの新たな事業分野であるが、今後、現事務所隣接のショールームを改装し、工場併設のファクトリーショップへと整備していきたい。工場併設とすることで、製品をつくるスタッフ自身がお客様に直接応対し、自社工場で自分たちが製造した商品への評価やニーズに直接触れる機会が生まれる。開発や生産へのフィードバックももちろん期待されるが、それ以上に、お客様の大切な一足一足を作っていることを私たち自身が、より実感できる何よりの場となるはずである。
ファクトリーショップは一つの拠点にはなるものの、販売機会の創出という観点からは、各地でのフィッティングイベントやポップアップ販売、卸販売の開拓などに注力していく必要がある。さらに、それらイベントも含め、お客様にとっては、届かない情報は存在しないのと同じであるので、心を込めて製造した商品をお客様に手に取ってもらうチャンスをつくり、広げていくため、社内外の力を集めて情報発信の体制も徐々に整えていきたい。自社ブランド品の小売展開という新たな事業を、多面的に同時進行で進めていくことで、当社にとって新たな事業領域を開拓していきたい。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ユーイーアイ
- Webサイト
- 設立
- 1998年10月27日
- 資本金
- 1000万円
- 従業員数
- 25人
- 代表者
- 加藤淳弥 氏
- 所在地
- 秋田県大仙市飯田字大道端40-14
- Tel
- 0187-63-8027
- 事業内容
- 紳士靴・婦人靴の製造卸、小売
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