あすのユニコーンたち

「高齢者が自分の足で歩く」をサポートするロボットを開発【RT.ワークス株式会社(大阪市東成区)】

2025年 3月 3日

藤井仁社長
藤井仁社長

日本は世界有数の長寿大国だが、介護などの必要がなく健康的に生活できる期間である健康寿命との差は、女性が11.63年、男性が8.49年(2022年時点推計)で、この差を縮めることが課題と言われてきた。RT.ワークス株式会社は、高齢者の歩行を支援する「歩行アシストロボット」の開発から製造、販売を手掛ける。足腰の弱った高齢者の歩行を支援して、外出の機会を増やしたり、自分で買い物ができたりすることで健康的な生活が送れる期間を少しでも長くすることを目的としている。本格的な高齢化社会を迎える日本にとって意義のある開発だ。

介護ロボットの黎明期から参加

苦労の末開発した初号機「RT.1」
苦労の末開発した初号機「RT.1」

同社は2014年6月に大手電機メーカーの生活支援ロボット事業をスピンアウトして設立した。藤井仁社長は前社で新規事業開発に所属し、介護ロボット開発に取り組み、初代社長の河野誠氏とともに、RT.ワークスを立ち上げた創業者メンバーの一人。新市場に踏み出すことに不安があったが、その時に後押ししたのが経済産業省と厚生労働省だった。当時から介護の現場は人手不足が深刻だった。介護にロボットを活用しようという機運はあったが、市場の将来性は未知数という状況だった。

経産省と厚労省はまず、介護ロボットの重点分野を策定し、介護ロボットの開発・導入を推進する開発事業に着手した。同事業では開発支援と同時に研究機関などによるコンソーシアムが形成され、介護ロボットの安全規格の策定なども実施された。RT.ワークスもこの事業に採択され、介護ロボットの開発を行った。安全規格と安全に関する仕様を同時並行でつくる作業に最初から参画できたことは大きかった。福祉機器メーカーはロボットの知識はなく、ロボットメーカーは福祉機器に求められる要素を知らなかった。互いに知らない分野がある中で手探りの策定作業だった。規格作りは、生活支援ロボットの国際安全規格「ISO 13482」の発行というかたちで結実した。一方同社の介護関連ロボットの開発は、コンソーシアムで試作品を披露して、ダメだしをされて、数か月後にまた改良して持っていくという作業を繰り返した。藤井社長は「最初は『介護業界を知らない電機メーカーが何しに来たの』という見られ方だったのが、だんだんと『結構やるなあ』に変わっていった」と当時を振り返る。最終的にコンソーシアムには同社を含む5社が残った。開発事業の採択決定がされた時に経済産業省の担当者に呼ばれ「本当に商品化する覚悟はあるか」と真剣なまなざしで問われた。「これは本気でやるしかない、『やります』」と返答した。そこから国の支援も本格的にスタートし、開発スピードが加速した。同時期に電機メーカーから分社化して介護ロボット専業メーカーとして独立した。経産省にとっても介護ロボット市場を立ち上げる中で、新会社が発足したことは産業政策としても好意的に受け止められた。

注目をあびた初号機

ロボット大賞中小企業庁長官賞を受賞
ロボット大賞中小企業庁長官賞を受賞

2015年に世界初の非装着型歩行アシストロボット「ロボットアシストウォーカーRT.1」を発売した。ISO 13482を歩行ロボットとして世界初で取得したものだった。外観は買い物カートを大きくしたようなものだが、複数のモーターが備えられており、上り坂ではモーターが路面角度と押す力に合わせて歩行を補助する。下り坂ではブレーキの役割を果たして安全に歩くことができるようになっている。2016年の「第7回 ロボット大賞」で中小企業長官賞を受賞し、「G7伊勢志摩サミット」でも展示されるなど、注目度は一気に高まった。当初から介護保険の適用は想定せず、元気な高齢者(フレイル)の市場をねらったが、予想に反して興味を示してくれたのは介護保険を前提にしたレンタル市場の事業者だった。ただ、RT.1には位置情報を示すGPSが装備されていたが、当時、通信機能があるものは介護保険の対象外だった。RT.1の市場価格は22万8000円。展示会に出品するとだれもが「すばらしい製品だ」と評価をしてくれるが、個人で購入するには高額すぎた。その後介護施設への導入補助金の対象製品になったことで、普及していったものの、期待したほどの成果を上げることはできなかった。

介護保険の認定を取得、普及段階へ

介護保険の認定を取得した「RT.2」
介護保険の認定を取得した「RT.2」

第二弾として2017年に発売した「ロボットアシストウォーカーRT.2」は、市場のニーズに対応するため、通信機能をはずした介護保険の適用を狙ったものとした。デザインもスタイリッシュなものにし、町中で歩行しても抵抗感なく使えるように配慮した。価格も11万8000円と大幅に引き下げた。RT.2は無事に介護保険の対象となったことから、普及は一気に広がった。同時に販路開拓にも取り組んだ。介護機器の流通は、買い取りよりレンタルが主流で、メーカーとユーザーの間に、レンタル卸業とレンタル会社が存在する。介護市場は地域ごとに強いレンタル卸がおり、それらのレンタル事業者が作成するカタログに載ることが介護施設やケアマネージャーに商品を選択してもらうためには必須条件だった。「こうした福祉機器ならではの売り方も最初は分からず苦労した。今になってようやく分かってきた」(藤井社長)。RT.2は年間1500台を販売する。コンソーシアムから派生した介護ロボットメーカーは5社いたものの、電動歩行器メーカーは現状では同社1社のみになっている。

モジュール販売や受託開発事業

展示会で製品やモジュールをアピール
展示会で製品やモジュールをアピール

同社が歩行アシストロボットの開発を進めていることが世の中に知られるようになると、さまざまな企業から、共同開発や委託開発の要望が寄せられるようになった。アシストロボットの開発を通じて、アシスト制御アルゴリズムやセンサー、モーターの仕様などをすべて自社開発しており、そうした要素技術が市場で評価されるようになっていた。例えばこれまでに、パラマウントベッド株式会社のベッド設置式リフトの昇降ユニット、株式会社をくだ屋技研の油圧式昇降台車のアシスト機能ブロックの開発を同社が担当している。同社は受託開発や電動アシストのモジュール販売を事業として行うこと体制を整え、さまざまな市場のニーズに対応していく考え。アシスト制御ユニットを始め、車輪駆動モーター、グリップセンサー、ハンドルユニット、バッテリーパックなどのモジュール商品を提供している。歩行アシストロボット事業単体から領域を拡げることで、経営の安定化にも結び付けていこうとしている。

元気な高齢者をターゲットに新商品を投入

元気な高齢者もターゲットに開発した「RT.3」
元気な高齢者もターゲットに開発した「RT.3」

同社はRT.2の進化モデルとして、「ロボットアシストウォーカーRT.3」を2023年9月に発売した。狙っているのは、元気な高齢者だ。「介護保険を否定するつもりはないが、介護保険を使う前の段階で、RT.3を使って自分で歩く生活を楽しんでもらいたい」と考えている。価格は14万9000円。個人でも購入できるぎりぎりの価格帯を設定した。歩行のアシスト機能に加えて、後輪の幅を広くして足もとをすっきりさせ、新たに累計の歩行距離がわかるようにするなど、歩くことに意欲が出るような工夫を施している。藤井社長は町で同社のアシストウォーカーを使っている人を見かけると、そっと後をつけていくのだという。「元気に町を歩いて、駅の改札を通って出かけていく姿を見ると本当にうれしくなる」。自分の足で歩くことで、健康寿命を1日でも長くする。同社の挑戦はこれからも続く。

企業データ

企業名
RT.ワークス株式会社
Webサイト
設立
2014年6月2日
資本金
9,000万円
従業員数
10名
代表者
藤井仁 氏
所在地
大阪市東成区中道1丁目10番26号
事業内容
生活支援ロボット関連技術開発、製造、販売