経営支援の現場から

事業者の経営力再構築に向けた伴走支援を強化:さいたま商工会議所(埼玉県さいたま市)

中小機構と関東経済産業局は、地域の商工会議所等の経営指導員等を対象に、課題設定型支援実践研修(OJT事業)を令和6年度から開始した。
本事業では、地域の中小企業・小規模事業者を支える商工会議所等の経営支援機能の強化を目的にプロセス・コンサルテーション型の支援手法の習得を目指している。
習得した支援手法を活用し、支援先企業が本質的な課題に目を向けられるよう「対話と傾聴」を通じて経営者の気づきを促し、経営者自らが変革への道筋を立てることをサポートする。本事業に参加した商工会議所等ではどんな気づきを得たのか。その取り組みを紹介する。

2025年 4月 14日

約1万2000件の会員数を有するさいたま商工会議所の経営指導員
約1万2000件の会員数を有するさいたま商工会議所の経営指導員

人口130万人超の政令指定都市・さいたま市を所管するさいたま商工会議所は今、「伴走支援の強化」に乗り出している。2024年には関東経済産業局などが実施するOJT事業に参加。経験豊かな経営指導員と若手がペアになる“W(ダブル)支援”を進め、事業者に示した改善提案を納得してもらうことに成功した。

商工会議所が合併して設立 ドイツの商工会議所と連携も

2024年に20周年を迎えた
2024年に20周年を迎えた

埼玉県の県庁所在地・さいたま市は2001年に浦和、大宮、与野の3市が合併して誕生した(2005年に岩槻市を編入)。同市の誕生に伴い、浦和、大宮、与野の3商工会議所が2004年に合併し、さいたま商工会議所が設立された(2006年に岩槻商工会議所を編入)。2024年に設立20周年を迎え、さらに前身の浦和商工会の設立からは130年を超える歴史を有する。会員の事業者数は約1万2000件にのぼる。

特徴的な支援事業のひとつが「広域ビジネス交流会」。事業者の販路開拓に向けた会員交流・異業種交流を進めるのが目的で、新たな人脈づくりや情報交換の場として活用されている。また、海外展開の支援では2024年7月にドイツのニュルンベルク商工会議所と経済連携に関する相互協力のための覚書を締結。両者の会員同士による輸出入の支援や、両地域の伝統産業に関連した新たな事業の創出を図っていく。

中期ビジョンに掲げる「伴走支援の強化」 OJT事業に参加

さいたま商工会議所の支援ツール
さいたま商工会議所の支援ツール

さいたま商工会議所が特に力を入れる支援策が伴走支援である。2024年度にスタートした第6次中期ビジョンでは、『「ビヨンドコロナ」時代に即した経営力再構築に向けた伴走支援の強化』を活動方針のひとつに掲げている。コロナ禍では補助金など資金面のさらなる支援を求める事業者が見受けられた一方で、ピンチをチャンスと捉えた事業者が新規事業など事業の再構築に向けたアイデアを実現したいと考えるケースもあった。同商工会議所では「新しい事業の方向性を見出したいと考える事業者を支援していくには、定期的な訪問やヒアリングを通じて深く入り込んだ伴走支援が必要」と判断。浦和、大宮、与野、岩槻の4支所等で合わせて27人いる経営指導員はそれぞれ数社を担当して伴走支援に乗り出している。

そんな折、関東経産局と中小機構関東本部が管内の商工会議所を対象にして課題設定型支援の実践研修(OJT事業)を行うことになり、さいたま商工会議所では「実践する機会が得られる」として参加した。研修では、経験豊富なベテランの経営指導員と若手・新任の経営指導員がチームになって事業者を支援することになっており、研修を通じてベテランから若手へノウハウを伝えることも期待された。

若手と管理職による“W支援” 課題解決へ5つの改善提案

27人の経営指導員が支援にあたる
27人の経営指導員が支援にあたる

事業の対象となる支援先には、従業員数などをもとに、大宮支所在籍の若手経営指導員が担当する株式会社blanc loutus(ブランロータス)が選定された。同社は主にブライダル用のへアメイクや着付けを中心に事業を展開していたが、コロナ禍で業績が落ち込み、回復も遅れていた。担当の経営指導員は「代表者(和田早織氏)はやる気があり、いろいろなアイデアを持っていた。それらを整理して方向性を打ち出していくお手伝いをしたかった」と話す。そして、20年以上の経験を有し、管理職でもある浦和支所の経営指導員が加わった“W支援”を実施。2024年6月に同社を訪問し、伴走支援が始まった。

2人の経営指導員は8月までに計4回訪問し、和田氏の話に耳を傾け、対話によって和田氏の思いを掘り下げていった。その結果、同社が目指す「将来なりたい姿」として▽コロナ禍前の売上高に戻す▽経営の安定化▽従業員の活躍の場の提供-の3点が浮かび上がった。これを受けて経営指導員は「経営数値の管理徹底」と「受け身体制から攻めの体制への変革」という二つの課題を設定。さらに、その課題解決に向けた改善提案を和田氏に提示した。

まず「経営数値の管理徹底」については▽固定費の見直し▽キャッシュフロー表の活用▽人件費のKPI(重要業績評価指標)管理の徹底-の3点。一方、「受け身体制から攻めの体制への変革」については▽LINEメッセージを活用した営業活動▽BtoC事業として、ブライダル写真撮影以外のへの新たな取り組み-の2点を提案した。今後は提案内容の実行に向け、傾聴と対話を続けながら、同社の事業展開を見守り、伴走型支援を継続的に行いたいとしている。

ノウハウを若手に伝え成長を実感していきたい

伴走支援の強化を掲げるさいたま商工会議所
伴走支援の強化を掲げるさいたま商工会議所

OJT事業の実践研修を通じて経営指導員はいくつかの気づきを得た。経営者と関係を構築することの重要性(信用力)や傾聴と対話の重要性(コミュニケーション力)、多角的な視点で行う質問の重要性(チーム力)、そして、本質的な課題を引き出す重要性(支援力)だ。そして、2人1組で行った“W支援”は、特に若手の経営指導員にとって貴重な経験になった。「通常は担当の経営指導員ひとりで行う“侍支援”が大半。今回、経験豊かな先輩と一緒に取り組んだことで、訪問前の準備や質問の仕方など多くのことを学ぶことができた。この経験を今後の支援業務に生かしていきたい」と意欲を示す。

一方、管理職の経営指導員は「日頃から若手の経営指導員をどう育てていくかに重きを置いている」と自身の考えを強調。実際、在籍する浦和支所では着任した3年ほど前から“W支援”を実践しているそうで、「ひとりでは不安な気持ちになりがちな若手もベテランと一緒だと安心感を得られ、経験を積むことができる。自分が持つノウハウを若手に伝えていき、成長を実感していきたい」と話す。若手経営指導員の成長・自立をサポートしていくこと。やがて、それが事業者に対する支援業務の充実につながっていく。

支援企業を訪問

数字や問題点を明確に 時代の変化に負けない会社を目指して 株式会社blanc loutus(埼玉県さいたま市、和田早織代表取締役)

ブライダル事業を展開するblanc loutus。代表取締役の和田早織氏(前列右)とスタッフ
ブライダル事業を展開するblanc loutus。代表取締役の和田早織氏(前列右)とスタッフ

株式会社blanc loutus(ブランロータス)は、屋号「Julietta rooms(ジュリエッタルームス)」として、ブライダル事業を展開し、その最前線で活躍している。事業内容は、ヘアメイク、着付けの専門(「着物の柄合わせ」や「家紋」を魅せる着付け技術等)サービスの提供、衣装レンタル、婚礼前撮り撮影、成人式・卒業式前撮り撮影等を中心に事業活動に取り組んでいる。

代表取締役の和田早織氏は、美容専門学校を卒業後、美容業界での様々な経験を積み、2009年に独立。2012年には法人化し、ブライダル業界に身を投じた。結婚式のスタイルが変わりつつある昨今、当時の結婚式のあり方としてゲストハウス方式が増加、多様なニーズに応えるべく、ヘアメイクや着付けを提供するサービスで結婚式場との関係を構築し、現在の会社を築いてきた。

現在は、9人のスタッフと外注先のスタッフとともに、顧客からの信頼を集めている。企業向けサービスに加えて、一般顧客が直接同社へオーダーして対応する衣装レンタルやヘアメイクサロンも運営。多様性の時代に合ったサービスで、顧客満足度につながる事業を展開している。

着付けなどのサービスを提供する
着付けなどのサービスを提供する

しかし、コロナ禍をきっかけに売り上げが低迷。そんな折、小規模事業者持続化補助金を申請したことなどを通じて繋がりのあったさいたま商工会議所に相談するなかで、課題設定型の伴走支援を持ち掛けられた。「コロナ禍で先行きが見えず不安であったため、良いタイミングで声をかけていただいた」と当時を振り返る和田氏。

課題設定型事業を応諾したことにより、2024年6月から同商工会議所の経営指導員が訪問。訪問を重ねるなか、和田氏の「将来なりたい姿(目標)」のひとつとして、コロナ禍前の売上高へ戻すことが目標として掲げられた。「ブライダル業界は、コロナ禍の影響が長引き、BtoBだけでの上積みは難しい」(和田氏)としてBtoC事業を強化することとなった。具体的には、結婚式場を経由せず、顧客の依頼を自社ホームページ等から直接受けるとともに、ブライダルだけでなく、様々なライフイベントへ本格的に事業活動を広げることとした。

多くの衣装を取り揃えている
多くの衣装を取り揃えている

事業展開を進めていくうえで必要となるのが経営の安定化であった。「コロナ禍で資金もなくなりつつあり、新しいことを始める余裕がなかった」と和田氏。さらにコロナ禍に借入した融資の返済も始まり、資金繰りが大変であった。「将来なりたい姿(目標)」に向けて、支援にあたった経営指導員からは、固定費の見直し等の改善提案が示された。「いつかはやらなければならないと自分でも分かっていたが、どのタイミングで踏み出せばいいのか判断できずにいたのが実情。(経営指導員からの提示で)後押しをしてもらったようだ」と和田氏は話す。

一連の支援を通じて、和田氏は「(経営指導員には)親身になって話を聞いてもらい、大変ありがたかった」と感謝する。「当社の事業内容について一生懸命理解してもらい、そのうえで、私たちにとっては“痛い”と思える数字や問題点を明確に指摘してもらった。それが、頭で描いていたことを決断するきっかけにもなった」と和田氏。「今後も、経営革新計画策定支援や補助金申請サポート等の支援をお願いしたい」と意気込みを示す。

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