農業ビジネスに挑む(事例)

「パティスリーポタジエ」野菜の魅力を発信する野菜スイーツ専門店

  • 野菜の味と砂糖の甘みを絶妙なバランスで表現する
  • ケーキ以外にも野菜を活かした製品を開発

イチゴの代わりにプチトマトが載ったショートケーキ「グリーンショート・トマト」。そんなスイーツがいま、都心の若い世代に話題を呼んでいる。東京・中目黒の洋菓子専門店「パティスリー ポタジエ」が開発・販売する国産オーガニック野菜を主素材にした手作りケーキと焼き菓子だ。

野菜を素地にしたパティスリー ポタジエのスイーツ

お客さまに喜んでもらえた野菜ケーキ

この専門店を運営するのは株式会社イヌイ。2003年にカフェレストランで創業、3年後の2006年に洋菓子専門店を開業した。カフェレストランの中心メニューは有機野菜を使った料理だったが、併せて野菜を使ったケーキを出してみたところ予想外に好評。そのキッカケについて社長の柿沢直紀さんは当時をこう振り返る。

「彼女を驚かせたいという男性からバースデーケーキの相談を受け、野菜を使って黄色いスポンジを緑色にすれば驚いてもらえるかな、と。やってみたら喜んでもらえて、それでケーキに野菜を使おうという発想になったのです。2004年のことでした。このバースデーケーキを注文されたカップルはその後結婚され、お子さんもいらっしゃって、いまとってもハッピーです」

ちょうどそのころ、柿沢さんは野菜の生産農家を訪問する機会を得る。生まれて初めて農業に触れ、食材についての思いが広がり、月1回、生産農家をレストランに招いて「食育」の勉強会をしたり、店の顧客を募って農作業の手伝いをするようなツアーもするようになった。

「料理にしてもケーキにしても、その素材は農業がベースです。野菜類、小麦粉、砂糖、卵、乳製品、ぜんぶがぜんぶ農業ベースです。なのにその肝腎なことに気づかず、消費者サイドのことしか頭になかった。それは間違いです。われわれも農業の人たちとともにある。それを痛感し、食というものを総合的に考える発想にいたったわけです」

現在の主な仕入先は、ベジファーム(栃木県壬生町)を筆頭に卵明舎(栃木県宇都宮市)、益子GEF(栃木県真岡市)、陽子ファーム(埼玉県所沢市)、ビオファームまつき(静岡県富士宮市)など。このほか自然農法販売協同機構(千葉県八街市)を通じて全国の野菜を取り込んでいる。もちろん認証がとれているオーガニック野菜ばかりだ。

絶妙なバランスのうえに成り立つ

野菜を素材として使ったケーキは世の中にあっても、その専門店はポタジエが世界で初めてだった。その後、各地に広がるが、まだその存在感は薄い。うまくいかず撤退したところも多い。そんな中で、なぜポタジエだけが成功したのか。柿沢さんはこう語る。

「野菜のケーキは難しいのです。野菜の味を強調しすぎるとあまりおいしくなく、ケーキ特有の幸福感が得られない。逆に砂糖の使用量を増やして幸福感を高めようとすると、こんどは野菜の魅力が消失してしまう。そのバランスに絶妙のポイントがある。そのブリスポイント(至上の幸福点)が見つけられないと、野菜のケーキは失敗に終わります」

これまで各商品に野菜の味の目安を星印の数で示してきたが、2016年4月以降は低糖質などヘルシー度合いをより明確にした表示に変える。

スイーツ以外にも野菜を素材にさまざまな食品を開発する。2015年夏には宮城県産大豆を原料にしたパスタを発売

野菜を原料にさまざまな製品を展開する

また、スイーツと焼き菓子に続く新たな取組みとして、大豆を原料とした食品の開発にも乗り出した。その第1弾として2015年夏に大豆原料のパスタを販売開始したところ好評で、店頭販売のみならず社食や学食向け販路も広がり始めた。

この商品のパッケージには英語を表記し、すでに海外展開を視野に入れている。年内には本格輸出を開始するメドをつけている。

現在、ポテトチップスの原料ポテトを大豆に代替した商品も開発中。健康阻害要因の大幅軽減を訴求して売り出す。

「この大豆は仙台でつくってもらっています。耕作放棄地の活用で、生産を増やしていく狙いですが、そのためには大豆原料の食品の開発や販路の拡大が前提で、将来を見据えた農業振興のお役に立っていきたい」

すでに秋田にも産地を広げた。生産農家と連携の柿沢さんの挑戦が続く。

企業データ

企業名
株式会社イヌイ(店名 パティスリー ポタジエ)
Webサイト
代表者
柿沢直紀
所在地
東京都目黒区上目黒2-44-9