温泉熱はほかにも様々な方法で活用されている。昨年4月に設置したサウナルームでは床下に温泉の配管を通し、床暖房を併設。「サウナの電源を切っても床暖房だけで室温を50度に保てる。あとはサウナストーブでの加熱で80度に上げればいいので電気代を節約できる」という。また、地域の特産品「紅花(べにばな)たまご」を使った温泉玉子を温泉の熱で作っている。一見当たり前に思えるが、スーパーなどで販売されている温泉玉子は赤外線で作られており、他の温泉街であっても温泉で作られているとは限らない。「温泉玉子を作るには泉質や温度調整が難しい。当館の温泉はちょうどいい温度なので、正真正銘の温泉玉子ができる」という。一方、「紅花たまご」は山形県の県花であり紅色染料に使われる紅花を餌に混ぜた鶏卵で、出来上がった温泉玉子は、紅花と同様、黄身の色は濃く味も濃厚。宿泊客の食事に出したところ好評で、現在は館内とインターネットで販売している。
将来的には、トマトやイチゴなどの温室栽培や、上杉鷹山も手掛けたという、温泉からの塩作りなども検討したいという。「人類が火を作って以来、どう熱を生み出して使うかに知恵を絞ってきた。それを考えれば、人が使える熱である温泉には非常に大きな価値がある。生まれた時から当たり前のものとして身近にあったため、その価値に気づけなかったが、これから活用の道をさらに広げ、温泉の価値をいっそう高めていきたい」と遠藤氏は話す。
温泉熱の利用からは離れるが、バリアフリーにも積極的に取り組んでいる。「誰ひとり取り残さない」とするSDGsの理念に合致するもので、2014年以降、館内のバリアフリー化を順次進めている。きっかけは父親の死去。「亡くなる前、車椅子での生活となり、『旅行にも連れていけない』と家族であきらめた」。以来、車椅子利用者が泊まれる部屋を整備したり、車椅子のまま入れるサウナを設置したりと、宿泊客の要望などをもとに内容を充実させている。こうした取り組みが評価され、環境省、内閣府、総務省、経済産業省、観光庁の5省庁が後援する温泉地活性化プロジェクト「温泉宿・ホテル総選挙2022」では、全国500以上の宿泊施設の中でバリアフリー部門の2位に選ばれた。